節約の美徳が生む“管理組合の貧困”

会計・資金長期修繕計画
節約の美徳が生む“管理組合の貧困”

「節約」と「倹約」──どちらも同じ意味に思えるが、実は大きな違いがある。

辞書によると、まず倹約は「費用を切り詰めて無駄遣いしない」とあり、節約は「無駄を省いて切り詰める」とある。つまり倹約とは、お金の無駄を省くことであり、またそれを拡大し解釈すれば「貯め込んだお金はここぞという時に投資する」ということにつながるのだろう。一方節約の解釈といえば、お金だけでなく、なんでもかんでも切り詰めることに本意があるともとれる。

たとえば「電気や水道を節約する」とはいうが、「電気や水道を倹約する」とはいわない。「あれが欲しかったけどお金”を節約して買わなかった」という言い方にはなるが、「あれが欲しかったけど倹約して買わなかった」というと、国語的には正しいはずだ。

この“美徳”ともいえるこれらの単語、正確には、なんでもかんでも切り詰める“節約”の方ではあるが、マンションの管理組合に呪縛のように取りついてしまって、その結果、“貧困”をもたらしているのでは?と思うようなケースに出くわすことがある。

長期修繕計画などへの節約発想が招く、将来へのツケ

修繕積立金を値上げすることは大変だ。

当然ながら個人の負担が増えるのだから、合意形成やその根拠をしっかりご理解いただけないことには、はじまらない。輪番制で仕方なく引き受けることになった理事長なら、住民の不満が爆発するかもしれない修繕積立金の値上げの総会議案は、できることなら来期以降の理事長にバトンタッチしたいと思うはずだ。
とはいえ、3年後に控えている大規模修繕工事の費用が足りない状況だったらどうしよう。
積立金を値上げし、資金が貯まるまで工事を多少先延ばしするなど、思い切った方針を示さなければならないタイミングにもかかわらず、判断をせずに来期以降に委ねる。次の期も、また次の期も、そんなバトンタッチが続き、本来、修繕積立金を増額して貯めるべき“お金”を節約してしまう。結果、劣化は進み、建物は限界性能を超え、工事費用はかえって増加してしまう。お金が不足し、費用は増加するという、そんな“貧困”の呪縛に陥るケースもあるのではないだろうか。

ここ数年、工事コストは上がり基調だ。東日本大震災以降、そして東京オリンピックの建設ラッシュで職人が不足し、とりわけ仮設足場のコストは震災前と比較し2倍以上にもなったと聞く。分譲当時に売主が作った長期修繕計画のままで、管理組合として見直しをかけていないのなら、工事費用が足りなくなるのは当然だ。しかし、意外と多いケースは、長期修繕計画の見直しをせず、また根拠なく修繕周期をずっと先送りしたり、工事範囲を削除し工事費用をカットしたりで、現在の積立金で何とかなることにしてしまうという、無責任な節約術に心当たりはないだろうか。これも節約という“美徳”が生んだ“貧困”といえよう。

1回目の大規模修繕工事でそのことに気付けたら、まだ手の打ちようはあるだろうが、30年・40年と呪縛から逃れぬまま、建物と人の“2つの老い”を迎えてしまったら、住まう魅力の乏しいマンションになってしまうことは間違いない。

管理費の節約策とは?なんだろう

前述のようなことにならずに、修繕積立金を増やし資金を確保しようという前向きな話を重ねてきた管理組合も多数ある。その場合、まずは管理費での支出を抑え積立金に回すために管理費会計の“節約”議論は多くなされたことだろう。
管理費会計の節約策をいくつか挙げてみよう。
電気代は、節電ブレーカーや高圧一括受電、また電力自由化に伴い、より安い電力会社との契約見直しが最近のトレンドだろう。
たとえば、マンション共用部分の電灯を省エネタイプのLEDに変更する。電気代を浮かせて15年程度で工事にかかった費用を回収できるなら、6%を超える効率の良い投資ともいえる。エレベーターのメンテナンス会社をメーカー系から非メーカー系に変更する。また、フルメンテナンスからPOG(partsoilandgrease=消耗品の交換は含まれるが、その他部品の交換や修理は別途費用が発生する契約形態)に変更し、メンテナンスコストを抑えるなども、よく行われている節約策だが、後々の修繕費用との兼ね合いも考慮しなければ、かえって費用が増えるケースもありえる。

今までは、管理会社の見直しもよく議論されてきた。管理会社に支払う管理委託費は、管理費会計の支出の6割~7割程度を占める場合もあるからだ。「安かろう、悪かろう」とまでは言わないまでも、とんでもなく安い管理会社に切り替えて、ついでに区分所有者から徴収する管理費も減額改定してしまったケースもある。修繕積立金に振替えれば良いものを個人が今まで支払ってきた管理費を減額してまで、貯めるべきお金さえも“節約”してしまったケースもあると聞く。
しかし、最近は管理会社側から管理委託費の値上げをお願いしてくる時代になってしまった。品質を求めるならいざ知らず、安さのみを求めて見積り比較を行おうとしても、大手はもちろん、その他、多くの管理会社がコンペに参加しない状態になったことは、申し添えておこう。

管理費会計を圧迫している要因とは

いずれにしても、なんらかの節約策でどうにかなるうちは良いのかもしれない。しかし、物事には限度はある。また、度を超えて追求し出すと、貯めるべきお金さえも節約してしまうという間違いも起こってしまう。

見過ごしてはいけないものは、管理費会計を圧迫していく要因の方なのだ。

①物価の上昇
少し長いスパンで話をしよう。今から30数年前にバブル経済が破綻した。破綻後、日本の経済は“失われた20年”と言われ、デフレ基調の経済になった。その後、ダメ押しのようにリーマンショックが襲ってきた。しかし、デフレ基調と言っても、この30数年間で物価は、7.5%も上昇しているということ。

②消費税
1989年に3%の消費税が初めて導入された。1997年には5%になり、2014年から8%に、そして、今は10%になった。
物価も、消費税も、確実に管理組合の管理費会計を圧迫している。合わせて17.5%の負担が発生していることになるのだ。

③保険
マンションの保険料は、最近では2019年に値上げされたが、2021年に再度値上げとなる。地域や築年、構造等級により上げ幅は異なるものの、管理組合の収支を圧迫していく要因の一つだ。

④空き駐車場の増加
マンション個別の話にはなるが、車離れによる駐車場の空き問題は、管理組合の収入そのものが、ダイレクトに減少してしまう一大事だ。交通の利便性の良い立地のマンションほど、また運転免許を返納するような高齢者が多く住まう古いマンションほど、車離れは進みやすい。マンションの機械式駐車場が半分も埋まらずに、年間で数百万円の収入を見込んでいたものがなくなる。使われていないパレット分にも点検費用が発生するというダブルパンチに見舞われることもある。

管理費会計が赤字に、さてどうなる?

いくら節約策を講じても、物価上昇、消費税導入、空き駐車場の増加という大きなインパクトには勝てずに、管理費会計が慢性的な赤字収支になってしまうことは大いにありうる。しかし、修繕積立金会計から拝借し続けて資金繰りをつなげていくのは論外だろう。

中には、貧困を呼び込むような節約策で、例えば植栽管理を植栽業者への発注はやめて手の空いた時に自分たちで枝を切ろうとか、必要最低限度の照明さえも間引きしてしまうなど、貧しく哀れな風体のマンションの姿も目に浮かんでしまうような話もある。
個人的には、管理費会計の資金繰りを考慮すれば、最低1カ月分以上の余力をもって、決算を迎えたいところだ。(1カ月分以上の収入分を繰り越し金にできる決算)

管理費会計が赤字になり、最悪、電気代が支払われなければ、2・3カ月で共用部分の電気は止められてしまう。管理委託費が支払われなければ、もちろん、管理会社も撤退することになる。水も使えず、エレベーターは停止し、夜間は真っ暗になる。マンションとしての機能は、完全に消失してしまうわけだ。建物の修繕を多少伸ばしてもここまでの話にはならない。管理費会計が赤字になるとは、マンションの死を意味するといっても過言ではない。

今は、管理委託費の値上げや管理業務を続けることのリスクを想定し、契約更新の拒否を管理会社側から管理組合に通達する時代だ。管理費会計にある程度の余力がなければ、管理会社からの値上げ依頼を受け入れることもできないし、管理費会計の赤字解消のためにより安い管理会社を探すのでは、あまりにも与信が心配になり、どこの管理会社もコンペに参加はしない。

貯めるべきお金さえも“節約”してしまうような、節約という“美徳”の“呪縛”に溺れ、“貧困”なるマンションになってはいけない。

おそらく、上述のようなマンションであれば、おそらく先を見越した管理費の値上げの検討は、まず行われていないと思う。例えば、築30年を超えたようなマンションでは、物価上昇(7.5%)+消費税(10%)+保険料の値上げなどを考慮すれば、最低でも20%以上は管理費を値上げし、管理費会計の収入を増やす努力が必要になったということなのだ。

管理組合が“貧困”になれば、管理組合をサポートする管理会社、また他のマンションに移り住むことができるような経済力を持つ区分所有者は、どんどんそんなマンションから離脱してしまう。最後には“貧困”の意味を解さない人たちだけが住まうマンションになってしまうということなのだ。

建物と人の2つの老いが、大きな悩みの種になる前に、貧困に陥らない管理組合の財務体質を築くこと。今一度、管理組合で考えてもらいたいと切に願う。

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丸山 肇
執筆者丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

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