第20回 マンションみらい価値研究所セミナー 「住民主体のエリアマネジメント  〜戸建て住宅地から学ぶマンションのこれから〜」

7月25日(木)、第20回となるオンラインセミナーが開催された。今回はゲストに株式会社プレイスメイキング研究所・代表取締役の温井達也(ぬくいたつや)氏をお招きし、「住民主体のエリアマネジメント〜戸建て住宅地から学ぶマンションのこれから〜」と題しお届けした。司会とナビゲートはマンションみらい価値研究所・所長の久保依子。ゲストの温井氏は、マンションと同じような管理組合を組成する戸建て住宅地を企画し、分譲後の運営サポートを実施している。マンションと戸建ては、対比され、よく比較対象となる。今回は、マンションと戸建て、双方の視点からより良いマネジメントについて対談した。

<ゲストPROFILE>

温井達也 株式会社プレイスメイキング研究所 代表取締役 社長

筑波大学芸術修士課程、環境デザイン修士課程在学中に筑波大学発のベンチャー企業として株式会社プレイスメイキング研究所を設立。大学卒業後に大手ハウスメーカーに就職。その後筑波大学人間総合科学研究科にて、アメリカの戸建て団地のマネジメントについて研究。計画的戸建て住宅地の新築時の企画・計画コンサルティングや竣工後の管理組合の運営に関わるなど、実務と研究の両面に取り組む。これまでに100ヶ所以上の管理組合立ち上げと、1000戸超の運営支援を行っている。

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冒頭で所長の久保は「戸建住宅にも管理組合があるというのをご存知でしょうか?実は戸建て住宅地でも管理組合を作り、管理費を集め、まちづくりをしているという事例があります。皆さんと同じように理事会や総会を開催したりしているのです」と視聴者に語りかける。それを手掛けているのが、ゲストの温井氏だ。まず、温井氏が現在の活動をするようになったきっかけについて、7年間のハウスメーカー勤務時代に、ハウスメーカー数社の住宅展示場の企画に携わった経験が大きかったという。

「当時勤務していたときは、各ハウスメーカー同士はライバル関係であるという認識でいたが、他のハウスメーカーの技術者から『家づくりだけではなく、まちづくりなんだ』と教えられ、意識が変わった」と語る。ハウスメーカーを退職後、一念発起で筑波大学在学時代の恩師がいる大学院で再び学ぶことを選択し、アメリカの住宅事情を研究したという。そこで知ったのが「ホームオーナーズ・アソシエーション(HOA)」。戸建て住宅においても分譲マンションと同じような管理組合を作り、マネジメントを行うシステムだ。

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アメリカで先進的な住宅団地の現地調査をした際、戸建て住宅地の景観も資産価値であるという考えが印象的だったと語る。温井氏が海外研究を始めた当時、今から約20年ほど前の日本ではまだそのような考えには行き着いておらず、ましてや戸建て住宅地のマネジメントなど考えられていない時代だった。これは日本でもやるべきだと考えた温井氏は、これまで研究してきたことを実践するために起業した。社名である「プレイスメイキング」は、和訳すると「居場所作り」。研究を通じて得られた知見をもとに、本格的にまちづくりに乗り出した。よって起業の真意は、管理会社を目指したのではなく、人々の居場所作りの仕組みを構築することだったと付け加えた。当時開業され、運行が始まった「つくばエクスプレス」の沿線開発に合わせ、つくば市周辺の住宅地開発から事業をスタートした。温井氏の会社である「株式会社プレイスメイキング研究所」は、現在も茨城県つくば市に所在する。起業直後は、順風満帆なスタートとはいかなかったと温井氏は語る。「戸建て住宅で管理費を徴収する」ということが当時は理解されなかった。美観を維持したり、資産価値を守るためには、共用物を持つ管理組合を結成し、協定を締結することが有益であると訴え続けた。その活動拠点に「つくば市」を選んだことは好機に働く。このエリアは「つくば学園都市」として知られ、研究者や大手メーカー勤務者が多く住むことから、アメリカで学んだ先進的な考え方の取り入れにも柔軟だったそうだ。

また、つくば市で戸建て団地の開発において、集会室の設置が求められたことも追い風になったという。2009年の「日本型HOA推進協会」の調査でも、「住宅地を選ぶ際、もっとも重視した点は?」の問いに対し、1位は通勤・通学の交通の便利さであり、2位は景観や街の雰囲気が挙がっている。日本の戸建て団地は年数を経ると、樹木が塀にされたりして、街並みが壊れていくことが多い。所有者全員から構成される管理組合は、美観を維持し、資産価値を守るために、戸建て団地でも有効であることを実感した。

ここで久保が「戸建ての管理組合方式は、既存の戸建て住宅でも導入できるのか?」と問うと、「実際それは難しい」という。やはり戸建て住宅地の分譲時に「管理組合」の説明をし、納得してもらう必要があるといい、あとから管理組合の結成をすることは困難であると語った。また、久保から「マンションの第三者管理方式のようなものはあるのか?」の質問に対しては「現状なく、むしろその点を教えてほしいと思っている」と、開発途上であることも明かした。温井氏は、戸建て住宅地においても分譲マンションのような管理組合結成の必要性は「ある」とし、アメリカでは当たり前の住宅のマネジメントのメリットを、日本においても浸透させることに精力を傾けている。今後、日本の戸建て住宅地においても、管理組合を組成し、将来の姿を想定してマネジメントの仕組みをつくる取り組みは広がっていくことだろう。

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