はじめに
車両保有人口の減少に伴い、マンションの駐車場の契約者数も減少傾向にあると言われている。契約者が減少すれば、当然ながら駐車場使用料は管理組合に収納されず、財政を圧迫することになる。
一方で、機械式駐車場は月々のメンテナンスコストや、一定年数を経過すると装置の入替えが必要となるなど、管理組合にとって維持費のかかる設備である。国土交通省「積立金ガイドライン」においても、機械式駐車場は別に修繕費を加算して算出することが示されているなど、機械式駐車場にかかる費用は管理組合の将来設計に重くのしかかっている。
こうしたことから、管理組合でも将来の維持費削減を目的として機械式駐車場を撤去する「平面化工事」を実施するケースが増加してきている。
当社の「マンション元気ラボ」でもすでにこの問題について取り上げており、多くの反響をいただいている。
>マンションみらい価値研究所>コラム>“金食い虫”、マンションの機械式駐車場をどうする?
機械式駐車場の平面化工事を実施した管理組合の総会議案書、議事録を紐解くと、その実施に至るまでの間には、管理規約を改正し、2台めを利用する住戸を募集したり、近隣住民への貸し出しなど、様々な対策が検討されている。平面化工事はそれでも解決に至らない場合の最終的な選択肢となっているようだ。理事会や専門委員会の苦悩がありありと浮かぶ議事録もあった。
今回はこうした機械式駐車場の平面化工事の実態について調査した。現在、機械式駐車場の将来について検討している管理組合の判断の一助になれば幸いである。
1.平面化工事の割合
当社受託管理組合(部会等を含む)のうち駐車場の有無が確認できる建物の総数3,994件について、分譲時に機械式駐車場の設置がある管理組合は2,039件(51.0%)であった。そのうち、機械式駐車場を平面化した建物は、298件、総数に対して7.5%、分譲時に機械式駐車場が設置されていた組合数に対しては14.6%に及ぶ(図1参照)。
すでに機械式駐車場の平面化工事は、特別な事例ではなくなってきていると言える。
なお、当社では日本全国に受託管理組合が存在する。例えば豪雪地(北海道、東北地方)などでは、分譲時に機械式駐車場が設置されるマンションは少なく、関東圏、近畿圏などの都市部に多く設置される傾向があることを付記しておく。
2.平面化工事の実施年
平面化工事を実施した298棟の工事実施年は、図2の通りである。2009年から始まり、2014年に急増し、その後も増加傾向にある(図2参照)。
今後もマンション居住者の「車離れ」が進むようであれば、この傾向は継続することが予想される。
3.平面化工事を実施した時期
平面化工事を実施した築年数(管理組合の「期」)では、第18期~第20期がピークとなっている(図3参照)。これは各メーカーから機械式駐車場の入替え工事が推奨される時期と概ね一致する。入替え工事に際しては、多額の費用が必要になるが、それをどのように捻出するかを検討するうち、撤去も視野に入り始めると考えれる。
また、第10期以前に平面化工事が実施されている管理組合も19件存在する。これらの建物のほとんどは、新築当時から駐車場が空きが多いという問題に直面している。10年といえば、機械としての耐用年数はまだ残されている。
分譲時から駐車場台数を減らすことができない理由としては、行政は、駐車場が不足して周辺道路事情に影響が出るなどの問題を生じさせないために駐車場付置率を定め、ディベロッパーはその付置率を守らなければならないためである。
昨今では管理組合が平面化工事の実施について行政に相談すると付置率を緩和していただけるケースも増えているようであるが、それでも行政との事前協議が難航し、総会決議にまで至っていない例もある。
4.平面化工事を実施した理由
総会議案書には、平面化工事を実施する理由の記載がある。最も多い理由は下記の2つである。
● 将来にわたり、多額のメンテナンスコスト、修繕費用がかかり、その削減をするため…97.6%・
● 駐車場の利用者が少なく、駐車場が必要ないため…93.6%
また、総会前に区分所有者に対してアンケート調査を実施し、その結果の詳細が掲載されている総会議案書も6件あった。管理組合ごとに調査項目が異なるためそれらを単純集計することはできないが、上記以外に概ね下記のような回答が多いことが認められる。
①マンション外の駐車場を借りている本マンションの居住者に対する調査
● マンション内の駐車場はサイズがあわないため、今後も借りる予定はない
● 過去に機械式駐車場の冠水事故※があり、地下部分には駐車したくない
②区分所有者に対する意識調査
● 国土交通省や経済産業省から公表された事故事例などから、安全性に対して不安がある
● メーカーの製造中止、部品の保管期間切れに伴う、将来的な機能維持に対して不安がある
①は、将来的にも契約者の増加が見込めないこと、②は安全性への不安という駐車場の存在の根幹にかかる理由であり、いずれもこれらのアンケート結果が平面化工事をしようとする判断に影響を与えているようである。
>機械式駐車場の冠水事故の実態については、マンションみらい価値研究所 国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業」激甚災害に物理的・心理的に被害をうけた実例」参照
5.平面化工事に反対する理由
平面化工事を実施した298件の管理組合も決して賛成意見ばかりであったわけではない。総会議案書、議事録には多くの反対意見の記載も認められる。反対意見の例は下記のようなものである。
①販売時に、1住戸1駐車場区画があると説明された。中古マンションとして販売するときに、駐車場区画数が少ないのは売買価格にマイナスに影響するのではないか。
②平面化工事よりも前に、周辺住民への貸し出しなど他にやるべきことがあるのではないか。
なお、①については、駐車場は専用使用権ではなく賃貸借契約であり保証されたものではないこと、売買価格は、多額の修繕費により積立金が高額となる評価とのバランスの問題であろうこと、②はすでに検討したが、駐車場サブリース会社から断られたり、周辺住民が敷地内に立ち入ることに不安があるなどの回答がされている。
また、平面化工事に伴い、駐車場台数が減る場合でも工事前に契約中の車両がすべて工事後も駐車できる場合は特段の問題にはなっていないが、工事後に車両がすべて駐車できず、一部の契約者はマンション外の駐車場に移動する必要がある場合に、反対とする意見が多く認められる。
この点については、下記のような解決策をとっている事例がある。
①管理組合が敷地外の駐車場場を借り、契約者に転貸する。(敷地外駐車場が敷地内駐車場より高額である場合は、その差額は管理組合が負担する。)
②敷地外の駐車場を借りた場合は、敷地内駐車場に空きが出た場合に優先的に使用できるとする。さらに、下記のような事例も1件ある。
● 管理組合を法人化し、隣接の土地を購入し、平置き駐車場として整備する。平面化工事後の駐車場とあわせて台数を確保する。(土地の購入費用と将来的な機械式駐車場にかかる費用を対比し、前者を選択)
こうした298件の平面化工事実施の実施事例の他、総会議案として上程されたが、否決となった事例は13件ある。管理組合にとって難しい決議であることは間違いない。
平面化工事に至らなかった管理組合では、その後の選択肢として、駐車場のメンテナンスを止めてしまい、使用しないとする選択をするケースもあった。
この場合、作動させない期間はメンテナンスコストが削減されるが、こうした状態が長期間続けば、おそらくは、機械を再作動させることは難しいと考えられる。いずれ、作動しない機械式駐車場をどうするのかが再度問題となるであろう。
6.平面化工事の種類
機械式駐車場を平面化するのは大きく3種類の方法がある(表1参照)。それぞれに特徴があり、マンションの構造上選択できない方法もある(表1参照)。また、地下ピットのない機械式駐車場は解体、撤去し、跡地を整地するのみで終了できる場合もある。
最も多く選択されているのは鋼板による平面化工事である(図4参照)。
また、敷地内に複数の種類の機械式駐車場が設置されている場合もあり、こうした管理組合では複数の方法も選択されている。
※「装置の入替え」とは、従前の装置から新装置に入れえたが、駐車可能な台数を減じた例
7.平面化工事後の利用状況
平面化工事を実施した後の平面部分の利用方法は、平置き駐車場として利用するケースが94.9%を占める(図5参照)。他に駐輪場などの用途と組み合わせて利用しているケースもある。
平面化に伴い台数が減少しても、工事前の契約者の駐車場を確保する必要はあることから、平置き駐車場とする必要が生じていると考えられる。
また、一般的に平置き駐車場と機械式駐車場では平置き駐車場の方が駐車場利用料が高く設定されている。平面化工事後の使用料についても、機械式駐車場利用者から値上げについて反対の意見が出されている。調査した298件では、値上げしたか、一旦は従来の使用料に据え置き、段階的に値上げする選択をしている。
8.機械式駐車場撤去率
例えば、3段式機械式駐車場を平面化すると、3区画分の平置き駐車場ができる。機械式駐車場としては9パレット分減少するが、駐車場としては6台分の減少となる(図6参照)。
機械式駐車場のパレット数に着目し、平面化工事後のバレットの残存率を集計した(図7参照)。
機械式駐車場の残存率が0%、つまり完全撤去した管理組合は30.5%である。残りの69.5%の管理組合は一部平面化工事としていることがわかる。不明のものを除く平均残存率は42.1%であり、平面化工事にあたり、半数以上のパレットは撤去されていることになる。
9.駐車場(総台数)の残存率
次に、機械式駐車場を撤去した後の平置き駐車場を含めた駐車場(総台数)の残存率を調査した(図8参照)。最も多いのが70%以上80%未満の残存率である。駐車場残存率の高さから平面化工事実施後も平置き駐車場として利用されていることがわかる。
10.考察
①行政やディベロッパーの皆様に向けて
機械式駐車場も鉄という資源を利用して建築されている。耐用年数が残る期間に撤去されている現状を「もったいない」と思うのは筆者だけであろうか。
分譲前に購入希望者へのアンケート調査や、ごく周囲の駐車場の空き状況などから、契約率を予想することはある程度は可能だったのではないか。契約率が低いことが予想されるマンションは、建築前であっても付置率の緩和が検討されてもよいのではないだろうか。
②平面化工事を検討している管理組合に向けて
マンションは居住者の生活スタイルや時代の変化により変化していかなければならない。その変化に応じた修繕工事は、多くの場合、原状回復工事であったり、新しい機能を追加する工事であったり、前向きな工事である。しかし、機械式駐車場の平面化工事は、多額の修繕費用の負担を削減する等、いわば後ろ向きな工事ともとらえることもできる。また、駐車場契約者の権利を確保する必要があるなど、区分所有者間の利害関係の調整も難しい。
こうしたことから平面化工事は、できることなら実施したくないという心理が働くものと推察されるが、それでも実施に踏み切る管理組合が増加していることは、いかにこの問題が深刻であるかの表れと言える。
管理組合に向けた情報の発信は、まだまだ少ないことから、とかく自己のマンションに起きた特有の出来事と考えがちであるが、すでに駐車場平面化問題を克服した管理組合も多い。本レポートにある事例を参考に検討が進めば幸いである。
③社会全体に向けて
マンションと「自動車」を取り巻く環境は急速に変化している。近い将来、電気自動車の普及により、どのマンションの駐車場にも当たり前のように充電器が設置されているかもしれない。カーシェアリングが今以上に普及しさらに駐車場は不要になるかもしれない。ドローンなど別の運搬手段が登場することで自動車に代わり、駐車場に代わりに新たにドローンポートが必要になるかもしれない。
カーボンニュートラルに向けて国民のライフスタイルの転換が進むと予想される中、マンションという社会インフラがそれらの変化にすぐに対応できるようにすることは、社会全体にとって有益である。マンションの駐車場に関する問題は、管理組合だけの問題ではなく、社会全体の問題のひとつとしてとらえていくべきだろう。
以上
関連情報 参考文献
>マンションみらい価値研究所>コラム>“金食い虫”、マンションの機械式駐車場をどうする?
>マンションみらい価値研究所>論文>平成28年度 国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業」 激甚災害に物理的・心理的に被害をうけた実例