区分所有法第45条 書面総会の実態 ~組合員全員の承諾や合意はできるのか~

マンションの法制度
区分所有法第45条 書面総会の実態 ~組合員全員の承諾や合意はできるのか~

1.ようやく出番のあった書面総会

 区分所有法第45条をもとにした標準管理規約第50条に規定のある「書面総会」は、区分所有者全員と連絡がとれることが前提の条文である。そのためコロナ禍以前は、新築マンションを除き既存の管理組合で利用されることはほとんどなかった。書面総会のハードルは高く「そんな面倒なことをするくらいなら集まって総会を開催しましょう」という意見が多かった。ところが、新型コロナウイルスの感染が広がった2019年以降、マンションにおいても大人数での集会を避けるようになり、対面での総会が開催しにくくなった。こうして書面総会が脚光を浴びることになった。コロナ禍を契機として、書面総会を開催するにはどうしたらよいかなどの問い合わせが増加したが、一方で実際に書面総会が開催された事例は、当社が管理を受託する約3,900組合中わずか9組合11議案に留まっている。
 今回はこの「書面総会」をコロナ禍で開催した9組合の事例についてレポートする。

2.既存マンションにおける書面総会の実態

 まず、書面総会を定義しているマンション標準管理規約第50条第1項と第2項を再度確認してみよう。

 マンション標準管理規約
(書面による決議)
 第50条 規約により総会において決議をすべき場合において、組合員全員の承諾があるときは、書面による決議をすることができる。
2 規約により総会において決議すべきものとされた事項については、組合員全員の書面による合意があったときは、書面による決議があったものとみなす。 
3 規約により総会において決議すべきものとされた事項についての書面による決議は、総会の決議と同一の効力を有する。
4 前条第3項及び第4項の規定は、書面による決議に係る書面について準用する。
5 総会に関する規定は、書面による決議について準用する。

 第1項では、「書面で総会を開催することに賛成する」ことと、「それぞれの議案について賛否する」という2度の承諾が必要になる。いわば、2段階の決議となる。実務上は、1枚の書面にこの2点を記載して同時に総会の開催承諾と決議の賛否をとることもある。(以下「第1項総会」という)

 第2項は書面で総会を開催することについての承諾はとらずに、いきなり書面を送付し全員の合意をとりつけようとするものである。いわば一発勝負の決議である。区分所有者のうち誰か一人でも反対したら否決となる。(以下「第2項総会」という)

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 書面総会を開催した管理組合は、第1項総会か第2項総会か、どちらの方法で開催したのであろうか(図1参照)。書面総会の開催事例はわずか9例ではあるが、開催方法は二分されている。

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 第1項総会、第2項総会ともに区分所有者全員の所在が明らかであること、全員から書面の回収が必要であることには変わりないが、1項は、書面決議を行うことのみの全員合意である。決議は普通決議・特別決議で行われることから、第1項総会のほうがハードルが低いといえるだろう。それでも第2項総会を選択する管理組合もある。
 なお、第2項総会を選択した4組合のうち1組合では、議題の内容が共用部分の処分に関する決議であった。つまり、もともと全員合意が必要な議案であるため第2項の書面総会を選択したものと考えられる。

 次に、それぞれの総会決議で議案は可決したのだろうか。9組合11議案について調査した(図2参照)。第2項総会での「一発勝負」の全員合意決議はやはり難しいことが分かる。

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 書面総会を開催しようとする管理組合は、全員に連絡が取れることが前提であるから、総戸数が少ないマンションではないかと想定していた。実際はどうであるか(図3参照)。

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 想定通り、40戸未満が7組合を占めるが、80戸以上の組合も2組合ある。100戸以上の開催事例はなかった。小規模なマンションのほうが書面総会を選択しやすいことはもちろんであるが、管理組合の状況によりそれ以上の戸数帯であっても開催は可能である。区分所有者の所在が確認できていることの重要性を再認識させられる。

 書面総会ではどのような議案が審議されているのか。コロナ禍でも総会を開催しなければならなかった事情があるのではないかと思われるため、緊急工事などの議題が多いのではないかと推察した。確かに、修繕工事の実施が2件、修繕積立金の取り崩しが1件あるが、長期修繕計画の承認など緊急とまでは言いきれない議題もあった(図4参照)。

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 書面総会が選択される理由は、緊急性の有無ではなく、全員の承諾または合意が得られるか否かに基準があるのではないだろうか。

3.新築マンションと第2項総会

 新築マンションにおいては、まだ分譲会社から引き渡しがされておらず、総会の開催ができない場合にこの第2項総会が利用される。区分所有者となる予定のマンション購入者に「引き渡しがされた場合は(停止条件付)、総会の決議があったものとする。」として、全員から書面を取り付けておく方法だ。
 引き渡しがされた当日にリアルで総会を開催することができれば、書面総会は必要ない。分譲会社によっては、引き渡しの当日に鍵の引き渡し会場で総会を開催している。しかし、区分所有者は鍵を受け取ると、荷物の搬入やら、カーテンの採寸やら、新生活への準備で忙しい。総会を開催しないですむなら、そのほうがいいと思う人が多い。
新築マンションの第2項総会の内容は次のようなものである。

〇〇マンション  管理に係る承認書
私は、〇〇マンション(以下「本マンション」といいます。)の売買契約に付帯して、次の諸事項を承認いたします。なお、本承認書は、「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」といいます。)第45条第2項で定める集会決議に代わる合意書面とします。

1.本マンション各専有部分が売主から最初の買主に引き渡され、本マンションの区分所有関係が発生した日に「〇〇マンション管理規約」(以下「本規約」といいます。)、「〇〇マンション使用細則集」(以下「本使用細則」といいます。)、「〇〇マンション管理委託契約書」(以下「管理委託契約書」といいます。)が発効すること。
2.本規約および本使用細則を原案のとおりとすること。
3.「長期修繕計画書」を原案のとおりとすること。
4.本マンション管理組合が、記名押印された本承認書を本規約第74条に定める本マンション規約原本と共に保管すること。
5.本規約による本マンション共用部分等に次の地震保険および特約を含めたマンション管理組合用火災保険を付保すること。
6.自らが暴力団、暴力団員、暴力団関係企業・団体、総会屋またはその関係者、その他反社会的勢力ではないことを表明し、今後もこれらに該当しないことを確約すること。

〇〇〇号室 区分所有者名

 新築マンションの場合、分譲会社が全員の住所、氏名、連絡先などを把握している。売買契約書の締結と同時に書面を取得すれば、全員合意の書面を取り付けることは容易だ。マンションを購入するという一大イベントのさなか、この書面に注意を払う人はあまりいない。
 また、合意したくない、という購入者が現れた場合は、事業主との契約が成立しない可能性もある。こうしたことから、新築マンションでは第2項総会が主流となっているのだろう。 

4.区分所有法制の改正に関する要綱案(案)における書面総会の取り扱い

 区分所有法を改正しようとする検討が進んでいる。その中で書面決議はどのように考えられているのだろうか。
 区分所有法改正のいわば「目玉」改正として、所在等が不明である区分所有者は決議の分母から除外することができるという規定がある。書面総会においても分母からの除外が予定されている。
 いままで、所在等が不明である区分所有者がひとりでもいると、書面総会は諦めざるを得なかった。法的手続きを経て分母から除外できるようになれば、書面総会の開催はしやすくなるだろう。ただし、裁判所の決定という高いハードルがあるため、開催数が劇的に多くなるということは考えにくい。

法制審議会-区分所有法制部会「区分所有法制の見直しに関する要綱案」より
 所在等不明区分所有者の除外決定は、所在等不明区分所有者及びその議決権につき、集会の招集の請求(区分所有法第34条第3項)、集会の招集(同条第5項)及び区分所有者全員の承諾又は合意に基づく書面又は電磁的方法による決議(同法第45条)の母数からも除外する効果を有するものとする。

5.書面総会のこれから

 書面総会はコロナ禍であっても、わずか9組合での開催にとどまった。コロナ禍がいつ収束するとも分からなかったときに、対面での総会の開催を回避するためにとられた手段は、書面総会よりもITを活用した総会の開催であったように思う。IT化が進められていく中では「書面総会」が活用されていくとは考えにくい。
 今後も書面総会は主に新築マンションの販売時に活用され、既存マンションで活用されることは少ないのではないかと考えられる。


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区分所有法第45条 書面総会の実態 ~組合員全員の承諾や合意はできるのか~[2.7MB]

久保 依子
執筆者久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業統括部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

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