1.全体傾向
宅配会社の人手不足、再配達により発生するCO2等の環境負荷の低減を目的として、駅等の公共施設内に宅配ボックスの設置がされたり、コンビニエンスストアでの受取りができるようにするなど、様々な対策がされはじめている。さらにコロナ禍によるインターネット通信販売需要の増加や対面による荷物の受領を避けるために宅配ボックスの注目度は増しているようである。
最も自宅に近いマンションのエントランス等には、どのくらいの割合で宅配ボックスが設置されているのだろうか。
当社管理受託マンション3,921件※のうち、宅配ボックスが設置されているマンションは2,775件、70.8%である。そのうち、2,677件、68.3%は新築時から設置されており、後付けで管理組合が設置したケースは98件、2.5%である。(図1参照)
※団地型等で管理組合が2以上あっても、エントランスが1であるものは1件とした数
2.築年数別の傾向
築年数帯別に設置率を調査したところ、築20年以下のマンションでは99%以上のマンションで宅配ボックスが設置されているが、築20年を超えると急激に設置率が低下する。ディベロッパーが標準的に宅配ボックスを設置するようになったのがちょうど20年くらい前からということであろう。築30年以上のマンションでは設置率が10%以下となる。
なお、築11年以上20年以下のマンションで宅配ボックスが設置されていない事例は、タウンハウス型など共用部分がなく、エントランス等の設置場所が存在しない配置のマンションである(図2参照)。
3.ラスト0.1マイルの理由
新築当初から宅配ボックスが設置されていないマンションで、総会にて宅配ボックスの新設を議案とした事例は112例ある。そのうち、98例で可決、14例が否決や決議せずに次期継続審議とされている。否決率は12.5%に及ぶ。感覚値ではあるが、他の工事関係の議案と比較して否決率は高いように感じる。
宅配ボックスから専有部分までのラスト1マイルならぬ、ラスト0.1マイルの間に存在する問題は何か。総会にて否決や継続審議となった14事例についてその理由を総会議事録や当社担当者へのヒアリングにより調査した(表1参照)。
費用に関する問題は宅配ボックスに限らず、どのような工事の審議においても問題となる。これを除くと在宅者が多く不便を感じないとする意見が多い。議案となったマンションは築年数が経過していることから高齢者が多いことが予想される。高齢者が多ければ、在宅率が高くなる他、宅配会社が宅配ボックスに荷物を配達した場合、専有部分までの荷物の運搬に不便を感じるであろうし、再配達をしてもらいたいという要望が多くなるのは当然のことと言える。マンションの高齢化と宅配ボックスの設置議案の否決は無関係ではないだろう。
また、総会運営に関する意見では、あらかじめどの程度の利用が見込めるのかをアンケート調査するなどするべきとしている。アンケートの結果、利用する入居者が特定の住戸である場合には、不公平があるとして設置すべきではないとする意見に通じている。
宅配ボックスの設置は「今あるものの修繕」ではなく「今ないものの新設」である。そのため様々な意見が出やすいことも確かである。理事会で充分な審議を尽くしてしたとしても、事前のアンケート調査などさらにきめ細かい調査が必要な議案と言えるだろう。
4.管理委託契約と管理会社の請負賠償責任保険
国土交通省「マンション標準管理委託契約書」では、管理員業務として次のような記載がある。
管理員業務(1)受付等の業務「三 宅配物の預かり、引渡し」
宅配ボックスが設置されていない場合、管理員に対して荷物の受渡しを要望される場合もある。しかし、管理会社が業務を請負う場合に加入する請負賠償責任保険では、万が一、管理員が荷物を破損、汚損し、管理会社に対して損害賠償請求がされても保険の対象とはならない場合もある。管理会社が加入できる別の保険でも担保されない。そのため、管理会社としては、マンション標準管理委託契約書に記載があっても、標準的な業務として宅配物の預かり、受渡しは引き受けられないという事情がある。
5.これからの宅配ボックスの普及のために
新築マンションではもはや「当たり前」のように設置されている宅配ボックスではあるが、新たな問題もまた発生している。
①長期不在者の荷物が置いたままとなり、引き取り手がいない。
管理組合と相談の上、荷物の差出人と連絡をとったり、緊急連絡先に連絡し、本人と連絡してもらったりする等の対応が必要となる。差出人にも本人にも連絡がつなかいこともある。
②宅配ボックスの数の不足
特定の時期に荷物が集中することがあり、ボックスの数が不足してしまう。再配達以外に対応方法はない。
③目的外使用
宅配会社ではなく近隣に居住する親族等の荷物の一時保管所として使用する等、本来の目的とは異なる利用がされることがある。
Withコロナにおける社会では、今後も宅配ボックスは社会課題を解決するためのひとつの手段としてクローズアップされていくであろう。現在は、「不在者」に対する利便性が強調されている感があるが、エントランスから専有部分までのラスト0.1マイルの荷物の運搬が困難な高齢者の存在や、管理組合という組織ならではの「公平性」という概念とどのような形でバランスをとっていくかが、今後、宅配ボックスが普及していくための鍵となるであろう。
以上