専有部分に立入りのある点検・清掃の実態

設備・清掃
専有部分に立入りのある点検・清掃の実態

1.はじめに

 専有部分に入室の必要のある主な点検や清掃として、消防用設備点検と雑排水管清掃がある。消防用設備点検は、外観目視点検と法定点検の年2回、雑排水管清掃は、管理組合により概ね年1回から2年に1回程度の頻度で実施されている。専有部分の中に設備や配管がありながら、共用部分として扱われていたり、管理費からその費用を支出したりするなどの点で他の設備機器点検や清掃とは異なっている。
 他に、特殊建築物定期調査や大規模修繕工事でも共用部分と一体となった専有部分内の配管を同時に実施する場合なども専有部分内に立ち入る必要がある。
 専有部分に立ち入るには、居住者に在宅していただく必要がある。在宅の協力が得られない場合、その住戸は未実施となる。
 消防用設備点検が未実施の場合は、火災などの緊急時に正常に作動しないなどのリスクが生じるおそれがある。雑排水管清掃が未実施の場合は、雑排水管のつまり、漏水に発展するおそれがある。いずれの場合も他の住戸に影響を及ぼしかねない。これらの点検・清掃はマンション全体にとっても必要不可欠である。
 これらの点検・清掃時にいかに在宅していただくか、実施率を上げていくかはどのマンションにとっても関心ごとのひとつであろう。今回のレポートでは、当社で消防用設備点検、雑排水管清掃を実施している約3,700棟のマンションにおいて、その実施率の傾向を分析した。
 日常の点検、清掃をいかに区分所有者の方々の関心を高くしていただくかを考えるきっかけになれば幸いである。

2.消防用設備点検

2-1 マンションの築年数と実施率

 マンションの築年数別に2015年から2021年までの消防用設備点検の実施率の推移をグラフ化した(図1参照)。1990年以前に建築されたマンションはおおむね90%の実施率で推移しているが、築年数が浅いマンションほど実施率が低いことがわかる。
 ただし、どの築年数帯であっても2015年以降、年々実施率が上昇してきている。
 つまり、築年数の経過とともに実施率は上昇するといえる。

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2-2 実施率に関する推論

 1980年以前のマンションと2015年のマンションを比較する場合、居住者の高齢化とともに在宅率が上昇していることも要因と考えられる。しかし、同じ築年数帯のマンションが年数の経過とともに実施率が上昇していくのは、築年数が経過するとともに、理事経験や管理組合活動を通じて点検や清掃への意識が高まっているといえるのではないだろうか。

3.雑排水管清掃

3-1 マンションの築年数と実施率

 マンションの築年数別に2015年から2021年までの雑排水管清掃の実施率の推移をグラフ化した(図2参照)。おおむねどの築年数帯のマンションでも、85%から90%という高い実施率で推移していることがわかる。消防用設備点検の実施率の平均推移が75%から80%であったのに比較しても雑排水管清掃の実施率は高い。

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3-2 実施率に関する推論

 雑排水管清掃は、「詰まりが解消される」「流れやすくなる」など、実施後にその効果を実感できる清掃である。こうしたことから、在宅時間を作ってでも実施してもらいたいという居住者の心理が働いているのではないだろうか。

4.消防用設備点検連続未実施率

4-1 マンションの戸数帯と連続未実施率

 マンションの戸数帯別に2015年から2021年までの間に消防用設備点検を2年以上実施していない連続未実施率をグラフ化した(図3参照)。
 この連続未実施住戸に仕事や家庭の都合で点検・清掃ができない住戸のほか、非協力住戸が含まれていると考えられる。
 おおむね、戸数帯が少ないと連続未実施率が高くなる傾向がある。

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4-2 連続未実施率に関する推論

 個別の事例を確認すると、連続未実施率が50%を超えるようなマンションには、東京都港区、中央区、新宿区に存する都心型のマンションや、専有面積が比較的小さい投資型のマンションが多い。これらは戸数帯が50戸未満のマンションが多い。こうしたマンションに影響されて戸数帯が小さいほど連続未実施率が高くなっていると考えられる。
 

5.雑排水管清掃連続未実施率

5-1 マンションの戸数帯と連続未実施率

 マンションの戸数帯別に2015年から2021年までの間に雑排水管清掃を2年以上実施していない未実施率をグラフ化した(図4参照)。
消防用設備点検と比較して、戸数帯ごとのばらつきは少なく、連続未実施率も低い。

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5-2 未実施率に関する推論

 2-2 実施率に関する推論で述べた通り、雑排水管清掃の連続未実施率が低い要因も、賃借人を含めた入居者が効果を実感できる清掃であるからであろう。

6.連続未実施率と外部区分所有者率

 前出の4-2 連続未実施率に関する推論で述べた通り、都心型マンションや投資型マンションに連続未実施住戸が多い。こうしたマンションは区分所有者が外部に居住し(以下「外部区分所有者」という)、賃借人が居住していると考えられる。
 そこで、消防用設備点検、雑排水管清掃と外部区分所有者率とを比較した。戸数が小さいほど外部区分所有者率が増加し、連続未実施率が高くなる傾向がある(図5参照)。
 以上から、全体的な傾向として、消防用設備点検より雑排水管清掃の方が実施率が高く、築年数が経過するほど実施率は上昇し、さらに外部区分所有者率が高いほど連続未実施率が高くなる傾向がある。

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7.実施率を上げるために

 消防用設備点検も、雑排水管清掃も、マンションの維持管理には欠かせない点検・清掃であることに異論はないであろう。では、この実施率をあげていくためにはどのような方策を考えればよいのだろうか。
 当社では、2017年に消防用設備点検の実施率をあげるために、管理組合と協力し、各支店にて様々な取り組みをした。一例を紹介しよう。
 ①前年度に未実施である住戸に対して管理員から個別に「本年度は実施してください。」というレターを投函
 ②管理組合から許可を得て、掲示板に各階ごとの前年度の実施率を掲示
 ③管理組合の目標として「本年度は〇%の実施を目指します。」と理事長から宣言をしていただく
 これらの工夫により、2017年の消防用設備点検の連続未実施率は低下している(図3参照)。しかし、2020年には上記のような特段の方策はとらなかったためか、実施率は下降に転じている。たとえ取り組みを継続していたとしても、消防用設備点検2回、雑排水管清掃1回、合計3回の掲示や呼びかけがあれば、次第に「慣れ」が生まれてしまうことも考えられる。
 実施率を高めるには、いかにこれらの点検を「自分ごと」として考えてもらえるかが重要であろう。雑排水管清掃のように「実感」が得られることのほか、管理組合活動に関心があれば、必然的に点検・清掃の重要性は理解していただけるようになるであろう。いかに賃借人にも点検・清掃をいかに「自分ごと」にしてもらうかは、日ごろの居住者間のコミュニケーションに頼らざるを得ないのかもしれない。

以上

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参考写真

専有部分に立入りのある点検・清掃の実態[0.4MB]

久保 依子
執筆者久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

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