管理組合の資金運用の実態について

会計・資金
管理組合の資金運用の実態について

1.はじめに

 管理組合の修繕積立金は、主に一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕を目的に毎月積み立てられている。管理組合の運営では、積立金という定額の収入が毎月である一方で、支出は数年単位で発生するものが多くを占めるため、多額の資金が存在する期間がある。また、管理組合が設立されたばかりであっても、管理規約に基づき、分譲時に組合員から徴収される一時金(修繕積立基金)が存在する場合もある。
 資金を使わない期間があれば、運用により資金を増やすことが可能だ。管理組合はどのような資金運用をしているのか。管理組合の資金運用の実態を調査した。

2.修繕積立金の運用実態

 当社が管理をする管理組合約4,000(分譲マンション以外にも、戸建管理組合も含む)の修繕積立金の運用先の実態を調査した。図1は件数ではなく、実際に預け入れている金額での割合である。
 修繕積立金の運用先として最も多いのが、67.1%を占める普通預金である。さらにその普通預金のうち、80.2%が決済用となっている。決済用普通預金は、無利息の金融商品であるが、預金保険制度により預金の全額が保護される。
 次に運用先として多いのは、21.3%を占めるマンションすまい・る債だ。住宅金融支援機構のマンションすまい・る債概要パンフレットによると、これは同機構が国の認可を受けて発行している利付10年債で、次のような特徴がある。
 ● マンション管理組合が行う修繕積立金の計画的な積立てや保管・運用をサポートするための債券。
 ● 2000年から募集を開始し、これまで2万を超える管理組合が応募している。
 ● 1口50万円から購入が可能であり、初回債券発行日から1年以上経過すれば、1口(50万円)単位・手数料無料で中途換金が可能である。
 ● 毎年1回で最大10回まで継続購入して積立は可能だが、1回のみの購入も可能である。
 ● 2021年度募集の10年満期時年平均利率は0.120%である。

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 それ以外で運用割合の多いものは、定期預金(定額貯金を含む)10.0%、積立マンション保険1.4%と続く。積立マンション保険は、積立機能を兼ね備えた管理組合向けの火災保険であるが、取り扱いのあった4社ともに現在では完全に販売を終了しているため、満期を迎えたものから減っていき、今後はやがて0になる。図2のように、「管理組合の修繕積立金会計 金額による運用先の割合」を2021年8月と2018年3月時点と比較すると、マンションすまい・る債、定期預金および積立マンション保険の割合は減少していることがわかる。

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 その理由としては、利率の低下があげられる。図3では、日本銀行の時系列統計データ検索サイトから出力した預入金額別の10年定期預金・普通預金の店頭表示金利の年平均利率と、別途、住宅金融支援機構パンフレットより転記したマンションすまい・る債の年度ごとの年平均利率をグラフにしたものである。2009年頃には0.5%以上あった定期預金の利率は、減少傾向となっている。2021年8月末日現在のメガバンクの定期預金の利息は0.002%(スーパー定期・大口定期/10年)である。仮に100万円を預け入れて、年利0.002%で計算すると、利息は20円という計算になりこれでは運用のメリットはほぼないと言える。
 ペイオフでは、預金保険制度に加入している金融機関が破綻した場合、1預金者あたり元本1,000万円までとその利息が保護される。その対策として、1つの金融機関に対して1,000万円を超える預金を避けようとすると、複数の金融機関において定期預金にする選択肢が浮かぶが、口座間の振込手数料や残高証明書発行手数料などの経費と受け取れる利息を比較すると、むやみに定期預金の数を増やすことは得策ではない。こういった背景があり、決済用預金の割合が増えてきているのではないだろうかと考える。

3.その他の証券による運用事例

 ここで図1において極めて少数派だった、その他の証券(マンションすまい・る債を除く。)による運用をしている事例に注目したい。該当する管理組合の数は、22組合であった。どういった金融商品での運用を選択しているのかを表したグラフが図4である。
 最も運用金額が多かったのは、利付国債である。利付国債で資金運用を行っている11組合のうち、9組合は満期が10年のものを、残り2組合は20年のものを選択している。利付国債は償還するまでに6ヶ月毎に利払い日が決まっており、毎回定額の利息が発生するため満期償還までの利息の金額が把握でき、また償還期限まで保有すれば、元本が保証される。ただし、満期以前に中途換金する場合は市場での時価売却となり、元本割れをする可能性がある。
 本調査の情報収集のため、財務省のホームページのうち国債のページを開いたところ、そこには「マンションの管理組合や法人の方におすすめです」というフレーズが書かれていた。メリットとして、「毎月発行」・「5万円単位で購入可能」・「ペーパーレスで安心」という言葉が並んでいた。

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 国債は、管理組合が購入できる金融商品のなかでは比較的、利率が高いと言われてきたが、令和3年6月に募集のあった10年の国債では、応募者利率は年0.036%である。財務省ホームページに掲載されている新型窓口販売方式による発行額の推移のうち、10年債の発行額と応募者利回りをグラフにすると図5のようになる。応募者利回りは2009年頃には1.2%を超えていたが、その後上下しながらも長期的には右肩下がりとなり、2016年2月以降は度々、金利水準等を勘案し発行の募集が行われなかった月もあるくらいだ。
 前述の11組合ではいずれも、国債だけの運用ではなく、マンションすまい・る債・定期預金・積立マンション保険など複数の金融商品を組み合わせた運用を現在も行っており、管理組合設立初年度から3年以内のうちに、普通預金以外の方法で運用を開始し今も継続しているという共通点があった(表1参照)。現在では、過去に購入済みの債券により、年数十万円の受取利息を計上していた。

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 表1にある事例4の組合を見てみると、利付国債以外に、マンションすまい・る債と定期預金を運用している。マンションすまい・る債は、前述のとおり、初回債券発行日から1年以上経過すれば、1口(50万円)単位・手数料無料で中途換金が可能であることから、マンションすまい・る債の利率が高かった頃に、同債券を購入上限額まで購入した(※2014年度までは修繕積立金の平均月額の要件があった)。さらに、それ以上の余裕資金の運用先として利付国債(10年)を購入している。10年先までは換金せずに運用できる金額と判断したのだろう。他にも2つの金融機関にて、ペイオフを意識してそれぞれ1,000万円を上限に定期預金を運用している。このように、長期修繕計画や資金計画をもとに、修繕積立金の支出が必要となる時期を見通し、各運用先の特徴を把握し、早い時期から計画的な運用を行っている。

4.現状のまとめと課題

 国土交通省が行う平成30年度マンション総合調査において、重複回答ありで集計した修繕積立金の運用先については、「銀行の普通預金」が78.7%と最も多い。次いで「銀行の定期預金」が48.2%、「銀行の決済性預金」が20.1%、「住宅金融支援機構のマンションすまい・る債」が15.5%となっている。それ以外では、積立マンション保険7.3%、国債1.0%、地方債0.4%、公社債0.4%、投資ファンド0.1%という数値が続く。これは図1および図2と異なり、預入金額ではなく回答をした管理組合数の集計結果であるが、いずれにしても管理組合が積極的な資金運用を行っているとは言い難い。
 さらに今回の調査では、これまで管理組合に重宝されてきた金融商品は、低金利の時代の影響を受けて、いずれも過去のような利息は望めない現状であることがわかった。運用を行えば、小規模な修繕工事費用であれば賄える程度に受取利息を手にできていた頃とは事情が変わってしまった。
 管理組合の資金運用では、元本割れをしない安全性を重視した運用が大原則である。これには、管理組合が営利目的の団体ではないことが根底にある。加えて、管理組合を構成する各組合員に専門的な金融リテラシーを求められないことや、災害などにより突発的に多額の支出が必要となる可能性があることなど、資金上の弊害が生じた際の責任問題も影響する。
 しかし、リスクの低い金融商品だけではこの低金利の時代に管理組合の資金は増えないため、修繕積立金不足の解消などの課題解決には役立たないことは明らかである。
 管理組合の資金は、区分所有法や管理規約により、その使途が限定されており、個人や企業などの団体の資金とは性格が異なる。こうした特徴をとらえ、預金以外の積極的な支援策、たとえば、大規模修繕工事に対する消費税を減免したり、収益事業を行う管理組合に対しては法人税を減免したりするなど、管理組合の資金形成に対する積極的支援が必要ではないだろうか。

以上

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大野 稚佳子
執筆者大野 稚佳子

マンションみらい価値研究所研究員。管理現場にて管理組合を担当する業務を経験後、マンション管理の遵法対応を統括する部門に異動。現在は、マンションみらい価値研究所にて、これまで管理現場にて肌で感じた課題の解決へつながる研究に勤しむ。

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