こんな規定もある!レアな使用細則 ~マスターキー使用細則、掲示板使用細則、拾得物取扱い細則など~

管理規約・細則
こんな規定もある!レアな使用細則 ~マスターキー使用細則、掲示板使用細則、拾得物取扱い細則など~

 今回は、調査した1,697組合の使用細則の中から、1組合または2組合でしか制定されていなかった使用細則を紹介しよう。いわゆる「レア」な使用細則だ。レアではあるが、内容を見ていくとマンションが置かれた状況が分かり、さまざまな「気づき」がある。また、ほかの使用細則への応用が考えられたりと、参考になるものは多い。

1.マスターキー使用細則

 マスターキーとは、その鍵が1本あれば、すべての施錠箇所を開けることができる鍵をいう。分譲マンションにおいては、共用部分をすべて開けることができるマスターキーが存在するマンションはある。しかし、専有部分をすべて開けることができるマスターキーはどのマンションにも存在しない。住戸のマスターキーがあるというのは、その鍵1本あれば、全部の住戸の玄関が開いてしまうということだ。防犯面を考えるとなんとも恐ろしい鍵である。
 しかし、賃貸マンションでは、いわゆる大家さんや不動産会社が厳重に管理することを前提に住戸のマスターキーが存在する場合がある。
 また、賃貸マンションをあとから分譲マンションとして販売するマンションもある。こうした場合、住戸のマスターキーが存在することになる。この取扱いは慎重にしなければならないことから、使用細則を定めている事例がある。

マスターキー使用細則
第1条       (趣 旨)
 この細則は、〇〇マンション管理規約第〇条(使用細則)の規定に基づき、管理組合が保管するマスターキーの使用について必要な事項を定める。

第2条       (定 義)
 マスターキーとは、〇〇マンションの各専有部分の玄関ドアに設置される鍵を開錠することができるものをいう。

第3条       (管理運用)
 管理組合は、マスターキーについてプライバシー侵害を犯さないよう十分な注意を払わなければならない。
 2. マスターキーについては、管理組合理事長が保管するものとする。

第4条       (マスターキーの使用目的)
 マスターキーについては、次の目的に限り、使用できるものとする。
 一       居住者の生命や財産に危険が及ぶか、及ぶ可能性のある場合
 二       マンション全体に重大な影響を及ぼす可能性がある火災・事故等に関する確認を行う場合
 三       犯罪等の発生により警察当局より要請があった場合
 四       行政処分もしくは裁判判決等に基づく競売等により、行政・裁判所等より要請があった場合
 五       その他、総会の決議による場合

第5条       (マスターキーの使用制限)
 前条第一号に定める場合のマスターキーの使用は、次の状況に限るものとする。
 一       玄関ドアの開錠を行おうとする専有部分の区分所有者もしくは占有者と連絡がとれない場合
 二       当該区分所有者もしくは占有者の親族等もしくは当該専有部分の管理の委託を受けた管理業者【以下、「区分所有者等」という】に連絡がとれたが、区分所有者等が特段の事情により対応が出来ない場合
 2. 前項によりマスターキーを使用した場合は、使用後速やかに当該区分所有者に報告するものとする。

第6条       (マスターキーの使用方法)
 マスターキーを使用する場合は以下の方法によるものとする。
 一       マスターキーを使用する場合は管理組合役員(1名以上)による立会いを行うものとする
 二       マスターキーを使用する場合に管理組合役員の立会いが出来ない場合、2名以上の立会いにより使用するものとする

第7条       (疑義及び細則外事項)
 この細則の定めに疑義が生じたとき又は細則に定めのない事項については、理事会に諮り処理することができるものとする。

第8条       (細則の改廃)
 この細則の変更又は廃止は、総会の決議を経なければならない。ただし、この細則の変更が規約の変更を必要とする事項であるときは、規約の変更を経なければ、することができない。

 実際に管理組合が鍵を預かっている事例について、私は上記の事例のほかに見たことがないが、マンション標準管理規約のコメントでは、管理組合が専有部分の鍵を預かることについて「考えられる」と肯定的に言及している。

マンション標準管理規約第23条
(必要箇所への立入り) 
第23条 前2条により管理を行う者は、管理を行うために必要な範囲内において、他の者が管理する専有部分又は専用使用部分への立入りを請求することができる。(中略)
 4 前3項の規定にかかわらず、理事長は、災害、事故等が発生した場合であって、緊急に立ち入らないと共用部分等又は他の専有部分に対して物理的に又は機能上重大な影響を与えるおそれがあるときは、専有部分又は専用使用部分に自ら立ち入り、又は委任した者に立ち入らせることができる。
 5 立入りをした者は、速やかに立入りをした箇所を原状に復さなければならない。

第23条関係 (第4項関係) コメント
 ② 第4項の規定の実効性を高めるため、管理組合が各住戸の合い鍵を預かっておくことを定めることも考えられるが、プライバシーの問題等があることから、各マンションの個別の事情を踏まえて検討する必要がある。

 新築分譲マンションや築年数の浅いマンションでは、管理組合が鍵を保管するのではなく、警備会社による「鍵預かりサービス」を利用するのが一般的である。しかし、こうしたサービスには月額使用料がかかる。「鍵預かりサービス」を利用するのが難しい状況にあり、かつ高齢者が多く孤立死が問題となっているようなマンションでは、今後、管理組合が鍵を預かるような運用も考えなければならないのかもしれない。

2.掲示板使用細則

 どのマンションにも掲示板はあるだろう。しかし、掲示板の使用細則は見かけたことがない。掲示板は共用部分であり、居住者が勝手に何かを掲示することはできないと考えることが適当だ。たいていの場合、暗黙の了解で、理事長や理事会に許可をとり、その内容についても常識的な範囲で可、不可の別が決定されていると考えられる。こうした「暗黙の了解」で運営されがちな共用部分について、あえて文章にすることで判断基準がより明確になる。輪番制で理事長になった区分所有者にとっては、判断基準の明確化はたのもしい拠り所になるかもしれない。

掲示板使用細則
第1条       (使用許可基準)
 掲示板を使用できる掲示物の許可基準は、次の通りとする。ただし、次に掲げる基準を満たしていなくても、管理組合理事会が掲示を許可すべきと判断したものについては特例により掲示を許可する場合がある。

 ①       管理組合からの通知
 ②       管理会社からの通知
 ③       管理組合が利用している各種サービス提供業者からの通知
 ④       管理組合が所属する自治会及びその関連組織からの通知
 ⑤       市や警察署、消防署等の公共機関(公共や防災の目的であれば〇〇市水道局、〇○電力㈱、〇〇ガス㈱、NTT等も含む)から掲示を依頼された通知文書、ポスター等
 ⑥       原則として居住者等が通学する公立学校の行事の通知
 ⑦       居住者等の葬儀の通知
 ⑧       居住者等の依頼で広くその親睦に役立つと思われる内容の通知
 ⑨       居住者等が不要品を無償で第三者に譲り渡したい旨の通知
 ⑩       幼稚園や保育園の営利を伴わない行事の通知のポスター等
 ⑪       公共目的のコンサートや演劇のポスター等

第2条       (使用申請)
 掲示板の使用希望者は、指定の申請書に必要事項を記入の上、掲示物の原本と共に管理組合に使用の申請をしなければならない。
 2. 申請は、管理室にて掲示開始希望日の1ヶ月前より受け付けるものとする。

第3条       (使用許可)
 掲示板の申請につき、申請の内容により、管理組合の理事長、又はその代理の理事が許可又は不許可の決定をするものとし、不許可の場合は申請者に対し、その通知をするものとする。
 2. 使用を許可する場合でも、掲示物のサイズ、配色、記載内容等、申請内容の一部変更を求める場合がある。
 3. 指定掲示板の使用を不許可とする例として、次のものを掲げる。
 ①       企業等が大規模に行う販売会、展示即売会等に類する営利行為の通知
 ②       企業等の求人を目的とする通知
 ③       内職等の募集を目的とする通知
 ④       私立の学校、幼稚園等の児童、生徒、学生或いは園児の募集を目的とする通知
 ⑤       公的目的でないコンサート、映画、演劇等の通知
 ⑥       宗教、政治、思想等に関する通知
 ⑦       特定の居住者等に利害が生じる恐れのある通知
 ⑧       不要品を第三者へ有償で譲渡を希望する旨の通知、又、有償無償を問わず譲り受けたい旨の通知
 ⑨       掲示物の基準を満たしていても、掲示するに耐え難い内容の通知、又は公序良俗に反する内容の通知

第4条       (使用期間)
 掲示板の使用期間は、許可日(目安として申請日の3日後)の翌日を初日とし、原則として3ヶ月を限度とする。ただし、使用期間は、その内容及び目的等の事由により、延長を許可する場合がある。

第5条       (使用料)
 掲示板の使用料は、原則として無料とする。

第6条       (容認事項)
 掲示板以外の次の場所の全て又は一部に掲示することを許可する場合がある。
 ①       建物内のエレベーターかご内
 ②       当マンション内のガラス面及び壁面

第7条       (使用規則の改廃)
 本使用細則の改廃は、管理規約第〇条に定める総会において出席組合員の議決権の過半数で決するものとする。

(附 則)
第1条  本使用細則は、〇年〇月〇日の第〇期定期総会において承認された時点より効力を発するものとする。

3.拾得物取扱い細則

 拾得物の取扱いには、各種法令が絡んでいる。特に気を配らなくてはならないのが「現金」とそれに類するキャッシュカードなどだ。居住者は拾得物があると管理事務室に「これ、落ちていました」と持参してくることが多い。届出をした居住者はよいことをした、という気持ちになるだろう。

 しかし、現金などの貴重品類については、管理員が預かることができないこともある。こうした場合に「お預かりできません」という一言が、善意の人を怒りに導くこともある。おおよそ、拾得物については管理会社が対応マニュアルを設け、管理員に対して対処方法をレクチャーしているケースが多い。この事例では、管理会社ではなく、管理組合が拾得物の取扱いについて規定している点が珍しい。

拾得物取扱い細則
第〇条 (拾得物)
 拾得物に関して、下記事項を遵守して下さい。
 (1) 現金、クレジットカード、貴金属、その他の貴重品は拾得者が直ちに警察署に届け出て下さい。
 (2) 貴重品以外の拾得物は倉庫にて保管することとし、拾得物リストを掲示板に掲示して下さい。
 (3) 貴重品以外の拾得物を確認・引取りをする場合、理事長もしくは管理人の立会いのもとで行って下さい。
 (4) 貴重品以外の拾得物を拾得してから3ヶ月を経過したものについては、理事会承認後処分して下さい。

4.ストーカー行為禁止細則

 かなり特異な事例であるが、このマンションでは居住者の中に迷惑行為を繰り返す人がいたようである。単に迷惑行為を中止せよという要請をするだけでなく、警告をするために使用細則の制定をしている。
 管理規約や使用細則の規定に違反している場合、たとえこの後に管理組合と区分所有者の間で訴訟になったとしても、管理組合側がきちんと迷惑行為に対処しようとしていたという履歴となると考えられる。本件はストーカー行為の事例となるが、特定の区分所有者の行動に問題がある場合、こうした使用細則を定めることも有効だろう。

(禁止事項)
第〇条 居住者は〇〇県迷惑防止条例第〇条(つきまとい行為等の禁止)に該当する行為を行ってはならない。該当した場合は、管理規約第〇条に基づき必要な措置をとることができる。

 レアな使用細則であっても、それを制定するまでの間、理事会や総会での協議など、人と時間と手間をかけて審議が進められている。理事会の議事録などを紐解くと、理事会に寄せられた居住者からの意見や悲鳴にも近いクレームなどが赤裸々に記載されていることもある。解決のための理事会の苦悩もひとかたならぬものがある。

 こうやって多くの協議を乗り越えてきた管理組合の結束は固いものになるだろう。

こんな規定もある!レアな使用細則 ~マスターキー使用細則、掲示板使用細則、拾得物取扱い細則など~[0.3MB]

久保 依子
執筆者久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業統括部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

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