マンションとピアノの音

1.ピアノは今でも人気の楽器
ピアノは子供の習い事の代表格である。今でもピアノの人気は継続しているのだろうか。経済産業省「楽器類の生産推移」(図1参照)を見ると、コロナ時期に落ち込んではいるもののピアノの生産量はほぼ横ばいである。また、ピアノは耐久消費財でもあり、一度購入すると長期間買い替えることはない。つまり、ピアノの累計数は上がり続けていることになる。
一方、昨今の住宅事情などを勘案すると、電子ピアノなどの生産が伸びているのではないかとも考えたが、こちらはさほど伸びてはいない。ピアノは今も人気の楽器であることがわかる。
出典:経済産業省 経済解析室 みなさんはどのように過ごしていますか?

2.ピアノに関するお問い合わせの実情
マンションの三大トラブルとして、騒音、漏水、ペットがあげられる。最近ではペットの問題はすっかり数が減っているが、騒音と漏水はあいかわらず多い。一言に騒音と言ってもその音源はさまざまだ。2024年4月から2024年9月までに当社に寄せられた騒音に関するお問い合わせのうち、どのような音に対するものかを分類した(図2参照)

お問い合わせ件数27件のうち、最も多いのは「足音やドンドン叩く音」の7件であるが、ピアノの音に関するものも2件ある。過去に同様の調査をしておらず、ピアノに関するお問い合わせが増えているのか、減っているのか、その傾向は分からないが、感覚値としては減っているように思う。子供の数の減少、マンションの内装材などの防音性能の向上、ピアノの音に配慮しようという居住者の意識の向上などがその要因かもしれない。
お問い合わせのうち、1件の内容を紹介しよう。「上の階の方だと思いますが、夜の22時から23時半過ぎまでピアノを弾いています」とのこと。他の騒音に関するお問い合わせも、深夜、早朝など時間に関するものが多い。
3.ピアノの演奏に関する使用制限
管理組合は原則として共用部分の管理を行うことはいうまでもない。また、管理組合が専有部分の使用について制限をすることができるのかについては、議論のあるところだろう。しかし、ピアノに関しては、従来より騒音問題に対応するために、管理規約や使用細則にて専有部分の使用制限を行ってきている。当社受託管理組合3,963件のうち、ピアノを「使用不可」としている管理組合が2.14%あった(図3参照)

築年数別の割合では、築年数が経過しているほど、不可の割合が高くなることがわかる(図4参照)

専有部分の使用制限は、例えば灯油などを大量に保管することを禁じるなど、他の専有部分に物理的な影響を及ぼす行為を禁止するケースが多い。ピアノは物理的な影響というよりは、近隣の居住者に心理的な影響を与えている。そういった意味でピアノの使用禁止は他の専有部分の使用制限と性格を異にする。過去のマンションの歴史の中で、ピアノの騒音問題がいかに大きかったかが想像できる。なお、中にはピアノの重量を問題として使用禁止としているケースも含まれると考えられるが、その区分までは調査していない。
さらに、ピアノの演奏に関する使用細則は、ペットに関する規定のように、マンション標準管理規約コメント等になんらの記載がないにもかかわらず、71.18%の管理組合で規定されている(図5参照)。また、ピアノの搬入時に管理組合に対して届出をするという規定を置いている管理組合も56.09%ある(図6参照)。


4.騒音問題は解決するのか
騒音問題は解決しにくい。建物の防音性能をどんなに上げても、それは新築マンションでの話であり、築年数の経過したマンションでマンション全体の防音性能を今から上げることは難しい。ハード面での解決が難しい場合は、ソフト面の解決、つまり居住者のモラルや気配りに頼らざるを得ない。
ピアノの音に限って言えば、今まで述べてきたように、管理規約、使用細則での使用制限や注意喚起、搬入時の申請などさまざまな場面に置いて使用者に注意喚起を促すことを長期間にわたり続けてきている。他の騒音問題もピアノの音と同様に、管理規約や使用細則に規定を置き、あらゆる機会を利用して注意喚起を続けていくしかないのかもしれない。
音楽を聴いてはいけない、目覚ましを鳴らしてはならない、20時以降は掃除も洗濯も一切禁止。そんな管理規約ができる前に、居住者同士の気配りの中で解決できることを願う。
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マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業統括部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。