大規模修繕工事のコンサルタントが工事品質を大きく左右する!

改修工事
大規模修繕工事のコンサルタントが工事品質を大きく左右する!

十数年に1度行われる大規模修繕工事だが、実は「設計監理方式」や「責任施工方式」など、さまざまな進め方があるのをご存じだろうか。

大きな費用と時間がかかる大規模修繕工事は、やはり大変だ。だからこそ円滑に進めていけることが理想である。そこで本コラムでは、設計監理方式を使った大規模修繕工事の進め方を解説する。

そもそも設計監理方式とは?

設計監理方式について、国土交通省の「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」では「建築士を有する建築設計事務所・建設会社・管理会社等を選定し、合意形成までの段階では、調査診断・改修設計・施工会社の選定・資金計画等に係る専門、技術的、実務的な業務を委託し、工事実施段階では工事監理を委託する方式」と記載されている。


少し嚙み砕いて表現すると、第三者(コンサルタント)に大規模修繕工事の検討から完了までの監理を委託する方式のことである。設計監理方式は主に3つのステップで構成される。
①    建物を把握(建物調査診断、基本設計の作成)
大規模修繕工事では、まず建物の状態を把握することから始まる。建物の劣化状況の確認や実際に施工するために必要とされる材料や労務の数量の拾い出し、使われている材料などを確認し、最適な修繕方法を探っていく。これを基に施工会社へ提出する見積内訳の台紙作成や標準単価による施工費の目安を知る。
②    工事を計画、調整(施工業者の選定補助)
数多ある施工会社の中から、それぞれのマンションにとって最適な会社を選定するのがこのステップ。各社の財政状況や提示金額を比較するほか、面接を行う。単に見積金額が一番安い施工会社に決めるのではなく、入居者への配慮や提案力、現場代理人の受け答えの印象なども大きな決め手のひとつとなる。
③    工事実施をフォロー(工事監理業務)
施工会社の決定後、大規模修繕工事が開始される。選定した施工会社と現場代理人ではあるが、第三者のチェックがあるとより正確性が増す。工事監理者が計画通りの工事が実施されているかといった品質確認を行う。

建物の劣化状況や施工数量から基本案を作成し(①)⇒工事を依頼する施工会社の選定のサポートを行い(②)⇒工事開始後は計画した通りの工事が施工者によって行われているか確認する(③)のが、設計監理方式でコンサルタントが行う業務のおおよその流れである。

設計監理方式に必要な「透明性」「納得感」「安心感」

設計監理方式を導入する場合、得られる効果は以下3点になるだろう。

1つ目は「透明性」。設計監理方式を導入する最大のメリットともいえる。第三者に委託することで、一部の区分所有者との利害関係なども無く、施工業者の選考経緯、選考理由を明確にすることができる。例えば、施工会社選定の際は、一般公開募集にすることで公平に選定できるだろう。

2つ目は「納得感」。コンサルタントはいわばマンション修繕の専門家であるため、建物調査の段階から各プロセスでプロの意見を取り入れることができる。例えば、資金不足による工事範囲の精査を行う場合、どこを優先的に施工するべきか、もしくは見送るべきか等の助言をもらうことができる。さらには、共通の見積項目や施工方法で金額比較を行うことで、価格についても競争原理が働き、費用削減につながるだろう。

3つ目は「安心感」。工事実施段階では工事監理者として計画した通りの工事が施工者によって行われているか確認を行う。第三者(工事監理者)のチェックによる品質の向上や手抜き工事に対する抑止力となるだろう。

設計監理方式で起こりうるトラブル

一方で、悪質なコンサルタントを雇ってしまうと、思わぬトラブルが起こる可能性がある。
本来、価格競争を行うべき施工会社同士があらかじめ話し合って、特定の施工会社が不当に高い価格で落札できるようにしたり、最悪のケースはコンサルタントがその窓口となりバックマージンを得ている場合である。いわゆる談合だ。この件に関しては、国土交通省も警鐘をならしており、具体事例が公表されている。※1

※1関連情報 参考文献
設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(通知) 国土交通省 2017年 

ここで問題のあった3つの事例を紹介しよう。
事例①
コンサルタントが、施工会社の候補5社のうち特定の1社の見積金額が低くなるよう、特定の会社にだけ少ない数量の工事内容を伝え、当該1社が施工会社として内定するよう操作していた。この事実が発覚した際、管理組合がコンサルタントに説明を求めると、業務の辞退を申し出た。そこで今度は別のコンサルタントと契約し直したところ、辞退したコンサルタントの作成していた工事項目や仕様書に多くの問題点が発覚し、全ての書類を作り直すこととなった。

事例②
最も安価な見積金額を提示したコンサルタントに業務を依頼したが、実際に調査診断・設計等を行っていたのはコンサルタントではなく、不当に決定していた施工会社の社員であったことが発覚。コンサルタントが所属する会社のパンフレットには技術者が多数所属していると書かれていたが、実質的には技術者でない社長と事務員1人だけであった。

事例③
あるコンサルタントがコンサルタント業務は格安の費用で請け負っていたが、自社にバックマージンを支払う約束をした施工会社が受注できるよう不適切な工作を行い、割高な工事費や過剰な工事項目での発注を誘導。結果として、管理組合に損失を及ぼした。

そもそもコンサルタントを入れる理由は、膨大な労力と専門的な知識が必要となる工事業者の選定を管理組合のみで行うことが難しいからである。仮に理事の中にマンション修繕のプロがいたとしても、その労力は計り知れない。

また、工事開始後のコンサルタント(工事監理)の仕事は「設計通りに実施されているかを確認すること」である。監理が不十分な場合、設計よりも簡略化された手抜き工事を見逃す可能性がある。工事が始まってからの追加工事の価格の精査が不十分になったり、必要のない工事の提案を防げなかったりする可能性もあるだろう。

そもそも談合により質の低い業者に工事を依頼することになってしまった場合、当たり前だが工事の品質は下がる。たとえ工事監理を十分に行ったとしても、60点の工事を80点の品質にあげるのと、30点の工事を80点の品質にひきあげるのでは難易度が違うのだ。
 

最大限の品質を得るには信頼できるコンサルタントを選ぶ

前述で悪徳コンサルタントの存在を挙げたが、詐欺まがいの業者に引っかからないようにするためにも、まずは大規模修繕工事のコンサルティングとはどのようなものなのかを知るところから始めてほしい。実績を可視化するのが難しいコンサルティングでは、担当者それぞれの技量や専門性、合意形成や意見調整を行うコミュニケーション能力、マンション運営への理解力等さまざまな要素が必要になってくる。コンサルティングを依頼する金額も大きな判断要素のひとつであるが、それだけで決めるのは注意が必要である。コンサルタントの選定が単なる見積比較であっては意味がないのだ。

私が選ぶコンサルタントはこんな人

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工事を依頼する施工会社が重要なのはもちろんのこと、コンサルティングをどこに依頼するかで工事の品質は大きく変化する。信頼できる施工会社やコンサルタントを選ぶことで初めて工事金額に見合った品質が得られるのである。大規模修繕工事をより良いものとするために、コンサルタントをうまく利用してほしい。

森本 美里
執筆者森本 美里

管理業務主任者。2020年大和ライフネクスト株式会社入社。技術部門にて修繕工事の施工・品質監理を行う傍ら、マンション修繕コンサルタントとして管理組合のサポート業務などに従事。

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