「マンションの植栽も皆さんの大切な資産です」こう熱く語るのは、マンション事業統括部 パートナーサポート課の山中 健司さん。今回はマンションの「植栽」にフォーカスし、専門知識を持ったゲストへのインタビュー形式でお届けする。
◆ゲスト:山中 健司さん
大和ライフネクスト株式会社
マンション事業本部 事業統括部 パートナーサポート課《植栽・清掃サポートチーム》
※所属先・肩書きは取材当時のもの
建築設計の専門学校を卒業後、設計事務所に就職。それまで植栽には興味がなかったが、ランドスケープの設計を担当するうちに植栽のとりこに。
その後、植栽についての知識を深めるために造園会社に転職し、実際に自身も樹木に登って剪定を行うなど修行の日々を送る。植栽管理会社を経て、現在はマンション管理会社に在籍。管理会社の社員としては異色の経歴の持ち主。
資格:一級造園施工管理技士 一級土木施工管理技士、マンション管理士ほか
◆取材者:久保 依子 マンションみらい価値研究所 所長
長期修繕計画に「植栽」がない!?
久保 山中さん、まずマンションの植栽の現状について教えてください。
山中 ここ最近のマンションの植栽は二極化してきていると思います。一方が、エントランスに中高木を何本か植えて、あとは低木で囲むと言った簡素なパターン。もう一方が植栽を「売り」にしていて、森のように植栽を植えるパターンです。
久保 確かに、新築マンションのパンフレットなどを見ると、植栽を売りにしている物件もありますね。植栽については素人の私からすると、自然がたくさんあるような完成図には好印象を受けます。
山中 私が気になっているのは、そこなんです。新築マンションの事業主は、マンションの完成時が植栽にとっても完成形だと思っていることが多い。でも、本当は、そこから10年後、20年後の姿が植栽の完成形なのです。新築マンションに携わる方には、ぜひ、将来の姿を思い描いて植栽の設計をしてほしいです。
久保 なるほど。築年数の経過したマンションなどを訪問すると、植栽がぎちぎちに植えられている感じがすることがあります。植栽が育ってしまった結果、ということですね。今、マンションの高経年化が問題になっていますが、同時に植栽の高齢化も問題になっていたりするのでしょうか。
山中 もちろんです。植栽も高齢化で枯れてしまって、植え替えが必要になっているマンションもあります。植栽にとって、狭い場所にたくさん植えられることはストレスなんです。一般的にマンションの植栽は自然界とは違う環境にあり、大きなストレスにさらされていますから、寿命も短くなる傾向があります。
久保 植栽を一斉に入れ替えたような例はありますか。
山中 全部を入れ替えるとなると相当なお金が必要になりますので、全体的な植え替えは事例が少ないですね。管理組合としてはどうしても、植栽よりも建物の修繕にお金を使う方を優先してしまいます。枯れてしまったものだけを交換するケースがほとんどです。実は、私の住んでいるマンションにも植栽があって毎朝その前を通るのですが、荒れ放題になっていて何だか悲しい気持ちになります。でも、他の居住者の方は気にならないみたいで・・。
久保 たぶん、私は気にならない組ですね(笑)
山中 植栽がマンションの資産として考えられていない原因として、長期修繕計画に「植栽」という項目がないことがあげられると思っています。
久保 確かに!長期修繕計画に「植栽」という項目はないですね。でも、例えば桜の木は、20年が寿命だと聞いたことがあります。植栽の種類と寿命が分かっているなら、おおよその予定額は入れられるのではないかと思います。
山中 長期修繕計画に「植栽」が入れば、居住者の皆さんにも植栽に関心を持ってもらえるようになるでしょうし、維持費や入れ替えコストについても考えるようにもなると思います。私としても国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」への反映を強く望んでいます。
地球温暖化の影響はマンションの植栽にも
久保 マンションの管理員さんから「桜の木は、満開の時期はきれいでよいが、花びらが散るとコンクリートやタイルにこびりつき、人に踏まれて茶色くなり、とても汚く感じる。さらに夏になると大量の毛虫が付いて困っている」と聞いたことがあります。こうした特徴から見た、マンションに向き、不向きの植栽というのはあるのでしょうか。
山中 植栽を考える上では、マンションのどこにある植栽なのか、という観点が大切です。例えば、日当たりの悪いところには日光が少なくても育つ種類を選ぶというように、雨がかりの悪いところ、水はけの悪いところなど、その場所がどういう場所なのかをよく観察して、適切な植栽を選択する必要があります。桜の例で言えば、きれいだが害虫が付きやすいという特徴があるので、1、2本をシンボル的に植えるにとどめ、居住者が多く通るところは避けるべきでしょう。
久保 私も毛虫は大嫌いですから、夏は桜の木の下は通らないようにしています。
山中 久保さんの嫌いな毛虫も最近は種類が変わってきているのをご存じですか?最近は「モンクロシャチホコ」という種類が増加しました。ひと昔前には比較的発生例が少なかった害虫です。
久保 今、手元のスマホで検索してみましたが、結構怖いですね。
山中 そうですね。人体には無害ですが、こういった見た目なので、余計にクレームになりやすいです。
久保 私がフロント担当をしていた頃、マンションに行ったときは、人体に有害なチャドクガに刺されないようにすることや、桜などにアメリカシロヒトリが発生していないか注意して見るように教えられました。
山中 チャドクガはまだ関東地方でも多く見られますが、アメリカシロヒトリは一昨年くらいから、暑さの影響か関東では発生例が少なくなってきました。害虫だけでなく、植物そのものの生息域も変わってきています。例えば、以前は関東地方では上手く育たないと言われていた「ストレリチア」が普通に育つようになっています。先日もあるマンションで採用していただきました。
久保 「ストレリチア」も検索してみましたが、確かにカラフルで南国の植物のようです。マンションの植栽でも、地球温暖化の影響を受けているとは驚きです。そのうち、管理員さんを困らせている桜も見られなくなるかもしれませんね。
こんな疑問に答えてください!
久保 ここからは、事前に当研究所の研究員から募った質問に答えていただきたいと思います。それでは1問目です。「雑草がすぐに生えてきて困っています。何か対策はありますか」
山中 最もお勧めの方法は、雑草を生えにくくする防草シートを敷き、その上から化粧砂利などを敷き詰める方法です。雑草が生えにくくなって見た目も明るくなるのでお勧めです。その他としては除草剤の使用でしょうか。
久保 「除草剤」という言葉は怖いです。例えば、子供が土いじりをしていて、口に入るような事故が発生する危険はないですか。
山中 人体に影響のある事故報告はまだ聞いたことがありませんが、ペットを散歩させていて犬が薬剤を舐めてしまったという事例なら聞いたことがあります。一口に除草剤と言っても対象によってさまざまな種類があるため、管理組合で施工を検討される際にはご相談いただきたいと思います。
久保 第2問です。「専用庭のある住戸の方が何も手入れをせず、草はボウボウ、荒れ放題の状況です。どうしたらよいでしょうか」
山中 専用庭は「芝生」が定番だと思います。芝生は手入れによって育成が大きく左右されるので、とてもきれいに維持されている住戸と、雑草が生えて放置されている住戸と差が出ます。あまり手入れがされないようなら、いっそのこと、人工芝を敷くことも可能にするなど使用細則の変更も検討されてはどうでしょうか。(注)
久保 人工芝なども植栽の選択肢に加えてもよいのですね。自然のものばかりに目が行っていました。
山中 ほかに、例えば壁面緑化など、もともと植栽の育成しない場所には、フェイクの樹木などを導入することも検討するとよいでしょう。今は本物そっくりな商品もたくさん出ています。本物でなくとも、緑色を見るだけで心が癒されるという報告もあります。
(注)マンションによっては緑地部分の形状・形質の変更等ができない場合がありますので、購入時の重要事項説明書等をご確認いただくか管轄する行政機関にご確認ください。
久保 それでは第3問です。「ある居住者の方が、植栽に強いこだわりを持っています。植栽は剪定したりすべきではない、自然のままであるべきだ、と主張し剪定や消毒に反対しています。何か良い説得方法はありますか」
山中 説得するのではなく、お互いに納得するしか方法はありません。植栽管理も建物管理と同じです。修繕工事にしても、全員がすぐに合意できることは稀だと思います。同じように、自分たちの大切な資産である、という共通認識があれば、話し合いによって解決できると思います。
私が駆け出しの頃に先輩から「植栽管理は間違いはあっても正解は無い」と言われた言葉が記憶に残っています。マンションによって状況が全く違うため、今もどうすればより良い管理ができるのかを模索中です。
久保 「植栽も自分たちの大切なマンションの資産である」この言葉が今日、何回か出てきました。山中さんの植栽への思いが現れている一言かと思います。山中さん、本日はありがとうございました。
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