【世界のマンションシリーズ~日本・種子島編~】仮設住宅の島「種子島」

組合運営のヒントコミュニティ
【世界のマンションシリーズ~日本・種子島編~】仮設住宅の島「種子島」

「種子島」と聞くと何を想像するだろうか。周囲の友人に尋ねると「鉄砲伝来」「ロケット発射」が最も多い。鹿児島県の南に位置し、マングローブの森とエメラルドグリーンの海に囲まれた南国ムードあふれる島である。鹿児島空港から高速船で1時間超、飛行機で20分程度の離島である。
種子島に分譲マンションはない。
今までマンションみらい価値研修所では分譲マンションに特化したテーマで発信をしてきたが、今回は少し幅を広げて「地域社会と住居」という視点で種子島を取り上げてみたい。

島の様子

一昨年くらいから盛んに報道されるようになったが、種子島の西に位置する無人島「馬毛島」に航空自衛隊の基地が建設されている。自衛隊の基地とはいえ、アメリカ軍の戦闘機の訓練場も併設される。2027年完成予定というから、まさに今、建設ラッシュがピークを迎えている。

image
鹿児島空港から種子島空港に向かう飛行機の窓から馬毛島を望む

島内には「歓迎!航空自衛隊」というのぼりと「島に基地はいらない!」という看板の両方が目に付く。よくニュースなどでも目にするが、この種子島において地元住民が賛成派と反対派に二分されているという状況であろうことは容易に想像がつく。

馬毛島の基地建設に伴う建築資材や作業員、それに伴うあらゆるものは種子島から船で運搬されている。離島での作業であるから、給与水準は高くなる。それを目指して鹿児島県のみならず、九州全土、日本全国から種子島を目指して作業員が集まってきている。インターネットで求人広告を検索すると、東京の給与水準よりも高い。島内にもともとある産業でも人手を取られ、人件費の高騰に悩んでいるという。

image
空き地に立ち並ぶコンテナハウス

さらに、基地の建設に必要な土砂を確保するために、種子島のあちこちの山は削られ、トラックで搬出されている。馬毛島にはもともと山がないというから、種子島の山を削るしかないのだろう。大型トラックが狭い道路一杯に行き交うのを目にする。

種子島に転入してくる作業員のために必要なアパートや宿泊施設は不足し、賃料が高騰。そこで、基地の建設に関わる会社が採石場近くや港に近い空き地に次々と仮設住宅やコンテナハウスを建設している。求人広告を見ると「3食付き、宿泊施設完備」などと謳われている。

馬毛島に渡る港の駐車場周辺には、駐車場だけでは収容しきれない車両が道路にもずらりと駐車されていた。駐車場整理員の男性が、空きスペースを探していた男性に道路を指さして駐車するよう誘導していたから、路上駐車も許容範囲なのだろう。

image
車であふれる港の駐車場

仮設住宅を歩く

びっしりと並んだ仮説住宅やコンテナハウスを歩くと、震災後の仮設住宅とはまったく雰囲気が異なる。震災後の仮設住宅は、日中でも人がそこに暮らし、ボランティアの人が出入りするなど、「人」の営みを感じることができた。仮設住宅での暮らしが長くなってくると、支援のほか、コミュニティをどのように形成していくかなどが論じられるようになっていった。

しかし、同じ仮設住宅でも作業員用宿舎となると、全く趣が異なる。日中はほとんどの人が仕事に出てしまうためか人の気配がまったくない。時折、エアコンの室外機のファンが回っている住戸がある程度だ。ちょうど20時くらいであっただろうか、その時間になるとちらほらと電気が灯っていた。

馬毛島は夜でも煌々と明かりが灯っているのが見えるから、シフト制で作業員が交代で工事をしているのかもしれない。そうなると、種子島の住まいに戻っても、寝ている人がほとんどということになる。ここで暮らす人が求めている「住まい」とは「寝る場所」、それだけなのかもしれない。

あと3年間、ここに暮らし、工事が終われば他の地域に転出する人々の住宅には、近所付き合いやコミュニティなどは必要ないのかもしれない。電気、ガス、水道、寝るためのスペース、それだけでいいのかもしれない。しかし、今まで住宅のあるべき姿を考えて論じてきた立場からすると、それでいいのだろうかとも思う。

働き盛りの男性が多いとはいえ、皆が一人暮らしだ。病気になったりすることもあるだろう。島にはスーパーもコンビニも少ない。大きな病院もない。そんなとき、誰に頼るのだろうか。

この島が災害に見舞われることもあるかもしれない。船や飛行機などの交通機関が寸断されれば、孤立状態になる。そんなとき、共助の考え方は機能するのだろうか。仮設住宅に関する論文を検索すると、そのほとんどが災害用の仮設住宅である。工事関係者の仮設住宅について考察したものは見当たらなかった。

島の住民の方に話を聞くと、心配なのがゴミ処理だという。今でさえ、急激に増加した島の人口に対してゴミの処理施設が不足していることが問題になっているのに、工事完了後に撤去された仮設住宅やコンテナハウスの廃材がどうなるのか、それらが適切に処理され、美しいエメラルドグリーンの海を維持することができるのか、不安でならないという。

新しいコミュニティ

建設工事が終了すれば、作業員の退去と同時に、今度は航空自衛隊やアメリカ軍関係者が種子島に転入してくることになるだろう。種子島の人々は、いずれこうした新しい住民と地域社会を作っていくことになる。あと3年の間に、数千人もの住民が入れ替わるのだ。島を二分した賛成派と反対派が融和した上で、どうやって新しい住民とコミュニティを形成していくのだろうか。多くの人が感心をもって見守っていく必要があるだろう。

従来より種子島に住んでいる人々、いま種子島の工事現場で働いている人々、そしてこれから種子島に住むであろう自衛隊、アメリカ軍と関係する人々の皆が、あの美しい島で、手を取り合って豊かな地域社会を築いていくことを心から願う。

久保 依子
執筆者久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

Contact us

マンションみらい価値研究所・
セミナー等についてのお問い合わせはこちら