「台風7号」と「巨大地震注意」~経験をきっかけにマンションの備えを考える~

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「台風7号」と「巨大地震注意」~経験をきっかけにマンションの備えを考える~

2024年9月21日に石川県で発生した令和6年能登豪雨により被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復興をお祈りいたします。


※本コラムは「台風7号」が発生した8月に執筆したものとなります

私は千葉県内のマンションに居住し、都内に勤務している。そのため、宮崎県沖地震も台風7号も直接の被災はしていない。それでも、さまざまな影響を受けることとなった。今回はそうした経験から得られたものをご紹介したいと思う。

指定避難場所に行ってみた

千葉県に台風7号が接近した2024年8月16日朝、暑くて目が覚める。エアコンのスイッチは一晩中入れたままのはずだが作動していない。どうやら故障したようだ。こんな日に修理の手配は無理だろう、これでは熱中症になってしまう。

テレビをつけると私の住む街でも避難所が開設されたというニュースが流れていた。窓を開けると曇ってはいるものの、まだ雨は降っていない。暴風になると言われてもピンとこない。まだ外は充分に歩くことができたので、涼しい場所を求めて避難所に行ってみることにした。我が家の指定避難所は近所の公民館である。

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避難所に到着すると、窓口に座っていた職員の方が不思議そうな顔をして私を見上げたが、すんなり中に入れてくれた。予想通り、私以外に避難している人は誰もいない。避難所として開放されていたのは8畳ほどの和室であった。普段は会議用に使用しているためか、折り畳みの机と椅子が置いてあるきりで、あとはがらんとしている。それでもエアコンは効いているし、フリーWi-Fiも完備。リュックに詰め込んだ仕事がはかどる快適な空間であった。

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公民館の中を見回すと、ロビーには大型のテレビがあり、それを取り囲むようにベンチが並んでいる。さらに入口の掲示板にはさまざまな「お知らせ」が貼ってある。私もこの地域に数十年住んでいるが、以前、利用した時から何年ぶりだろうか、館内の様子も様変わりしていた。かなり災害を意識したレイアウトになっている。

我が家の周囲は、300戸を超える大規模なマンションや数十戸規模の中小規模のマンションが立ち並ぶ。災害の際にマンション居住者がこの小さな公民館に流れ込んできたら、とうてい収容しきれないのは明らかだ。「マンションは在宅避難」という言葉が使われ出してから、私は災害が起きても避難所に行くことはないと思っていた。それでも、こうして改めて館内を見回すと、ここに「情報」を集めに来ることはできそうだと思った。災害時に情報を得られる場所があるのは心強い。その気づきだけでも、大きな収穫となった。

巨大地震注意の影響

台風7号から遡ること約1週間前、2024年8月8日、宮崎県沖に地震が発生。その後、「巨大地震注意」が発表された。聞きなれない言葉に、私も「いったい、いつまで何をどう注意すればいいのか」と戸惑った。地震のメカニズムは高校時代に地学の授業で勉強した程度であり、何かを語れるような知識は持ち合わせていない。それでも、地球の何億年、何千年という長い地殻変動によりもたらされる地震にとっては、1週間や、たとえ数年であっても、それは一瞬の時間であることは容易に想像できる。

公共交通機関などが1週間の警戒をし、特定の区間で徐行運転をするという報道を聞いても、1週間程度で地震の危険性が回避されるわけでもなく、どれほどの意味があるのかピンとこなかった。気象庁の会見で「1週間というのは、科学的に立証されたものではなく、社会の受忍限度がそのくらいだろうということから決めた期間である」という趣旨の解説をしていたのが印象的だ。

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このとき、ちょうど帰省しようとしていた親族から、新幹線の遅延による影響を避けるために大幅な予定変更をしたいとの相談が入った。たとえ「運休」ではなく「遅延」であっても、予定が読めないストレスを感じるより、予定を変更できるならそうした方がよい。様々な情報をかき集め、お盆の予定を大きく変更することにした。

今年は、元日に発生した能登半島地震での北陸新幹線の遅延にも巻き込まれている。災害による鉄道や航空機の遅延は、身体に疲れを感じるだけでなく、仕事の予定にも影響が出る。こうした経験から「災害時はできるだけ移動しない」という感性が身に付いてきた。

「巨大地震注意」とは、日常の防災対策を再点検することだという。例えば、家具の転倒防止や家族の安否確認方法の再点検だと報道されていた。確かにそうした効果もあるだろうが、災害発生時に生じる「移動困難」などに「慣れる期間」でもあったように思う。

考えるチカラをつける

今まで、阪神淡路大震災や東日本大震災などの大災害が起こった際に、その被害状況の映像に衝撃を受け、マンションにおける防災マニュアルの策定や防災訓練などの行動に移る人が多かった。「報道」が防災を考えるターニングポイントとなってきた感がある。

しかし最近は、自分自身が被災地における当事者ではなくとも、物流の遅延、鉄道の遅延、通信障害、被災地に住む近親者や友人の安否確認など、間接的に災害に巻き込まれる「経験」をすることが増えている。こういった「経験」が次の行動に移るターニングポイントになりつつあるように思う。

つまり、誰もが、直接的な被害を受けていなくても、間接的には当事者となっており、災害ストレスを感じる経験をしているのだ。そのストレスを軽減するために、知恵を絞って何をすべきか考えるようになっている。

こうした「考える力」をつけることも防災のひとつではないだろうか。防災備品などの「モノ」の準備だけでなく、目に見えない「チカラ」の準備だ。

報道は視覚や聴覚に刺激を与える。しかし「経験」は、それだけでなく五感に刺激を与える。私の8月の経験は、より大きなチカラを得るチャンスであったように思う。

これからの防災活動に生かす

私ひとりの経験だけでも、台風7号では、はじめて避難所を利用し、巨大地震注意では報道を見ながら予定を大きく変更するという経験をした。皆さんの周囲でも様々な経験をした人はいるはずである。こうした経験を話し合うだけでも、新しい気づきがあるのではないだろうか。皆さんの考えるチカラは以前より増しているはずである。経験の共有は、さらに大きなチカラとなるはずだ。

久保 依子
執筆者久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

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