管理組合における自治会費の支払い実態

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管理組合における自治会費の支払い実態

1.管理組合が自治会費を支払うに至る歴史

 マンションが建設される際には、近隣住民向けの説明会が開催されることが多い。ディベロッパー等、マンション建設に関わる関係者は、近隣住民によるマンション建設反対運動をなんとか収めようとする。古くは、こうした場面においてディベロッパー側から「新しいマンションに入居する住民が自治会に加入するようにし、地域との調和を図る」ことを近隣住民に対して約束していたようである。そのため、販売時の重要事項説明書や原始規約には「区分所有者、占有者は自治会に加入すること」「全戸が自治会費を支払うこと」が規定されてきた。
 その後、平成17年4月に最高裁第三小法廷判決※1(平16(受)1742号)をきっかけに、自治会に加入することや自治会費を支払うことが分譲の際の条件とされることが少なくなったようである。
 ※1:権利能力のない社団である県営住宅の自治会の会員がいつでも当該自治会に対する一方的意思表示によりこれを退会することができるとされた事例

 さらに、平成28年に改正されたマンション標準管理規約コメントには次のような記載が追加された。
 「従来、本条第十号に掲げる管理費の使途及び第32条の管理組合の業務として、『地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成(に要する費用)』が掲げられていた。これは、日常的なトラブルの未然防止や大規模修繕工事等の円滑な実施などに資するコミュニティ形成について、マンションの管理という管理組合の目的の範囲内で行われることを前提に規定していたものである。しかしながら、『地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成』との表現には、定義のあいまいさから拡大解釈の懸念があり、とりわけ、管理組合と自治会、町内会等とを混同することにより、自治会費を管理費として一体で徴収し自治会費を払っている事例や、自治会的な活動への管理費の支出をめぐる意見対立やトラブル等が生じている実態もあった。※2」管理組合が自治会費を支払うことを否定した記載である。
 ※2:『マンション標準管理規約(単棟型)同コメント』 第27条関係コメントの②を参照のこと。

 こうした流れを受けて、管理組合が自治会費を徴収することは禁止されていると解釈されるに至り、管理組合は自治会への加入を任意とするよう自治会側と交渉する必要に迫られることとなった。しかし、自治会への加入や自治会費の支払いに関する協議については当然、自治会側の納得が得られなければまとまらない。管理組合側が最高裁判例やマンション標準管理規約を提示したとしても、自治会の役員にとっては突然のことで、その背景を知らないことが多いからだ。
 結局、管理組合が団体として自治会に加入していたり、自治会費の徴収を行ったりしている例は今なお存在している。

2.自治会費の徴収及び支払い方法

 自治会費の徴収、支払い方法には次の5通りある。

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 当社にて管理を受託しているマンションの管理組合のうち、自治会費の支払いの有無が確認できる3,887件の自治会費の徴収方法は図1の通りである。なお、「その他」とは、マンション所在地に自治会が存在しない、マンション居住者の入会拒否などである。

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 自治会費の徴収、支払い方法を竣工年別に示す(図2参照)。
 「①管理費に含む」は竣工年が古いほど割合が高くなる傾向にある。これは、自治会に加入することを前提として分譲されてきた歴史と関係があると考えられる。

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3.自治会費の額

 自治会費のおおよその金額を調査した(図3参照)

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※「3600/戸以下」とは、戸あたり年額3,600円以下、その下位に記載のある2,400円を含まず、2,401円から3,600円までを示す。他も同様。

 年額2,400円(月額200円)が最も多く、年額6,000円(月額500円)以下で約半数を占める。なお、団体加入とは、戸あたりの金額に換算できず、団体としての管理組合に対して金額設定がさなれている件数である。
 筆者の主観ではあるが、月額数百円の支払いはそう高い金額ではない。自治会費が低廉であることが、「自治会との関係悪化のリスクを取ってまで自治会費の支払いを中止する必要はないのではないか」などといった考えにつながるなど、支払いの中止をためらうひとつの要因となっているのではないかと考えられる。

4.自治会を退会した管理組合の例

 もともとは団体として自治会に加入していた管理組合が後に退会した例は39件ある。退会後、自治会に加入したい区分所有者等は個人で直接加入の申し込みをすることとなる。残念ながら管理組合の総会決議資料には退会の決議をするところまでしか記述がなく、退会後にどれだけの人数の区分所有者等が自治会に加入したのかは不明である。ただし、総会の議事録を見る限り、自治会への加入には消極的な区分所有者が多く、個人で加入するケースはそう多くないと思われる。

 自治会を退会する総会議案について、総会議事録や議案書を調査した。議事録にある退会理由や区分所有者からの意見には次のようなものがある。
 

自治会から退会する理由

●町会の活動は主に、子供向け交通安全指導、いちご狩り、運動会等であり、管理組合全体として参加できるものは少ない。
●戸建ての近隣住民と同額の自治会費を支払っているが、マンション居住者が参加できる活動が少ない。参加することにメリットを感じられないどころか不公平感すらある。
●自治会からの要請により、自治会の班長を選出する必要があった。募集等を行ったが誰も引き受け手がおらず、班長を選出することができない。
●マンションのような堅固な建物について、行政は災害時の在宅避難を推奨しており、自治会に加入する意義が薄れている。
●自治会費がどのように費消されているのかが不透明である。このまま支払いを続けることに疑問を持っている。
●区分所有者の金銭的負担を少しでも減らしたい。
●現在加入している自治会の目的は「親睦を図ること」「良好な住環境を築くこと」である。当マンションでは管理組合がその役割を担っており、自治会への加入の必要性を感じない。
●管理組合の一般会計の余剰金から自治会費を支払ってきたが、一般会計の収支が悪化している。支出の削減のために自治会を退会したい。
●自治会と管理組合の役員就任時期が異なり、管理組合から自治会担当理事を選出しても任期途中で交代せざるを得ないため、中途半端な参加になっているのが実態である。しかし、自治会のために管理組合の役員の任期を変更するまでのことはできない。
●自治会から要請される業務量が多すぎる。自治会担当理事になると、他の管理組合理事と比較して時間的拘束が大きくなるなどの不公平感がある。

自治会から退会する議案に対して区分所有者から出された意見等

●自治会に加入していないと災害時に援助物資の供給が得られないのではないか。
●自治会主催の夏祭りなどのイベントの際にマンションの子供たちだけが参加できないなど、子供に影響が出るのではいか。

 また、自治会を退会するにあたり、防災対策が希薄になるのではないかという不安を払拭すたるために、区分所有者等から徴収していた自治会費相当額を「防災費」として引き続き徴収し、管理組合の防災備蓄品の購入などに充当することとした例もある。
 
 総会では、管理組合について区分所有法第3条を出発点として法律論から議論しているのではなく、自治会に加入することで得られる具体的なメリットと、人的・金銭的負担などのデメリットを比較するという現実的な立場から検討しているようである。

5.これからの自治会と管理組合

 管理組合と自治会が良い関係を築きながらともに発展できることが、誰もが望む姿であろう。しかし実際は、組織間の隔たりが年々広がっているようでもある。法律論、組織論からはじめるのではなく、マンションと地域、それぞれの持続可能性を考えるところから議論を始めるべきではないだろうか。

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久保 依子
執筆者久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

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