都道府県ごとの県民性特徴を紹介するテレビ番組が人気だ。それぞれの地域には、他の地域からは想像がつかない「ご当地の特徴」がある。一方で、マンションは首都圏に多く建築されていることから、画一的な建築物であり、地域特性とは無縁なイメージがあるかもしれない。(図1参照)。
しかし、マンションにも「地域性、ご当地性」はある。今回は、地域社会と融合するマンションの姿をレポートする。
北海道札幌市
北海道のイメージは雪国だろう。当然、雪への対策がとられている。
例えば、首都圏にはほぼなじみのないロードヒーティング(マンション敷地内の道を融雪する設備)が、当社が管理を受託する築25年以下のマンションのほとんどに設置されている。この設備がなければ冬期はマンションから道路にスムーズに車両を出すことが難しい。
このロードヒーティングは灯油などを燃料としている。ロードヒーティングのあるマンションはこの燃料費用を管理組合が負担し、燃料費用相当額を区分所有者から徴収している。
ある札幌市内のマンションの2021年度決算資料の科目別内訳を調査した(図2、図3参照)。灯油にかかる費用は収入の20.39%、支出の21.53%に及ぶ。燃料費用が高騰すると管理組合の負担が増加し、それを按分して負担する区分所有者の負担もまた増加する。当社の札幌支店担当者にヒアリングしたところ、どの管理組合も燃料費の動向には敏感であり、冬期になると理事会の場でも燃料費の購入単価は必ず確認するそうだ。
給油にも苦労がある。管理員が年末年始休暇を取っている間に灯油タンクが空になってしまい、灯油ポンプが空回りして故障するというトラブルが発生することがある。休暇前にタンクを満タンに補充しても、降雪が多い場合はタンクが空になり、警報が発報する。たとえ年末年始でも灯油配 送をしてくれる会社を見つけて手配しなければならない。
さらに、雪対策は道路だけではない。高層マンションの屋上から降り積もった雪が地面に落下すると大きな事故につながりかねない。そのため、屋上の笠木部分にも電熱線を通し、雪が積もらないようにしているマンションもある。
鹿児島県
北海道に雪が降るなら、鹿児島県には火山灰が降る。鹿児島県のマンションでは、桜島の降灰の影響で日常的に火山灰の清掃業務が生じる。鹿児島に住む雪国の出身者で「雪をかくより灰をかくほうが重労働」と言う者もいる。灰は人体に有害な物質でもあるため、管理員が灰の清掃する時も相当の気を遣う。火山灰の清掃業務を行う管理員に対して「火山灰手当て」を支給している管理会社もあるそうだ。
また、定期的に雨水桝・排水ピットに集積した火山灰を汲み取る必要がある。この清掃も特別清掃として管理組合が別途費用負担することとなる。
降灰の影響は清掃だけではない。細かい灰が部品や機器類に入り込むため機械式駐車場(屋外)部品交換の頻度が他よりも早い傾向にある。そのため長期修繕計画上も機械式駐車場の修繕周期を早めている管理組合も多い。
沖縄県那覇市
札幌市が雪対策、鹿児島市が降灰対策なら、那覇市は台風対策である。
マンションの台風被害と言えば、機械式駐車場における冠水事故が挙げられる。那覇市では、こうした冠水事故を防止するためか、当社が管理を受託するマンションのうち機械式駐車場の設置がある割合は29%にとどまり、そのうち地下部分がある駐車場は1棟のみである。
なお、那覇市内の公共交通機関は、空港から市内中心部を結ぶゆいレールとバスがあるが、やはり車がないと生活が不便である。駐車場付置率は高く100%を超えるマンションも少なくない。空き駐車場が問題となっている都市部のマンションとは対照的だ。
さらに沖縄県の特徴として、自治会などの地域の活動が他の都道府県と比較してあまり活発ではないことが挙げられる。「令和2年度地域運営組織の形成及び持続的な運営に関する調査研究事業報告書(令和3年3月総務省地域力創造グループ地域振興室)」によれば、地域運営組織は、全国平均で46.6%の市区町村が「ある」と回答しているのに対し、沖縄県では12.2%に留まっている(図4参照)。
当社が管理を受託するマンションでも、自治会活動に関わりのあるマンションは極めて少ない印象がある。
管理組合が自治会費を徴収することや自治会活動に参加することの是非が議論されるようになって久しいが、沖縄県ではそもそも自治会町内会等の地域コミュニティとマンションとの関係が問題になりにくいようである。
京都府
那覇市の自治会活動が活発でないなら、京都市はその反対である。図4のとおり、京都府では50%の自治体が「地域運営組織がある」と回答している。
マンションみらい価値研究所レポート「2022.11.2 管理組合における自治会費の支払い実態」では、当社受託管理組合3,887棟の自治会費を調査している(図5参照)。そこからさらに京都府にある管理組合の自治会費を調査した(図6参照)
京都府の自治会費は全国と比較して高額であることがわかる。年額戸あたり1万円を超える負担をしている管理組合も4件ある。自治会が活発であることの現れであろう。
京都の特徴は自治会ばかりではない。マンションのゴミ回収は民間業者が行うことも他の都道府県と異なっている。首都圏に居住する筆者からすると、ごみの回収は行政の業務であるが、京都府ではそうではない。この回収費用にはおおむね戸あたり1,000円の管理組合の負担がある。
京都府に位置する40戸規模のマンションの2021年度決算資料の科目別内訳である(図7、図8参照)。ここでは、自治会費の負担は3.4%、ゴミ回収費用(支出科目名 日常ごみ処理費)の負担は5.1%に及んでいることがわかる。前述の札幌市の燃料費と同様に「地域ならでは」の支出であろう。
福岡県福岡市
京都のゴミ回収が管理組合負担であることが特徴なら、福岡市はごみ収集が夜間・深夜に行われることが特徴だ。一般的に繁華街と呼ばれる地域では夜間回収のケースもみられるが、住宅地は朝に回収されることが多い。福岡市は住宅地でも市内全域で夜間収集である。
福岡市の担当者にヒアリングすると、次のような回答があった。
「特に3月は他の自治体から福岡市に引っ越してきた居住者が夜間収集に慣れておらず、早朝にゴミを出すことが多いので注意が必要である。また、夜間収集とはいえ、管理員を深夜に勤務させることはできず、管理員によるゴミ回収時の立ち会いができない。ゴミの回収車は分別されていないゴミを回収せずにそのまま 置いていくため、管理員の勤務日をゴミ収集日の翌日とする必要がある。」
なお、夜間収集にはカラスの被害が少ない等のメリットもあるそうだ。
京都府 大阪府、その他
ゴミの回収費用が管理組合負担であることと同様に、水道料金の徴収も管理組合が行うマンションがある。地方自治体はマンションの全戸分の水道料金を一括して管理組合に請求し、管理組合が水道利用者に請求する。こうした徴収方法をとる自治体は大阪府の他に、京都府、宮城県、福島県、愛知県、奈良県などにもある(以下「一括請求方式」という)。
一方、関東圏では、各自治体が水道メーターを設置し、自治体から委託を受けた会社がメーター検針をし、区分所有者に直接請求する方法を採用している自治体が多い(以下「戸別徴収方式」という)。自治体から委託を受けた検針員がマンションのオートロック内に立ち入ることができないなどの問題が生じるリスクはあるが、水道料金の滞納などが生じても管理組合運営には影響しないといったメリットがある。
一方で一括徴収方式では、水道メーターの検針業務は主に管理員が行い、その数値に基づいて管理組合が各区分所有者に按分して請求する。つまり、水道料金の負担者は管理費の引き落としとは別に毎月変動する水道料金を管理組合に納入しなければならない。水道料金を滞納する利用者がいる場合は、管理組合は自治 体に水道料金が支払えないという事態に陥りかねない。そのため、水道料金の単価を自治体の単価より若干上乗せして徴収することとしている管理組合も多い。
水道メーターに関しても戸別徴収方式の場合は自治体の所有物であり、計量法に基づくメーターの交換工事は自治体の負担となるが、一括請求方式のマンションは原則として管理組合が費用を負担して交換することになる。
京都府 東京都
京都や東京は世界でも有名な観光地である。その景観を観光客だけでなく、居住者も楽しめるように工夫されたマンションがある。京都では五山の送り火、東京では隅田川の花火大会が見えるマンションの多くは、特別な日に限り屋上を開放できるような設計がされ(図9参照)、屋上部分の一部に手すりを設け、立ち入りができるようになっている。屋上を開放する時には、安全性を確保するために警備員を配置したりする管理組合もある。
また、屋上部分の利用については使用細則を設けているマンションが多い。こうした使用細則では屋上での飲酒を禁じている。送り火や花火を鑑賞はできるが宴会はできないようだ。
東京都
神々の多い日本では、いたるところに小規模な神社がある。街を歩いていてもビルとビルの間にひっそりと建つ神社は多い。
街中に建築されたマンションの敷地の中に、取り壊されることなく残る神社がある。
当社が管理を受託する、神社のあるマンションでは、分譲時から神社の維持管理は管理組合が行うこととされており、管理員が下記の業務を行っている。
● 毎日:朝、水替え
● 月に2回(1日、15日):掃除とお供え物(お榊・お米・塩)交換
● 年に1回:お札・しめ縄交換
こうした管理員の業務に関して、宗教のために管理員の勤務時間を充てるべきではない等の意見はみられないようである。信仰する宗教は人それぞれであっても、神社のある風景は日本人に馴染み深いものなのだろう。
居住者のほとんどは、神社の存在は知っていても関心はなく、毎日お参りをされている居住者が1名と、月1、2回外部の方がお参りに来ることがある程度であるそうだ。
神奈川県
一方、マリンスポーツが盛んな湘南地方では、サーフィンを趣味とする居住者のためにサーフボード置場が設置されていることがある。
サーファーは会社に出社する前、早朝に海に入ることもある。海から上がればウエットスーツは濡れており、砂がついている。さらにロングボードは2mを超える。サーフボードをもって共用部分を歩くことはできない。こうしたことから、マンションの裏動線に海岸への出入り口、シャワールーム、サーフボード置き場を配置している。サーフボード置き場の使用には専用使用料を管理組合に納入しなければならない。このように駐輪場やバイク置き場以外で共用部分に「置き場」が設置されるのは珍しい。なお、住戸数に対するサーフボード置き場の利用者数は20%を超えている。
同様に新潟県や兵庫県では、スノーボード置き場を設置しているマンションもあるが、多くはスキー場近くに建築されたリゾートマンションである。一般的なファミリーマンションに設置されているのが神奈川県のサーフボード置き場の特徴だろう。
地域と融和したマンション
マンションの外観だけを見ると、北海道から沖縄まで同じようなイメージを持つ人も多いだろう。しかし調査してみると、建物にも管理組合にも、それぞれの気候風土や地域性などに応じた特徴があることがわかる。建設当時は反対運動などのあったマンションも、10年、20年と経過するうちに地域と融和し、その街の風景になっているのではないだろうか。
マンション管理とは、そこに住まう人々の暮らしを守ることであるが、地域ならではの文化や習慣に適応しながらその街と調和していくのもまた、大切な役割なのである。