修繕委員会等の専門委員会の設置に関する調査

組合運営のヒント
修繕委員会等の専門委員会の設置に関する調査

理事会の多くが輪番制で選出された理事で構成されている。任期は1年~2年であり、長期的な課題には取り組みにくい。また、マンション管理に関する専門的知識をもつ理事が必要なタイミングで選任されるとは限らない。こうした場合に、理事会の負担軽減や、専門的知識をもつ区分所有者に意見を聞くことを目的として専門委員会が組織される。
 マンション標準管理規約では、専門委員会の設置について次のような規定が置かれている。

専門委員会の設置

第55条 理事会は、その責任と権限の範囲内において、専門委員会を設置し、特定の課題を調査又は検討させることができる。
2 専門委員会は、調査又は検討した結果を理事会に具申する。

1.専門委員会の実態

 今回は、理事会の諮問機関である専門委員会について総会議案書、議事録からその実態を調査した。
 当社管理受託マンション3,958組合のうち、2018年4月~2023年9月までの間に、専門委員会に関して総会で議案となった事例を抽出した(図1参照)。
 なお、専門委員会が常設されており、当該期間に総会にてその設立や活動について議案になっていない場合は集計に含まれない。

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 議案の内容は、専門委員会の設置、会則の制定/改定、委員会の継続、委員会の廃止に関するものに分類される。任期が1年である場合は、次年度の総会において廃止の議案を上げる必要がないが、任期の延長や任期を定めていない場合などは、継続や廃止も総会決議事項とされている(図2参照)。

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2.圧倒的多数の修繕委員会の設置

 専門委員会は圧倒的に「修繕委員会」が多い。大規模修繕工事などの実施を検討するにあたり、建築関係に知見のある区分所有者、過去に大規模修繕工事を経験した理事などを募集して、次期大規模修繕工事に備えるための委員会だ。
 専門家や経験者が集まることもあり、一部の理事会議事録などを確認すると、現理事よりも修繕委員の方が工事に関する発言力・影響力が大きいのではないかと思われるような場面も見られる。委員会は理事会の諮問機関であるにもかかわらず、その立場が逆転してしまっているケースであり、この逆転現象はあまり好ましくないと考える。
 こうした現象を防ぎ、理事会と協調しながら専門委員会が活動するためには「専門委員会会則」が必要になるだろう。目的や役割を明確にすることで、活動もしやすくなる。
 専門委員会会則は、委員会発足にあわせて決議するべきだろう。

3.修繕委員会の会則例

 マンション標準管理規約には、専門委員会会則に関して特段の例示はされていない。会則は各管理組合が自由に設定できる。
 では、各管理組合では、どのような会則を設定しているのだろうか。
 多くの会則は、管理規約の理事会の規定(第35条~第41条)を準用し、委員会の人数、委員会の開催に必要な定足数、決議に必要な賛成数などを規定している。
 マンションによる個性が出ているのは、修繕委員会の業務の範囲である。いくつか事例を紹介しよう(※)。

 ※実際の会則条文からマンションが特定できる記載を削除し、編集している。

Aマンション

第〇条(諮問内容)
 理事会は、修繕委員会に対して次の諮問を行うものとする。
 1.管理対象物の修繕計画方法に関すること
 2.前号に伴う運用方法に関すること
 3.前号に伴う費用に関すること
 4.修繕工事の点検並びに交渉等に関すること
 5.理事会から要請があった場合は、これを調査し理事会に報告する
 6.その他理事会から諮問された事項、各組合員の要望に関すること

Bマンション

第〇条(業務内容)
 専門委員会の業務は次の通りとする。
 1.大規模修繕計画を含む工事全般を策定するコンサルタントの一次選定
 2.コンサルタントとの技術的な折衝、工事関連会社の一次選定
 3.管理組合理事会への報告、組合員への広報活動、組合員からの要望の集約
 4.大規模修繕工事後のアフター点検等
 5.その他長期修繕計画に基づく―切の業務に関すること
 なお、技術的な折衝とは、管理組合理事及び全組合員と講負者(コンサルタント及び工事施工者)との技術的な見解、疑問点を整理し、専門的な知識から、請負者と協議して一定の方向付けをすることをいう。
2 対象の工事は大規模修繕工事に加え、長期修繕計画で計画された工事・修繕、修繕積立金にて対応する工事・修繕を含むものとする(一般会計での修繕費に該当する工事は対象外とする)。
第〇条(総会での議題提案)
 修繕委員会の決議、管理組合理事会の決議を経た議案は、管理規約第〇条に基づいて管理組合定期総会または臨時総会において、総会議長の求めにより委員長又は委員から議案の説明をすることができる。

 Bマンションでは、居住者への広報活動やアフター点検の立ち合い、さらには総会での説明までが修繕委員会の業務内容となっており、理事会の権限が広く移譲されている。
 なお、権限移譲には注意が必要だ。例えば、修繕委員会が理事会と意見の相違があった場合に、権限移譲の範囲が大きすぎると、修繕委員会が理事会を差し置いて総会の審議を進めてしまい、総会が混乱してしまう可能性もあるだろう。また、修繕委員会の判断にミスがあった場合に責任の所在はどうなるのか。修繕委員会は理事会の諮問機関であることから、最終的な責任は修繕委員会ではなく理事会となる可能性もある。権限の範囲は大きくなりすぎないように配慮する必要があるだろう。
 

4.第三者管理者方式でも修繕委員会が登場

 マンション管理会社が管理者となる場合の外部管理者方式ガイドラインが国土交通省から示された。理事のなり手不足の解消のために、第三者である管理会社に管理者を委託する場合に留意すべき点などがまとめられている。この方式においては、理事会を設置せずに管理組合を運用することになる。しかし、大規模修繕工事については修繕委員会が検討するものとして位置付けられている。理事会の機能が専門委員会に残されているのだ。
 管理組合の業務を第三者に委託しても、修繕に関する業務は当事者である区分所有者により判断されるべきだと言うことなのだろう。

5.修繕委員会以外の委員会活動

 少数ではあるが、修繕委員会以外の委員会も紹介しよう。その名称からおおよそ、どのような活動をしているかは想像できるだろう。中にはユニークな名称で活動している委員会もある。

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6.委員会の活用に向けて

 直面する問題を早期に解決するために設置された委員会の例として「近隣工事対策委員会」「調停対策委員会」「問題解決委員会」「改善策立案委員会」などがある。
 一方で1年間~2年間で理事が交代してしまう理事会とは別に、長期的課題をじっくり検討しようという「マンション価値向上委員会」「長期ビジョン検討委員会」などの活動例もある。
 築年数が経過したマンションでは、将来的に建て替えか敷地売却か、などといったデリケートで難しい課題が顕在化してくる。現実から目を背けて、そうした話題にはできるだけ触れないようにしようとする管理組合もある中で、長期的課題に積極的に取り組んでいる好事例ともいえるだろう。
 さらに、若手に管理組合活動に参加してもらうために、最初は理事会ではなく専門委員会に参加を促すという作戦を立てている管理組合もある。こうした場合に、若手が参加しやすい委員会として「ホームページ委員会」「IT/DX化専門委員会」などを立ち上げている。
 理事会や総会の場で難しい課題を検討しようとするとき、最初から賛成・反対なのかという意思表示を求めてしまうと管理組合内で意見が二分しかねない。まずは専門委員会からはじめるというのも一手だろう。
 それぞれのマンションで必要とされている課題について、専門委員会を積極的に活用してみてはどうだろうか。

修繕委員会等の専門委員会の設置に関する調査[0.2MB]

久保 依子
執筆者久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

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