宅配便の車両をマンションに駐車できるか

1.新築マンションでの義務化
国土交通省では「標準駐車場条例(令和2年9月7日国土交通省都市局長通知)の改正により、共同住宅の用途に供する部分のある建築物を新築等する場合においても、百貨店等と同様、一定規模以上の荷さばきのための駐車施設を附置しなければならない旨の規定を置くこととし、あわせて、地方公共団体にその旨を周知する」としている。
簡単に言うと、新築のタワーマンションなどでは、「荷捌きスペース」を設置することを義務化されることになる。駐車場法施行令の一部を改正する政令が2025年3月7日に公布された。
宅配便の車両が駐車場所に困っている様子や、台車に荷物を載せて街を走り回っている様子は日常的によく見かける光景である。タワーマンションは住戸数が多いことのほか、上下階の移動に時間がかかることを考えると、荷捌きスペースが設置されることはマンション住民にとっても、周辺地域にとっても歓迎すべきであろう。
しかし、対象とならない既存マンションやタワー型ではないマンションでも、荷捌きスペース不足の問題は顕在化している。では、既存マンションにおける荷捌きスペースはどのようになっているのだろうか。
2.既存マンションにおける「荷捌きスペース」の現状
当社の管理受託マンション4,010件のうち、分譲時に「荷捌きスペース」もしくはそれに類する場所が設置されているマンション(※)は24件で、全体の0.57%にすぎない。24件のうち10件は、比較的駅に近い100戸以上のマンションであり、荷捌きスペースのあるマンションは非常に少ないと言ってよいだろう。
※パンフレット図面集、管理規約集などに記載があるものを抽出する方法にて調査(調査期間2024年10月~2024年12月)
3.既存マンションにおける「来客用駐車場」の現状
新築時に荷捌きスペースの設置がなくとも、既存マンションが荷捌きスペースを新たに確保することはできるのだろうか。居住者の車両以外が駐車するスペースとしては「来客用駐車場」がある。当社の管理受託マンションのうち、来客用駐車場の設置のあるマンションは、436件(10.87%)であった(図1参照)。

なお、このうち4件については、トラブルが多いことなどを原因として現在は来客用駐車場の運用が中止されている。
来客用駐車場のあるマンションの属性は次の通りである。新築マンションや戸数帯の多いマンションに偏ってるわけではなく、小規模なマンションでも設置されていることがわかる(図2、図3参照)。


来客用駐車場は、新築当時から設置されているものばかりでなく、途中から居住者用の空き駐車場を来客用駐車場に転用している場合もある(図4参照)。

居住者用の駐車場を来客用駐車場に転用する事例は、昨今の空き駐車場問題とも密接に関係している。駐車場に空きが生じた場合、次のような順で解決を図ろうとする(表1参照)。来客用駐車場への転用は、空き駐車場問題の初期段階から検討される内容でもある。第4段階では駐車場事業者等と契約し収益事業の開始を届け出るなど格段にハードルが上がるが、第3段階までは比較的検討しやすい内容である。

4.来客用駐車場に宅配便の車両は駐車できるか
来客用駐車場に関する使用細則を調査した。来客用駐車場に関する使用細則を規定しているのは、来客用駐車場のあるマンションのうち、おおむね80%程度である(図5参照)。

来客用駐車場に関する使用細則のあるマンションのうち、主な利用目的である「居住者の来訪者」以外の車両はどの程度認められているのかを調査した(図6参照)。

管理用車両(管理会社が保守・点検・修繕などに使用することを想定)が174件と最も多く、宅配用車両はわずか5件にとどまっている。
※レンタカーは、管理組合が時間貸しレンタカー会社と提携し一時駐車を認めているもの
※福祉用車両とは、デイサービス利用者の送迎用として一時駐車を認めているもの
5.なぜ宅配便の車両の駐車が認められていないのか
宅配便の車両の駐車が認められていない理由を考察する。
来客用駐車場は、使用細則により事前予約を前提としており、予約がない車両は駐車できないことになっている場合がほとんどだ。その背景として、予約した車両が現地に到着した際に、宅配便の車両などが駐車していて使えないとなったら困るということがあげられる。
さらに、来客用駐車場の使用方法を理事会などで協議する場合に、その原案となる使用細則案を管理組合に提案するのが管理会社であることも要因のひとつなのではないだろうか。
管理会社とその協力会社は、清掃・点検などの際に、機材を車両に載せてマンションに赴く。車両の駐車場所がないマンションでは、機材の搬入、搬出などに苦労している。こうした経験に基づき「管理会社の日常業務に関することは忘れずに」管理組合への提案に盛り込んでいるものと推察される。
また、清掃や点検はあらかじめ日時が決められているため、管理員などを通じて予約しておくことも可能になる。自身も管理会社に籍を置く身であり、こうした使用細則を提案したこともある。今となってみれば、宅配便の車両になぜ配慮が及ばなかったのだろうと反省することしきりである。
6.宅配便の車両が駐車可能であるマンションの具体的な使用細則
使用細則に宅配便の車両の駐車を可能としている例を紹介する。
第〇条(利用資格)
来客用駐車場の使用は、本マンションの居住者の来訪者に限る。ただし、本マンションの維持管理に関わる業者の車両、緊急用車両、宅配用車両、介護・福祉用の車両についてはこの限りではない。
※以下の条文にある「利用料金の徴収」規定においても除外されている。
宅配便の再配達が社会課題になって久しい。配達における手間や時間を削減するため、来客用駐車場に予約が入っていない場合は一時駐車可能とするなど、今からでも使用細則の改正を検討できるのではないだろうか。
宅配便の車両をマンションに駐車できるか[0.9MB]

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業統括部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。