タワーマンションの管理データから紐解く 住まいの実態や維持管理上の課題

組合運営のヒント

発行元:マンションみらい価値研究所

テーマ:タワーマンションの実像

発行日:2021/05/31

公開日:2021/05/31

タワーマンションの管理データから紐解く 住まいの実態や維持管理上の課題
著者情報
  • 花輪 永子

    三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

  • 久保 依子

    大和ライフネクスト株式会社 マンションみらい価値研究所

  • 田中 昌樹

    大和ライフネクスト株式会社 マンションみらい価値研究所

  • 大野 稚佳子

    大和ライフネクスト株式会社 マンションみらい価値研究所

1.趣旨・背景

タワーマンションは全国に約1,400棟が供給されており、バブル崩壊後の都心回帰傾向や都市再生政策を背景に、特に2000年代以降、大都市部の湾岸エリアや駅前などの再開発事業等により供給が進み、眺望や日当たりの良さ、多様な共用施設、商業・公共施設の利用のしやすさなどから人気を集めてきました。一方で、戸数規模は一般的なファミリータイプのマンション(50~100戸程度)と比べても大きく、建物・設備の状況も異なることから、タワーマンション特有の管理上の課題なども想定されます。
本レポートでは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)とマンションみらい価値研究所の共同研究として、タワーマンションの管理上の課題の把握を目的に、大和ライフネクストが管理を受託する分譲マンション(2021年1月時点の全4,382棟のうちタワーマンション95棟を対象)の管理データを用いて、タワーマンションの居住実態、建物・設備の管理状況、管理組合の運営実態を分析しました。

2.調査結果の概要

①管理データからみたタワーマンションの実像

●実際に居住している区分所有者と居住していない(賃貸や投資目的で保有する)区分所有者との間で管理に対する価値観が異なることや、住居と店舗・事務所部分で区分所有者の意向が一致しないことなどにより、大規模修繕工事等の多額の支出などに向けた合意形成が困難となる可能性がある。
●資産価値・マンションの魅力向上につながる施設・設備の状況や、支出に対する人件費の割合は、管理費単価に影響を与えている。最低賃金の上昇や人手不足による人件費の高騰により、今後、日常の維持管理・清掃業務の削減、施設・設備そのものの縮小や廃止を検討する管理組合も出てくる可能性がある。
●タワーマンションにおいて電気設備・給水設備が地下に設置されている割合は高いが、水害リスクは各物件の立地の問題であり、タワーマンションに限らず分譲マンション全体に懸念されるものである。
●機械式駐車場やエレベーター等の共用部分が充実しているタワーマンションほど、大規模修繕工事等に備えて多額の積立金を確保している傾向が見られる。
●1回目の大規模修繕工事の実施時期は築14年程度と、一般的なファミリータイプのマンションに多い12年周期よりも長期化する傾向がある。また、多額の支出を伴う合意形成の難しさゆえに、工事実施を先送りしているケースや、特定の期に集約せず、単年度の支出を抑える形で中小規模の工事を繰り返すケースもみられる。


②総会の議事録からみたタワーマンション管理組合の運営の実像

●区分所有者間の意見・立場の違いが大きく、かつ理事会への要求レベルも高く、総会運営は困難となりがちである。また、戸数が多く、総会における意見交換や議論集約に限界があることから、役員が主導して議案を決め、書面による議決権行使を中心にするなど、通常のファミリータイプのマンションとは異なる運営が求められている。
●理事会役員は、支出する費用や決定事項が増えるほど、より責任を求められ、負担感も大きい。管理組合運営の高度化を図ることは、管理適正化に資する一方で、役員の責任や負担が加重されることに注意すべきである。
●建物・維持管理の難易度が高いため、知見・ノウハウを有する管理会社の果たす役割が極めて大きい。よって、管理会社への信頼感を高めて協力関係を築くことが重要と考えられる。
●共用部分が充実したタワーマンションでは、一般的なファミリータイプのマンションに比べて区分所有者の資産価値維持に対する意識も高い。一方で、利用が多様化し、非居住者が出入りする住戸が存在するマンションの場合は、マナー違反などのトラブル等のリスクも想定される。

③まとめ

●管理組合においては、まず、タワーマンションとしての居住者の期待や資産価値とのバランスを考えたコストの配分などの管理水準について合意形成を図るべきである。そしてその水準に沿った継続性のある管理組合運営を行う必要がある。
●購入検討者においては、快適に暮らせる住まいとしての側面だけでなく、一般的なファミリータイプのマンションとは異なる点や、そのマンションの災害リスク、永住する場合の自らのライフプランとの整合性を十分に理解しておく必要がある。
●現在国等においてマンションの管理状況に関する評価制度について検討されているが、中長期的には評価結果が売買市場に適切に反映され、管理組合のインセンティブを高めるものとなる必要がある。タワーマンションには築年数が浅い場合が多く、一般的なマンションと比べて評価が高くなりやすい一方で、管理組合の意思決定の状況が評価に反映されにくく、購入予定者へ適切に伝わらないことが懸念される。こうしたことから、タワーマンションの特徴を反映したマンション標準管理規約の制定や、タワー型の建築・設備を専門とする相談窓口の設置、専門家の育成などを図るべきである。

  • 執筆者

    花輪 永子

    政策研究事業本部 公共経営・地域政策部 主任研究員

  • 執筆者

    久保 依子

    マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

  • 執筆者

    田中 昌樹

    マンションみらい価値研究所研究員。一般社団法人マンション管理業協会出向中。現在は、マンションみらい価値研究所にて、防災・減災に関する統計データの活用や居住者の高齢化や災害の激甚化などの社会的な課題について、調査研究や解決策の検討を行っている。

  • 執筆者

    大野 稚佳子

    マンションみらい価値研究所研究員。管理現場にて管理組合を担当する業務を経験後、マンション管理の遵法対応を統括する部門に異動。現在は、マンションみらい価値研究所にて、これまで管理現場にて肌で感じた課題の解決へつながる研究に勤しむ。

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