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日本の「社会インフラ」となったマンションに存在する様々な問題を調査・分析している当研究所。ここから情報や意見・考え方を社会に向けて発信し、 新たなマンションの価値創造に貢献します。

講演・セミナー

マンションが抱える課題や法改正の解説など未来のマンション管理に役立つセミナーを開催
今知っておくべき!マンション管理適正化法改正の具体的ポイント

今知っておくべき!マンション管理適正化法改正の具体的ポイント

10月23日(木)16:00~17:15築40年を超えるマンションが増加する中、マンション管理の重要性が再認識されています。2026年度からマンション管理適正化法はマンション管理法とも呼ばれるようになり、管理不全に陥った管理組合への行政の関与度を強めます。さらに、管理業者管理者方式における管理会社への規制にも乗り出しました。マンション管理はまさに激動の時代です。大好評だった改正区分所有法のセミナーのゲスト 佐藤元先生に登壇いただき、今回は改正適正化法(マンション管理法)について解説いただきます。法の施行まであと半年。準備はできていますか?*講演の終了時間は前後する場合があります。*セミナーのアーカイブは、メルマガ会員さま限定で一定期間の配信を行う予定です。 資料配布やアーカイブに関する個別のお問い合わせにはお答えできません。*本セミナーはオンライン開催のみとなります。 会場でのご参加は受け付けておりませんので、ご了承ください。*本セミナーの録画・録音はご遠慮ください。

レポート

マンション管理に関する未発表データを分析し新しい視点から、マンションの価値を考えます
2025/09/17

改正区分所有法「出席者多数の原則」 何もしないと無視される?

1. 出席者多数の原則とは 2026年4月から、改正区分所有法が施行される(注1)。この改正に伴い、総会の決議は一部の決議を除き、出席者多数の原則が採用される。 出席者多数の原則とは何か。簡単に言うと、①会場出席者、②委任状による出席者、③議決権行使書による出席者(以下①から③をまとめて「総会出席者」という)だけで総会の採決がなされ、総会に出席しない人は総会の決議から除外されるということだ(注2)。 今までも、総会に出席しない人は決議から除外されていたのではないか?と思う人もいるかもしれない。改正区分所有法は、今までと次のような点で異なっている。 例えば、今までは普通決議の議案を採決する時の分母は、議決権の総数に対して賛成者の総数で除していた。つまり、総会に参加しない人も決議の分母には含む必要があった。しかし、改正区分所有法では分母からも分子からも除外されるのである。つまり、総会に参加しない人はいないものとされ、いわば「無視」される存在となる。2. 総会に参加した組合員の割合 総会に参加した組合員の割合はどのくらいであろうか。当社の管理受託マンションのうち、2024年に開催された総会の議事録から出席方法を調査した(注3)。 その結果、総組合員数に対して、会場出席者は31.22%、委任状出席者は21.91%、議決権行使書出席者は33.47%である(図1参照)。 何らかの形で総会に参加した組合員は86.70%となる。ここに登場しない「100%-86.70%=13.30%」、この13%強の組合員が改正区分所有法により無視されてしまう具体的な数値となる。3. 総会に参加しない組合員の属性総会に参加しない組合員はどのような人であろうか。組合員数別に総会への出席方法を調査した(図2参照)。 会場出席者の割合は、組合員数10未満の場合に最も高く、組合員数が増加するごとに減少する。それとは反対に、組合員数が増加するごとに委任状出席者や議決権行使書出席者の割合が増加する。総会参加者全体でも、組合員数が増加するに従い参加率が減少する傾向がある。ここから推察される組合員の心理として次のようなことが考えられる。 第一に、戸数が多くなればなるほど「私が参加したところで何も変わらない」と感じ、1票の重みを軽視する傾向があると考えられる。よく1票の重みが議論される日本の衆議院議員選挙における投票率は50%強である(注4)。ここから考えると総会出席率は高いようにも思えるが、国政選挙とは総数が違う。一方は総数が数十万人の選挙区であり、管理組合は多くても数百だ。1票の重みは決して軽くはない。 第二に、「他の組合員がよいなら、それでよい」という他者依存の傾向が増加することも考えられる。筆者は200戸を超えるようなマンションでも、賛成と反対が拮抗している総会を何度も目にしてきた。賛成派と反対派がそれぞれ総会前に各住戸を訪問し、なんとか自分の意見に賛成してくれるよう説明に回るという場面すらあった。実際には数百戸のマンションであれば、最後の1票で決議が変わることは充分にあり得るのだ。 今後、改正区分所有法により、戸数が多くなるほどに「無視」されてしまう組合員が増えることになる。大規模マンションであるほど、総会への参加を積極的に呼び掛けるべきだろう。 次に、築年数別に総会への出席方法を調査した(図3参照)。 総会出席者全体の割合は、築5年未満から築20年以上25年未満にかけて増加し、その後は減少傾向に転ずる(注5)。ただし、築55年以上に再度増加する。会場出席者も同様の傾向である。ここから推察される組合員の心理として次のようなことが考えられる。 第一に、築20年以上25年未満は一般的に第2回目の大規模修繕工事の時期と重なる。第1回目の大規模修繕工事と比較して、第2回目の修繕費用は高額となる。工事費用が不足する場合には、積立金の値上げを同時に決議するケースも見られる。実際に自らの負担する金額などを目にして、初めて「話を聞きに行こう」という気持ちになるのかもしれない。 第二に、築55年以上で再び増加に転ずる点に着目したい。築55年を経過すると、第5回から第6回目の大規模修繕工事の実施時期と重なるほか、組合員がそろそろ建物の将来に関して不安になる。しかし、築55年以上となってからマンションの将来を考えたのでは遅い。建替えを目指す場合は戸あたり2千万円の費用がかかると言われている(注6)。また、築55年以上と言えば、区分所有者も高齢者が多いことが予想される。その状況下では、マンションの将来をポジティブに語ることは難しくなっているかもしれない。 改正区分所有法により、特に大規模修繕工事のような関心の高い議題が無い年は、「無視」されてしまう区分所有者が増加することになる。大規模修繕工事以外に、いかに総会に興味を持ってもらうか、築20年以上25年未満の時期に迎える総会出席者数の最大値をいかに下げないで維持できるか、その方法を模索する必要があるだろう。4. 無視される存在にならないために 多くの区分所有者は、区分所有法の改正をまだ知らずにいる。これから告知していくときには「総会決議の数え方が変わった」というだけでなく、その意味の大きさを伝える必要がある。所有権という権利を持ちながら、何もしなければ「無視」されてしまうという現実を認識してもらい、何らかの形で総会への参加を促すことが求められる。注釈(注1)2025年5月23日、老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第47号)成立。(同月30日公布)(注2)出席者多数の原則を採用した条文例(下線は筆者による)(規約の設定、変更及び廃止)第31条 規約の設定、変更又は廃止は、集会において、区分所有者(議決権を有しないものを除く。以下この項前段において同じ。)の過半数(これを上回る割合を規約で定めた場合にあつては、その割合以上)の者であつて議決権の過半数(これを上回る割合を規約で定めた場合にあつては、その割合以上)を有するものが出席し、出席した区分所有者及びその議決権の各四分の三以上の多数による決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。(注3)調査の概要調査時期 2025年4月~6月の期間調査対象 2024年に開催された総会議事録調査総数 3,609件調査方法 総会議事録に記載のある組合員数(総戸数ではない)、会場出席者数、委任状提出者数、議決権行使書提出者数を拾い出す方法による。なお、明らかな誤記があるものは集計から除外。(注4)総務省「国政選挙における投票率の推移」(2025年7月29日ダウンロード)https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/ritu/index.html(注5)図3の数値(築年数別総会への出席方法)(注6)国土交通省「老朽化マンションの建替え等の現状について」(2025年7月29日ダウンロード)https://www.mlit.go.jp/common/001024893.pdf※一部の数値は端数処理を行っているため、合計値との間にわずかな差異が生じることがあります。10月開催セミナー今知っておくべき!マンション管理適正化法改正の具体的ポイント
改正区分所有法「出席者多数の原則」 何もしないと無視される?
2025/07/30

マンション内における管理組合と自治会の役割分担

 マンションの管理組合と自治会の関係については、従来よりさまざまな場面で議論がされている。マンション標準管理規約のコメントなどでは、両者は別個の団体であり、別に運用されるべきであるとされている。しかし、比較的小規模なマンションでは、管理組合と自治会を別々の組織としてマンション内に存在させることは、区分所有者や居住者の時間的制約の中では難しく、管理組合が自治会的な機能を果たしているケースも少なくない。 一方、比較的規模の大きいマンションでは、管理組合と自治会の役割を区分し、マンション内に両方の組織を立ち上げているケースもある。今回は、後者の管理組合と自治会の両方を設立しているマンションについてレポートする。1. 管理組合と自治会の両方を設立しているマンションの特徴 当社の管理受託マンションにおいて、以下の方法により調査した結果、管理組合と自治会の両方を設立しているケースは17件あった(図1、2参照)。 調査対象:当社の管理受託マンション 調査方法:管理組合の総会議案書または議事録から「自治会」の存在が確認できる記述のあるマンションを抽出。管理組合側の資料に何ら記載のない自治会がある場合は含まれない。 では、いつ頃から管理組合とは別に自治会が設立されたのであろうか。自治会が設立された管理組合の「期」(管理組合が成立してからの経過年数)を調査すると、第1期が最も多い(図3参照)。 第1期に自治会を設立したマンションでは、分譲時に、事業主から「管理組合とは別に自治会を設立すること」、という主旨の重要事項説明がなされ、それに基づき自治会の設立総会を開催し設立している。このことから推察すると、マンション建設に際し、事業主が近隣住民との協議において、マンションの居住者のみで自治会を設立し、自治会連合会などに加入することを近隣住民との間で約束したものと想像される。 一方、一定の時間が経過した後に自治会を設立したケースでの設立の理由を調査した(表1参照)。 マンション内に自治会を設立する目的として、行政からの防災備品購入費用などの「補助金」を得ることが目的のひとつとなっていることが伺える(A、D、E)。 なお、平成27年総務省自治行政局住民制度課長通達「都市部をはじめとしたコミュニティの発展に向けて取り組むべき事項について(通知)」では、管理組合による活動を次のように肯定している。 「都市部では、地縁団体に限らず、マンションの管理組合をはじめとする多様な主体がコミュニティ活動を展開していることが特徴であり、自主防災組織として、これまで地縁団体が主なベースとして想定されてきたところであるが、多くの区分所有者が居住者として住むマンションにおいて自発的な防災活動を行う管理組合等も自主防災組織として位置づけることが有効であると考えられること」 この通達に照らして考えれば、自治会の設立がなくとも、管理組合に対して防災備品の購入費などの補助がされてもよいのではないかとも考えられるが、未だ各自治体の実情はそこまで及んでいないようである。2. 自治会費の徴収方法 管理組合の会計業務は、管理会社に委託して実施されているが、自治会を別に組織する場合、自治会の会計業務は管理委託契約に含まれていない。そのため自治会費の徴収は自治会が行うべきものとなる。 しかし、管理組合が代行徴収し、自治会に支払っているケースもある(図4参照)。管理組合の代行徴収には次のような問題点が存在する。①自治会費の徴収にかかる費用を管理組合が負担することになる②管理組合が徴収した自治会費が、自治会に入金されるまでの間にタイムラグがある 実は、このタイムラグの問題が最もトラブルになりやすい。例えば、次のようなケースだ。 ア.管理組合は居住者から3月分の自治会費を3月6日に徴収する イ.管理組合から3月10日に徴収済みの自治会費をまとめて自治会に振込む ウ.3月20日に自治会を退会したいという居住者が現れ、10日分の返金を請求する この場合、管理組合はすでに自治会に対して自治会費を支払い済みであり、返金するための原資がない。返金しようとするなら、管理費から支出するしかない。かつ、自治会から管理組合に資金を戻そうとしても自治会費は月額100円~300円程度と低額であることが多く、振込手数料の方が高額になることさえある。 自治会役員が集金しているケースでは、一定の期間に役員が集会室に常駐し、その日時に居住者が集会室を訪問して支払う等、さまざまな工夫をしているが、役員の負担は非常に大きいであろう。3. 自治会を設立したが、解散した事例 管理組合とは別に自治会を設立したものの、その後解散した事例も4例ある。それらの解散に至る経緯や解散理由は次のとおりである(表2参照)。 解散事例からは「防災活動は誰が実施するのか」が問題になっていることがわかる(J、K)。 確かに、管理組合の目的である「建物並びにその敷地及び附属施 設の管理」の範囲内で行われるコミュニティ形成はマンション標準管理規約でも管理組合の活動として認められている。自治会の活動が主に防災活動であるなら、1つにまとめる方法も検討するべきだろう。管理組合と自治会の役割分担をあらかじめ決めておくべきことを示している事例である。4. まとめ管理組合と自治会の組織の違いは次の通りである(表3参照)。 最も大きな違いは、管理組合はある意味強制加入であるが自治会は任意加入であること、管理組合は滞納管理費等に関して特定承継が可能であるが、自治会には資金面においてそのような法規定がないことであろう。管理組合の業務とするのか、自治会の業務とするのかは、両団体の特性を比較し「どちらが業務を行うことが適切か」を比較したうえで検討することが必要だろう。
マンション内における管理組合と自治会の役割分担
2025/07/01

公平な意思決定へ:原始規約における議決権の設定方法と実態

1. 議決権の設定方法 新築分譲マンションの最初に作られた管理規約を「原始規約」というが、これを作成するときに、最も気を遣うのが「議決権数」である。 原則として、議決権数は共用部分の共有持分と同一の割合である。多くのマンションの共有持分は、専有部分の専有面積割合としている。つまり、原則論でいえば、議決権数は4桁ほどの数字となる。 ここで、実際の総会の場面を考えてみよう。「賛成の皆さん、挙手してください」との議長の呼びかけに、ばらばらと挙手がされたとしよう。共有持分と議決権数が同じである場合は、挙手した人の部屋番号とその議決権数を突合して賛成者をカウントする必要が生じる。何桁もあるような議決権数を1戸ずつ足し算するのは非常に面倒だ。 こうした手間を少しでも軽減するために、均一な専有面積の住戸で、共有持分もまた均一であれば、「1住戸1議決権」とする。しかし、実際のマンションは均一な面積の住戸ばかりではない。こうした場合に、共有持分に応じて議決権数を変更することがある。のちに、「〇〇号室と比較して専有面積が大きいのに、議決権数が同じなのはおかしい!」という区分所有者間の不公平感が生じないようにするためである。 こうした共有持分以外の議決権数の設定を本レポートでは「議決権数の変則設定」と呼ぶことにする。なお、管理規約による議決権の変則設定は、区分所有法第38条において認められている。区分所有法を勉強した方ならよくご存じであろう「規約による別段の定め」である。 なお、マンション標準管理規約では、各戸の階数・方角(眺望、日照等)等の価値の違いに基づく「価値割合」で議決権を設定することも容認している。  では、具体的に考えてみよう。60㎡と120㎡の専有部分があり、専有面積に応じて共有持分があるとする。この場合の議決権はいくつに設定するのが適切だろうか。誰もが次のような設定とするだろう。 では、60㎡と90㎡の専有部分があり、専有面積に応じて共有持分が設定されているとする。この場合の議決権はいくつに設定するのが適切だろうか。 この場合には、60㎡の住戸の議決権数を「2」、90㎡の住戸の議決権数を「3」に設定する。「1住戸1議決権」という言葉が浸透しているせいか、最小数を「1」にすることにとらわれがちであるが、最小数は「1」とは限らないのである。 議決権数の種類が多くなっても、実際の総会の際には集計に時間がかかってしまう。「議決権数が1の人が〇名、2の人が〇名・・・」というように、議決権の種類ごとにカウントする必要があるからだ。管理組合の中でよく行われているのが、議決権の数ごとに着席する場所を分ける方法である。集計時間を少しでも減らすためには、議決権の数の種類は少ない方がよい。 以上のように、議決権の数を設定しようとするときは、次の二つの相反するポイントを考慮しながら最善の議決権数を考えることになる。 ①不公平感をできる限り少なくするために、議決権の数を増やす ②総会の際の議決権数のカウントをしやすくするために、議決権の数を減らす2. 実際の管理規約における議決権の定め 当社の管理受託マンションのうち、議決権の変則設定がされているマンション75件についてその実態を調査した。①議決権の最小数 議決権の最小数は次のとおりである(図1参照)。 「1」が78.67%と最も多いが、「0」も2.67%あった。議決権数が「0」であるとは、共有持分があるにもかかわらず、議決権がないものをいう。分譲駐車場や分譲トランクルームなど、専有面積が小さい専有部分において議決権数が「0」の設定がされている。 なお、マンションの建替えなどの際は、共有持分による議決権数で決議される。規約による議決権数が「0」の場合は、通常の総会などでは議決権が行使されてこなかったが、建替え決議の段階ではじめて議決権の行使がされることになる。通常の場合と決議の状況が異なるため、事前の賛成数の予測などの際にも注意が必要だ。②議決権の最大数 議決権の最大数は5未満が57.33%であるが、20以上の議決権数が設定されている専有部分もある(図2参照)。議決権数が大きくなると、総会における発言力が増す。共有持分にのみ着目して議決権数を設定すると、場合によっては少数の区分所有者の反対で特別決議が否決されることになりかねない。議決権の設定は、持分割合だけでなく全体のバランスを配慮する必要も生じる。③議決権数の最小値と最大値の幅 議決権数の最小値と最大値の開きはどのくらいあるのだろうか。前述のとおり、議決権の最小数は「1」とは限らない。あるマンションでは、「1」から「3」であろうし、あるマンションでは「3」から「8」であったりする。こうしたマンションごとの議決権数の差を比較するため、議決権数の最小値を「1」とした場合の議決権の最大値を算出した(図3参照)。 4未満までの開きが50%以上を占めるが、10以上開いているマンションも13.33%ある。こうした最小数と最大数の差が大きいのは、複合用途型などで住戸と店舗が混在している場合である。④変則設定で不公平感は解消しているのか 共有持分に応じて議決権を設定すれば、不公平感は解消する。しかし、全体のバランスからあえて共有持分とは異なる議決権数を調整している場合もある。そこで、共有持分「1」に対して議決権数はどのくらいになっているかを調査した(図4参照)。「1」より大きければ、実際の共有持分よりも議決権数が大きいことになる。 「1」より小さい場合は、24.0%であり、議決権を制限している例もみられる一方、議決権が実際の共有持分より大きい「2」以上の場合も9.33%ある。 これがマンションにおける「一票の格差」の実態である。国政選挙の際にいわれる一票の格差よりは小さいが、マンションにもその格差は存在することが分かる。3. さらに特殊な変則設定 共有持分に応じて議決権数を設定することのほか、別の基準を用いて議決権数を設定しているケースもある。それらの例を紹介しよう。 賃貸マンションなどを不動産会社が買い取り、分譲リノベーションマンションとして販売する場合、賃借人が退去するごとに販売することになる。この場合、長いと何年間も不動産会社が住戸を保有することになる。かつ、分譲当初は相当数を不動産会社が保有することになるため、総会は不動産会社が賛成しなければ何も承認されないことになってしまう。リノベーションマンションを購入しようとする人の中には、このことを危惧する人もいる。 こうしたことから、一部の不動産会社では、購入を検討する客に安心感を与えるため、多数の住戸を保有する場合の議決権を制限する例もある。4. 議決権の行使をしよう 議決権数の最大値、最小値、その幅など、原始規約の作り手が、苦心の末に設定した議決権数であっても、議決権の行使がされないことが問題となっている。総会の参加者が少ない、委任状や議決権行使書も提出されない、賛成者数が足りないなどの事態も発生している。マンションの管理規約を確認し、自分自身の議決権がいくつあるのか、マンション全体にどのくらいの影響があるのかをぜひ確認してほしい。もしかすると、大きな議決権を持つ人がマンションの意思を左右しているかもしれない。あなたが賛否を表明しないことで、マンションの将来が決まらずに他の区分所有者が困っているかもしれない。<記事紹介>区分所有法第45条 書面総会の実態 ~組合員全員の承諾や合意はできるのか~マンション標準管理規約の変遷~昭和57年版から最新令和6年版まで~
公平な意思決定へ:原始規約における議決権の設定方法と実態

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(令和6年度 厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究) 独居認知症高齢者等の地域での暮らしを安定化・永続化するための研究 「分譲マンションにおける要配慮者災害対応マニュアル」
2025/08/06

(令和6年度 厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究) 独居認知症高齢者等の地域での暮らしを安定化・永続化するための研究 「分譲マンションにおける要配慮者災害対応マニュアル」

 2024年、マンションみらい価値研究所は、国立研究開発法人防災科学技術研究所に協力し、マンションの管理員に対するアンケート調査(以下「本調査」とする)を実施し、災害時の要配慮者の有無や災害時要配慮者名簿の有無などを明らかにした。また、本調査の結果に基づいた「分譲マンションにおける要配慮者災害対応マニュアル」を作成した。1.災害時に配慮を要する方の居住有無について(1)災害時に配慮を要する方は多様であり、以下はその例である。①高齢者(避難時の行動に配慮を要する場合)②高齢者(認知機能の衰えが見られ、配慮を要する場合)③肢体不自由の人(障害のある方)④目の不自由な人(障害のある方)⑤聴覚・音声言語障害のある人(障害のある方)⑥知的障害のある人(障害のある方)⑦内部障害のある人・難病患者・医療機器を使用中の人(障害のある方)⑧妊娠中の人(出産後からまもなく避難行動が困難な場合を含む)⑨乳幼児・児童⑩外国人で日本語に不慣れなど避難行動が困難な方⑪その他(2)災害時に配慮を要する方の有無を把握するため、下記のいずれかに該当する居住者の人数について管理員にアンケートを実施した。① 独居高齢者、高齢者のみでお住まいの方② 妊娠中の方、乳幼児の養育者、乳幼児・児童、外国人で日本語の理解が困難な方③ 知的障害がある方、精神疾患がある(と思われる)方、意思疎通が難しい方、認知症と思われる方④ 歩行機能に障害がある方、目の不自由な方、聴覚に障害がある方⑤ 要支援・要介護高齢者、訪問医療・看護・介護を受けている方、医療機器を利用している方、寝たきりの方アンケート結果は以下の通りとなった。 「独居高齢者・高齢者のみでお住まいの方」が「いる」と回答した割合は80%を超え、その他の要配慮者についても「いる」の回答が多い結果となった。このことから、多くの分譲マンションでは災害時に配慮を要する方が居住していると推測される。2. 要配慮者名簿について(1)要配慮者名簿の作成状況について、管理員にアンケートを実施した。 分譲マンションにおいて災害時要配慮者名簿を作成している割合は10.4%となった。災害時要配慮者名簿は、災害時に要配慮者への適切な対応を行うために必要となる。すでに約1割の分譲マンションで、要配慮者を考慮した取り組みが始まっていると考えられる。3. 「分譲マンションにおける要配慮者災害対応マニュアル」について 本調査結果をふまえ、災害時要配慮者への災害対応を促進するため、管理組合向けに「要配慮者災害対応マニュアル」を国立研究開発法人防災科学技術研究所が作成し、当社も協力した。本マニュアルでは、マンションの管理組合が災害対策の主な担い手となる前提のもと、管理組合としての進め方を詳細に説明。さらに、支援を行う人の負担やリスクにも配慮した内容となっている。>マニュアル研究名(厚生労働科学研究(認知症政策研究事業)(課題番号22GB1003))「独居認知症高齢者等の地域での暮らしを安定化・永続化するための研究」
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令和5年度マンション管理適正化・再生推進事業 (課題の解決に向けた事例の収集・分析等を行う事業)既存マンションにおける修繕積立金の増額に係る合意形成プロセスの実態 及び段階増額積立方式を採用した長期修繕計画上の資金計画の設定状況に関する分析
2025/05/07

令和5年度マンション管理適正化・再生推進事業 (課題の解決に向けた事例の収集・分析等を行う事業)既存マンションにおける修繕積立金の増額に係る合意形成プロセスの実態 及び段階増額積立方式を採用した長期修繕計画上の資金計画の設定状況に関する分析

趣旨・背景 全国のマンションストックにおいて「2つの老い」が進行するとともに、直近では建設コスト等の高騰から、将来必要となる修繕費用が上振れし、区分所有者にとっての経済的負担が従来以上に大きくなる可能性が出てきている。一方で、近年分譲されるマンションの多くが、管理開始当初から一定の期間ごとに修繕積立金の徴収額を引き上げる「段階増額積立方式」を採用しており、「段階増額積立方式」を採用した資金計画では、将来にわたって計画通りに徴収額が引き上げられることが前提となっている。しかし、修繕積立金の改定には総会決議が必要であり、修繕積立金を大幅に引き上げようとすると、総会では決議が得られず、計画通りに引き上げができないおそれもある。 こうした状況を受けて、国土交通省ではマンション管理計画認定制度の見直しに向けた検討を行い、2024年6月には「標準管理規約の見直し及び管理計画認定制度のあり方に関するワーキンググループとりまとめ」が公表された。その中で、現行の管理計画認定基準へ「段階増額積立方式における適切な引上げの考え方」を盛り込む方向が示されいる。 このように、管理計画認定制度のあり方の見直しが進む状況を踏まえ、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)とマンションみらい価値研究所は、国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業(課題の解決に向けた事例の収集・分析等を行う事業)」を通じて、 段階増額積立方式における修繕積立金の引き上げの実態や、管理組合における合意形成の状況を把握するための調査・分析を実施し、その結果を本論文としてとりまとめた。調査結果の概要(1)   既存マンションにおける修繕積立金の増額に係る合意形成プロセスの実態分析2018~2023年の5年間で、大和ライフネクストの管理受託物件(分析対象:3,629管理組合)の約6割で修繕積立金の徴収額が増額となった。従前の修繕積立金の設定水準が低い管理組合では、5年間における増額の変動幅が大きい傾向がみられ、管理組合として増額を許容できる状況であったことが推察される。経年化に従い、修繕積立金の設定水準が高くなる一方で、増額の変動幅が小さくなる傾向がみられ、増額が困難となりやすい状況がうかがえる。積立金の増額に対する総会決議が可決された事例では、可決以前の修繕積立金の設定水準が低く、必要な修繕費用の確保ができていなかった等の状況から、増額が許容されやすい状況であったと推察される。積立金の増額に対する総会決議が否決された事例全体でみると、総会での否決を経て実現した増額幅は、提案時に比べて1割程縮小している。(2)段階増額積立方式を採用した長期修繕計画上の資金計画の設定状況に関する分析大和ライフネクストが管理を受託する既存マンションで作成されている長期修繕計画上の資金計画上、最終年度の収支が黒字となっている事例は2割程度で、このうち段階増額積立方式を採用している割合は4割程度となっている。計画期間の最終年度の収支が黒字となっていない事例が一定程度存在するが、計画期間中に必要な修繕費用を精緻に予測することは困難である。実務上、資金計画の検討や管理組合への説明においては、最終年度の収支よりも、計画期間前半の設定が重視される傾向にある。また、定期的に計画見直しを継続することで、計画の精度を担保している。 修繕積立金の増額幅のみで修繕積立金の充足状況を判断することは困難であり、一般会計・収益事業会計からの繰り入れ状況も考慮する必要があると考えられる。 長期修繕計画・資金計画の概念が登場したのは1980年代前半であり、当時は長期修繕計画の内容は、具体的な工事費用が提示されず、修繕実施時期の見込みのみが示されていた。また、段階増額積立方式という概念もその後に民間事業者の取り組みから生まれてきたものである。管理計画認定基準において段階増額積立方式に基づく資金計画を確認する際には、資金計画を作成しないことが一般的であった当時から存在する高経年マンションへの配慮が必要と考えられる。
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