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マンションみらい価値研究所セミナー【区分所有法の今までとこれから~区分所有とは何か、本当の意味を考える~】

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10月17日(木)16:00~17:00第23回 マンションみらい価値研究所セミナー【区分所有法の今までとこれから~区分所有とは何か、本当の意味を考える~】2024年10月17日(木) 16:00- @ZOOMウェビナー日本の区分所有法研究の第一人者である早稲田大学名誉教授の鎌野邦樹先生をお迎えし、「区分所有法の今までとこれから~区分所有とは何か、本当の意味を考える~」と題してお送りします。区分所有法が制定されてから、60年以上が経ちました。現在、分譲マンションには日本人の1割以上が居住しているとされ、築年数を経て、様々な課題が浮かび上がっています。本セミナーでは、鎌野先生に、区分所有建物の歴史を振り返って頂いた上で、分譲マンンションの今後について考えます。■セミナー参加をご希望の方は、メルマガ会員登録が必須となります。 会員登録完了後にセミナーをお申込み頂けます。■すでにメルマガ会員の方は、 9/20(金)配信のメールマガジンのリンクよりお申し込みください。■セミナー終了後はメルマガ会員さま向けに期間限定のアーカイブ配信を予定しています。

レポート

マンション管理に関する未発表データを分析し新しい視点から、マンションの価値を考えます
2024/09/05new

本当は何戸あるのか分からないマンションストック戸数 ~あとから分譲マンションになった建物の存在~

はじめに、分譲マンションとは何かを簡単に定義しておこう。ごく一般的には、分譲マンションとは「区分所有を用いた共同住宅で、分譲(販売)されたもの」とされている。本レポートでは、さまざまな理由で竣工後に「区分所有を用いた共同住宅」に変更されたものを含めて「分譲マンション」と呼ぶことにする。実に意外なことであるが、分譲マンションは日本に何戸存在しているのか。その正確な数は明らかになっていない。そう言うと「国土交通省が出している数字があるのではないか」と思われる人もいるだろう。国土交通省発表の「分譲マンションストック数の推移」では、「現在のマンションストック総数は約694.3万戸(2022年末時点)」とされている。このグラフは、マンション管理に関わる人なら何度か目にしたことがあるだろう。■分譲マンションストック数の推移分譲マンションストック数の推移しかし、そのグラフの下にではいくつかの注釈が加えられている。本レポートでは、これらの注釈のうち、次の記載に注目したい。※ 新規供給戸数は、建築着工統計等を基に推計。※ ストック戸数は、新規供給戸数の累積等を基に、各年末時点の戸数を推計。まず、「建築着工統計」を確認してみよう。ここでは、「新設住宅」を「持ち家/貸家/給与住宅/分譲住宅」に分類し、さらに分譲住宅をマンションと一戸建てに分類している。(参考)建築着工統計/住宅着工統計新築時に分譲マンションとして販売された以外にも、当初賃貸マンションなど別の用途で建築されたが、その後用途変更などが行われ、現状では分譲マンションと同様に市場で取引されている区分所有建物がある。こうした区分所有建物も、マンション管理適正化法第二条に定められている「マンション」にあたると考えられるが、国土交通省の「分譲マンションストック数の推移」に算入されていないのである。今回はこうした「新築後に何らかの方法で、区分所有を用いた共同住宅となり、現在は通常の『分譲マンション』と同様に扱われている『区分所有建物』」について分析する。1.あとから分譲マンションになったマンションの戸数当社受託管理マンション280,367件のうち、あとから『分譲マンション』になった戸数は1,967戸(0.7%)であった(図1参照)。■図1 あとから分譲マンションになった割合2.分譲マンションになる前の、もとの利用方法あとから『分譲マンション』になった建物は、それ以前は誰がどのように利用していたのだろうか。利用方法について調査したところ、①親族間での区分所有、②賃貸マンション、③社宅、④不明の4分類となった。それぞれの割合は図2の通りである。■図2 分譲前の利用方法①親族間での区分所有相続税対策などでマンション1棟を複数の親族で所有する場合に、親族で区分所有する場合と1棟を共有名義にする場合がある。例えば、ABCの3人でマンションを所有しようとする場合、住戸ごとに区分所有者を定めて登記する場合と、誰がどの住戸を所有するのかを定めずに3人の共有にする例がある(概念図参照)。親族で区分所有する場合、区分所有建物であっても新築マンションとして販売されることはない。区分所有者が自ら居住するか、賃貸マンションとして貸し出される。■概念図なお、親族間での区分所有であっても、適正化法は適用される。区分所有法も適用されるため、集会の開催など法律の規定に準ずる必要がある。ただし、親族間の話し合いで運営できるのであるから、通常の管理組合運営よりも合意形成はしやすいのかもしれない。当社の管理受託マンションにおいて、親族間で区分所有されていた当時の総会議案書や議事録の保管は確認することができなかった。日本の区分所有法においては、管理者の選任や規約の設定は任意であるため、通常の管理組合と同等のレベルでの運営がされていなかったものと考えられる。相続が発生したあと、親族間で区分所有されていたマンションは、それぞれの区分所有者が住戸を売却することもある。通常の分譲マンションと同様に市場で取引される。民法上の共有名義で所有していた場合は、相続の際に区分所有建物に登記を変更し、相続人が住戸を売却することになる。しかし、新築マンションとしての販売ではないため、「分譲マンションストック数」にはカウントされていないと考えられる。②法人所有の賃貸マンション新築時に法人が1棟でマンションを所有し、賃貸マンションとして運用していた建物が販売された事例である。もともと賃貸することを目的として建築されたのであるから、新築マンション分譲戸数にはカウントされてないと考えられる。 具体的には、新築時に所有していた法人(以下「もとの法人」という)が何らかの理由で収益物件としての運用をやめる場合に、不動産会社がその建物を買い取り、専有部分や共用部分をリノベーションし、分譲マンションとして再販売するケースである。この場合、もとの法人から不動産会社に所有権が移転するときは、賃借人が居住したままとなる。いわゆる「居抜き」物件として取引される。もとの法人と賃借人の間の賃貸借契約はそのまま不動産会社に引き継がれるため、所有者が変わったからといって、賃借人が一斉に退去しなければならないということはない。多くの場合は、購入した不動産会社が賃借人が退去するごとに1戸ずつ販売している。この販売形式の場合、区分所有マンションとなった初期段階は、不動産会社が多数の議決権を持ち、購入した区分所有者の議決権は少数である。この点を問題視する人も多い。ただし、年月が経過すればその議決権割合が逆転、最終的には解消することもあり、当社の管理受託マンションにおいては、不動産会社が多数の議決権を持っていることが管理組合運営に大きな支障をきたしたという事例は聞かれていない。 なお、もとの法人が不動産業者の場合は、次の2通りの事例があった。(1)賃貸マンションとして建築し、自ら運用していたが、中古マンションとして販売する場合(2)分譲マンションとして建築を始めたが、市況の急激な変化等により販売を中止し賃貸マンションとして運用、その後市況をみながら中古マンションとして販売する場合③法人の社宅法人が従業員の社宅として建築した建物が販売された場合である。社宅として建築されたのであるから、「分譲マンションストック数」にはカウントされていないと考えられる。バブル崩壊以降、日本の大手企業は社宅制度を廃止し、給与水準の改善を図ったり家賃補助制度に切り替えたりと、福利厚生制度の見直しを始めた。この時期に廃止された社宅が不動産会社に売却され、不動産会社がリノベーションした上で販売を始めた。多くの社宅が分譲マンションに切り替わっていった。また、リノベーションマンションという言葉もこの時期に一般化していったようである。賃貸マンションとの比較で大きく異なる点は、法人が売却する際に社員が一斉に退去する点である。賃貸借契約ではないから、社宅の場合は一斉退去が可能だ。不動産会社からすれば、全戸空室となれば共用部分も大きくリノベーションが可能であり、新築マンションの販売ノウハウを生かすことができる。モデルルームを設置して周囲に販売広告を展開するのは得意分野だ。そのため、社宅の買い取りが不動産業界で大いに盛り上がった。 ただし、大手企業の保有する社宅の数には限りがあるからか、数年のうちに社宅を販売するという話はあまり聞かなくなった。④不明当社に保管されている書類では、販売前にどのような用途で使用されていたのか判別がつかなかった建物である。登記簿を見ても、前の所有者は分かるが、賃貸マンションなのか社宅なのかは判然としない。販売時の不動産会社の重要事項説明書等でも従前の利用方法についての記載はなく、追いかけることができなかった。3.正確な分譲マンションストック数の把握にむけて 前述の通り、当社の管理受託マンションのうち、0.7%が「あとから分譲マンションになった建物」である。これを国土交通省のストック戸数694.3万戸に当てはめると4.86万戸となる。当社における割合がそのまま日本全体の数字を反映しているものとは言い難いが、数万戸の単位で分譲マンションストック数のカウントから漏れている可能性があるのではないだろうか。分譲マンションストック数が正確に把握されていないと、マンションに関する政策を見誤る可能性も出てきてしまう。マンションに関する試算をしようというときに、過大評価されたり過小評価されたりすると、管理組合やマンション管理に関わる業界全体に影響が及びかねない。 しかし、分譲マンションストック数を今から正確に把握するのは難しい。例えば、不動産中古売買の広告に掲載されているマンションの総戸数を調査するなどの方法も考えられるが、この場合は長期にわたり売買されていないマンションは集計から漏れてしまうし、そもそも広告に記載のある戸数もどこまで正確なのか分からない。 人海戦術で建物を調査するにしても、外観からは分譲マンションなのか賃貸マンションなのか分からない。最も実数に近くなるであろう調査手法は、全国の登記簿を調査し、区分所有登記になっている建物のうち用途が住居であるものを集計することだろうか。それでも実際は事務所やホテルとして使用されていたりすることもあるだろうし、膨大な費用と時間がかかる。また、調査している最中にも賃貸マンションが分譲マンションになったりと、どんどん変化していってしまう。 私たちができる方法としては、非常に時間がかかるかもしれないが、地方自治体が始めている届出制度などに協力し、自治体ごとに実数の把握ができるようにすることなど、マンション側からできるアクションをひとつひとつ実行していくことだろう。それが、マンションに関する正しい試算につながり、本当に必要な政策が実現されるようになる第一歩なのかもしれない。■関連レポート令和元年度「厚生労働科学研究(認知症政策研究事業)(課題番号19GB10001)独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりのための研究」~分譲マンションに暮らす高齢者の現状の推計と課題の検証~地域における高齢者分布の可視化とその活用に関する研究■参考文献バブル崩壊に伴う給与住宅 (社宅) システムの研究
本当は何戸あるのか分からないマンションストック戸数 ~あとから分譲マンションになった建物の存在~
2024/08/15

ビル管理の実務家から学ぶ分譲マンション管理

建物には、分譲マンションのほかに商業ビルや低層の商業施設、賃貸マンション、ホテルなどさまざまな種類がある。管理の手法もそうした種類によって異なり、管理を行う事業者も住み分けがされている。規模の大きな不動産管理会社の場合は、1社でさまざまな建物を管理していることもあるが、基本的には建物の種類ごとに部署や職種・業種が分かれている。このことは、建物の用途に特化した管理ノウハウが構築しやすい面がある。しかしながら、建物の特性に応じた管理のノウハウは、別の建物の担当者にはあまり共有されておらず、建物の専門性が増せば増すほど、広い視野を持つことが難しくなる面がある。 今回、収益不動産のマネジメント※1に携わる実務家にヒアリングを行った。外から見ると分譲マンション管理はどのように見えるのかを明らかにしたい。さらには、ビル管理手法をヒントに、分譲マンションの課題解決に応用できるヒントを探り、マンション管理に係るすべての方に向けてお届けしたいと思う。※1 本稿では、収益不動産のマネジメントを「ビル管理」とする。1.ビル管理は3種類の会社の分業で行われている(1)ビル管理を分業する3業種 ビルなどの収益不動産の管理をご存じの方には入門的な知識ではあろうが、マンション管理にはなじみのない用語を最初に紹介しておこう。収益不動産の管理ではアセットマネジメント会社(以下「AM会社」と略する)、プロパティマネジメント会社(以下「PM会社」と略する)、ビルメンテナンス会社(以下「BM会社」と略する)とよばれる3種類の役割を担う会社があり、ひとつの収益不動産において業務を行うことが一般的となっている※2。分譲マンションの管理会社は通常1社であり、こうした階層的な分業はなされていない。管理組合は1社に業務を委託していることと比較すると、3社は多いようにも思える。それぞれの会社は次のような役割を担っている。※2 PM会社が点検や清掃会社を手配し一括的に業務を行う、BM会社を用いない例もある。また、AM会社を置かず、オーナーが自ら資産運営を行ったり、PM会社がAM的なアドバイスを行うこともある。従って、3種類でない場合もある。①AM会社 アセットマネジメント会社の略。個人や法人などのオーナーから資産価値の向上を委託される会社であり、不動産や株式、債券などが委託される主な資産である。不動産の場合、その建物から得られる賃貸収入を増加させたり、建物自体の価値を上げて売却益を得たりすることを目的とし、管理業務や賃貸経営などを行う。収益を最大化するのが目的となる。オーナーからの評価を得るために、高い家賃を設定し、点検や清掃などのランニングコストを抑えて収益率を上げたい思惑が働くが、中長期的な資産価値の最大化のために建物自体に大きな改修を検討したり、商業施設の大規模なイベントを企画したりすることもあるので、目先の費用だけに捉われるものではない。②PM会社 プロパティマネジメント会社の略。その建物の賃借人(テナント)の募集、賃料の交渉、賃料の回収など、賃借人に関する管理運営をすることが業務となる。オーナーからではなく、AM会社から業務を委託される。賃借人を募集しやすくするために賃料を安く設定してほしいという心理が働くことがある。③BM会社 ビルメンテナンス会社の略。建物の設備の点検、清掃、小修繕などが業務となる。PM会社から業務を委託される場合と、AM会社から委託される場合がある。点検や清掃で収益を上げているため、点検や清掃にもコストをかけてほしいという心理が働く。(2)ビル管理とマンション管理の評価のしやすさ、しにくさ AM、PM、BM会社の3社の利害は必ずしも一致していない。ただし、AM会社が運営に失敗しオーナーから解約されるとPM、BM会社も解約となる可能性があり、基本的には同じ方向を向いているといえるだろう。そうした三者の役割分担の中で、市場における需要と供給とのバランスを図りながら、最終的にはオーナーの利益の最大化が図られていく。結果は「金銭的価値」で示されるため、評価基準は明確で非常にわかりやすい。 一方、ごく一般的な分譲マンション管理において、AM会社に相当する役割を担うのは、理事会になる。理事会役員は、区分所有者全員から委任をうけ、管理を行っている。PMの役割を担う会社はなく、マンション管理会社はBMに相当する。ビル管理におけるAM会社が金融機関などのプロの企業であるのに対し、理事会はいわば素人である。建物全体の価値や収益率がどうなっているのかという市場評価を図る意識は薄く、理事会の業務を数値で評価することも難しい。2.ビル管理の意思決定は「金銭的価値」によって行われる(1)ビル管理の意思決定 例えば、ビルのエントランスの美観など価値向上に繋がる改修工事に3,000万円かかるとしよう。その改修工事をすることによって、収益が3,000万円以上生じるのであれば工事をするし、そうでなければやらないというのが基本的な考え方だ※3。  また、入居しているテナントがすぐに賃料の値上げに応じるとは限らないが、周辺ビルの状況に比較して外観が見劣りしているなどの理由により、テナントの会社のブランド戦略などと合致せず、テナントが解約を検討する要因になるようであれば、賃料のマイナス要因が収益に及ぼす悪影響を算出し、改修を実施した場合との比較がプラスであれば、工事は実施される。常に、周囲の建物の状況や賃料相場を考慮し、金銭的価値を算出しながら意思決定がされていく。※3 この場合収益は何もプラスに限らず、このままの建物の状態であれば、マイナスが一定期間で見込まれる場合、それを通常の水準に戻す場合も含まれる。(2)マンション管理への示唆 こうしたバリューアップ工事の考え方はマンション管理でも参考になるのではないか。 まず、ビル管理とマンション管理では、資産価値の考え方が違うと言える。ビル管理における資産価値は、将来のある時点まで不動産を保有すると仮定し、その間の賃料収入および売却価格を合算して算出される※4。将来を見据えた価値と言える。 マンションの売買価格は、周辺の取引事例が基準になっており、先程例に挙げたエントランスの改修などは(ごく一般的には)考慮されない。売主個人の事情も多分に絡んでくる。売却を急いでいる人は、多少相場より低い価格でも売却に応じるだろうし、急いでいなければ高値で売却できることもある。また、取引事例の比較をするといっても、おおよそ100戸程度のマンションでも年間の取引は数戸程度にとどまっていることが多く、小規模なマンションでは何年も取引がないということもある。つまり、管理組合では資産価値を把握しにくいし、現在だけを見ている価値と言える。  この状況においては、理事会が工事の適否を金銭的価値で判断することは、相当に困難となる。 ビル管理の手法を用い、マンションの資産価値を将来的に見据えて算出することが可能となれば、バリューアップ工事をするべきか、そのままでよいのかを判断する際の指標のひとつとなるのではないか。※4 収益不動産においても、原価法や取引事例法が用いられることはあるが、ここはごく簡単に解説するために収益還元法をもとに説明している。詳しいことを知りたい方は、収益不動産のマネジメントの解説書などにあたってほしい。3.分譲マンションの方が優れていること 給水ポンプは通常は2台で1組の設備である。平常時は2台が交互に運転している。これが故障により片方が停止したとしよう。そのときは、もう片方が常時運転に切りかわる。したがって、いきなり断水ということにはめったにならない。ビル管理では、こうした設備など、トラブルになりづらく、テナントとの関係に影響が小さいと思われる修繕の場合は「壊れてから工事する」という意思決定になる場合もあるようだ。 しかし、マンションの場合、設備の点検状況は毎月理事会に報告され、区分所有者にも年1回の総会で報告される。いざ給水ポンプが停止すれば日常生活に与える影響が大きく、片方のポンプだけで稼働している状況は居住者にとっては非常に不安だ。突然停止することにないように、壊れる前であっても、異音などの予兆があれば修繕しておく「予防保全」の考え方が採用されるようになる。長期修繕計画の作成と定期的な見直しが推奨されているのは、その顕著な特徴であろう。複数の実務家に聞いたが、ビル管理では、長期修繕計画が作成されていないことも多いようだ※ 5。この点はビル管理よりマンション管理の方が進んでいるように思う。※5 但し、信託不動産などは予防保全の考え方を採用しているケースも多く長期修繕計画に近い修繕計画立案をすることがある。また、1棟所有の場合も修繕計画を望まれるオーナーもいるので、顧客特性による面もある。4.ビル管理で選ばれる会社はどんな会社か(1)選ばれる会社の特徴 ビル管理においては、3種類の会社の役割が重層的であるため、そこには良い意味での緊張関係が働きやすい。会社の選定は、価格競争はあるが、提案力も選ばれる会社になるために必要な要素であるという。では、どのような提案がプラスポイントになり得るのか。 PM会社は、AM会社の仕事の領域にある提案、BM会社はPM会社の仕事の領域にある提案がよいとされているそうだ。相手方の利益もはかり、WINWINの関係をはかるBtoBらしい発想である。では、マンション管理会社にとって、理事会の領域にある提案とはなんであろうか。筆者らは思いつかない。マンション管理会社は会社ごとの特長が出しにくいと言われているゆえんでもある。(2)社会的課題への取り組み 近年は、SDGsや環境負荷削減などに積極的に取り組む企業も多い。投資建物であればESG投資の観点が含まれるだけではなく、ビルメンテナンス協会の取り組みとしても地球規模の課題に取り組んでいる建物を評価している※6。建物に関わる企業や投資家たちが環境に関心を持ち、建物の価値を高めると同時に、企業価値を上げようとしている。 マンション管理会社も、個々の企業としてはSDGsや環境負荷削減に取り組んでいる。しかし、マンション全体で、管理組合とともに資産価値と企業価値を上げようとするところまでは及んでいない。管理組合から評価される土台もまだない。 マンション管理計画認定制度、マンション管理適正評価制度※7などが誕生し、市場に浸透しつつある。しかしまだ、それらの評価項目にSDGsや環境負荷削減などの項目はない。市場がマンションの取り組みを評価するようになる日はまだ遠いように思う。※6 一例としてエコチューニングがある。 エコチューニング推進センター※7 マンション管理計画認定制度については、次の国土交通省のホームページに相談窓口が開設されている。 ▶ 住宅:マンション政策|国土交通省 ▶マンション管理適正評価制度~管理組合の取組みが注目される時代に~|一般社団法人 マンション管理業協会5.ビル管理ではカスタマーハラスメントが生じにくい マンション管理は顧客からのカスタマーハラスメントをうけやすい業種として知られている。2023年9月、マンション標準管理委託契約書の改訂が行われた際にも、マンション管理業者に対するカスタマーハラスメントが課題として取り上げられ、その対応策が盛り込まれた※8。 ビル管理業では、AM、PM、BM会社はすべて法人、テナントも法人であることが多く、すべてがBtoBの関係である。「組織」対「組織」ではカスタマーハラスメントは比較的起きにくいようだ。 企業は組織のガバナンスの中でこうした問題を解決していこうとする力が働くからだ。  一方、マンション管理業においては、契約書の体裁はBtoBであるものの、管理組合のもとにC(区分所有者等)がいる複雑かつ特殊な関係であり、かつ当事者が多数となることから管理員や管理会社担当者へのカスタマーハラスメントが生じやすい構造がある。 ビル管理と同様に考えて、管理組合と管理会社が「組織」として機能するように理事会におけるコンプライアンス意識の醸成やガバナンスの向上を目指していくことで、カスタマーハラスメントの課題は減少することが期待できるだろう。※8 ▶マンション標準管理委託契約書の改訂とカスタマーハラスメント|マンションみらい価値研究所▶  国土交通省 マンション標準管理委託契約書を改訂▶第1回 マンション標準管理委託契約書見直し検討会(令和4年12月27日開催)6.「おためし導入」ができない適正化法 マンションの管理の適正化の推進に関する法律(以下「適正化法」とする)は、消費者保護という側面が強い。例えば、契約締結の前に契約上の重要事項の説明を実施することが定められているが、こうした手続きを規定する業種は限られており、その目的は「消費者の保護」や「その業種自体への規制」であったりする。ビル管理などにおいては、こうした手続きはなく、そもそもビル管理の3業種に対する業法がない※9。 しかし、こうした保護がマンション管理を社会から取り残していることもある。 大手メーカーから「ある特定の地域のマンションに、商品のトライアル導入をさせてもらえないか」という申し出があった。商品を無料で提供する代わりに、商品の使用に関するデータ収集などの補助を管理員に実施してほしいという条件がついた。消費者の立場に立つと、その商品が無料で使用できるのは非常に魅力的であった。 一方、管理会社からすると、管理員の業務は管理委託契約書においてその内容が決められている。当然、その商品の使用に関する補助業務は契約内容には含まれていない。管理員にとってそれほど時間のかかる業務ではなく、管理組合があえて反対する理由も見当たらなかった。しかし、管理会社がこのメーカーからの申し出を実現するには、それぞれの管理組合に対して重要事項説明会を開催し、臨時総会を開催し、管理員業務の仕様変更が可決された後に変更契約を締結することが必要だ。実験導入だからといって、適正化法に定められた事項を省略することはできない。 大手メーカーにその事情を伝えたところ、次のような理由で導入は見送られた。・総会で否決となる可能性がある。市場調査は特定の傾向があるマンションで行うのではなく、あらゆる条件のもとでまんべんなく行いたい。否決のマンションで実施できないと、偏りが出る可能性があり、正しい市場調査とは言えなくなる。・通常総会の開催を待つと最大で1年の期間が必要になる。臨時総会が開催できるかは不透明であり、商品開発のスケジュールが著しく遅延しかねない。 企業のビジネススピードと、管理組合の合意形成はスピード感が異なる。企業の方が圧倒的に早い。この事例では、商品の実験導入は商業ビルと賃貸マンションで実施することになった。ビルや賃貸マンションの場合は、居住者の同意は必要なく、現場対応者を雇用する管理会社がその業務内容を承諾すればよいため、即時に導入できることがその理由だ。 分譲マンションの契約において重要事項説明が必要であることには異論はない。しかし、企業の商品開発における実験導入や、社会実験的な試みに時間的理由で参加できないことは、長期的には分譲マンションの発展に不利益につながるのではないか。例えば、社会実験に参加するような場合は、管理会社から所管官庁に届出をするなどして企業としての営みに参加しやすくするなども検討できないだろうか。また、契約上の当事者となる場面を管理組合の総会に実質的に限定していることも、契約の機敏な改正にはマイナスとなる。※9 重要事項説明に類した規定のある法律については以下のレポートを確認していただきたい。      重要事項説明のある他の業法とマンション管理適正化法との比較について|マンションみらい価値研究所7. まとめ 「分譲マンションの管理は20年遅れている」というのが、ほかの建物を管理する実務家の共通した意見であった。分譲マンションの管理ならではの事情があるのはもちろんであるが、今回紹介した収益還元法の考え方や、管理業務の役割分担など、ビル管理の手法も参考にしながらマンションの将来価値を考えていくべきだろう。
ビル管理の実務家から学ぶ分譲マンション管理
2024/07/24

修繕委員会等の専門委員会の設置に関する調査

理事会の多くが輪番制で選出された理事で構成されている。任期は1年~2年であり、長期的な課題には取り組みにくい。また、マンション管理に関する専門的知識をもつ理事が必要なタイミングで選任されるとは限らない。こうした場合に、理事会の負担軽減や、専門的知識をもつ区分所有者に意見を聞くことを目的として専門委員会が組織される。 マンション標準管理規約では、専門委員会の設置について次のような規定が置かれている。専門委員会の設置第55条 理事会は、その責任と権限の範囲内において、専門委員会を設置し、特定の課題を調査又は検討させることができる。2 専門委員会は、調査又は検討した結果を理事会に具申する。1.専門委員会の実態 今回は、理事会の諮問機関である専門委員会について総会議案書、議事録からその実態を調査した。 当社管理受託マンション3,958組合のうち、2018年4月~2023年9月までの間に、専門委員会に関して総会で議案となった事例を抽出した(図1参照)。 なお、専門委員会が常設されており、当該期間に総会にてその設立や活動について議案になっていない場合は集計に含まれない。 議案の内容は、専門委員会の設置、会則の制定/改定、委員会の継続、委員会の廃止に関するものに分類される。任期が1年である場合は、次年度の総会において廃止の議案を上げる必要がないが、任期の延長や任期を定めていない場合などは、継続や廃止も総会決議事項とされている(図2参照)。2.圧倒的多数の修繕委員会の設置 専門委員会は圧倒的に「修繕委員会」が多い。大規模修繕工事などの実施を検討するにあたり、建築関係に知見のある区分所有者、過去に大規模修繕工事を経験した理事などを募集して、次期大規模修繕工事に備えるための委員会だ。 専門家や経験者が集まることもあり、一部の理事会議事録などを確認すると、現理事よりも修繕委員の方が工事に関する発言力・影響力が大きいのではないかと思われるような場面も見られる。委員会は理事会の諮問機関であるにもかかわらず、その立場が逆転してしまっているケースであり、この逆転現象はあまり好ましくないと考える。 こうした現象を防ぎ、理事会と協調しながら専門委員会が活動するためには「専門委員会会則」が必要になるだろう。目的や役割を明確にすることで、活動もしやすくなる。 専門委員会会則は、委員会発足にあわせて決議するべきだろう。3.修繕委員会の会則例 マンション標準管理規約には、専門委員会会則に関して特段の例示はされていない。会則は各管理組合が自由に設定できる。 では、各管理組合では、どのような会則を設定しているのだろうか。 多くの会則は、管理規約の理事会の規定(第35条~第41条)を準用し、委員会の人数、委員会の開催に必要な定足数、決議に必要な賛成数などを規定している。 マンションによる個性が出ているのは、修繕委員会の業務の範囲である。いくつか事例を紹介しよう(※)。 ※実際の会則条文からマンションが特定できる記載を削除し、編集している。Aマンション第〇条(諮問内容) 理事会は、修繕委員会に対して次の諮問を行うものとする。 1.管理対象物の修繕計画方法に関すること 2.前号に伴う運用方法に関すること 3.前号に伴う費用に関すること 4.修繕工事の点検並びに交渉等に関すること 5.理事会から要請があった場合は、これを調査し理事会に報告する 6.その他理事会から諮問された事項、各組合員の要望に関することBマンション第〇条(業務内容) 専門委員会の業務は次の通りとする。 1.大規模修繕計画を含む工事全般を策定するコンサルタントの一次選定 2.コンサルタントとの技術的な折衝、工事関連会社の一次選定 3.管理組合理事会への報告、組合員への広報活動、組合員からの要望の集約 4.大規模修繕工事後のアフター点検等 5.その他長期修繕計画に基づく―切の業務に関すること なお、技術的な折衝とは、管理組合理事及び全組合員と講負者(コンサルタント及び工事施工者)との技術的な見解、疑問点を整理し、専門的な知識から、請負者と協議して一定の方向付けをすることをいう。2 対象の工事は大規模修繕工事に加え、長期修繕計画で計画された工事・修繕、修繕積立金にて対応する工事・修繕を含むものとする(一般会計での修繕費に該当する工事は対象外とする)。第〇条(総会での議題提案) 修繕委員会の決議、管理組合理事会の決議を経た議案は、管理規約第〇条に基づいて管理組合定期総会または臨時総会において、総会議長の求めにより委員長又は委員から議案の説明をすることができる。 Bマンションでは、居住者への広報活動やアフター点検の立ち合い、さらには総会での説明までが修繕委員会の業務内容となっており、理事会の権限が広く移譲されている。 なお、権限移譲には注意が必要だ。例えば、修繕委員会が理事会と意見の相違があった場合に、権限移譲の範囲が大きすぎると、修繕委員会が理事会を差し置いて総会の審議を進めてしまい、総会が混乱してしまう可能性もあるだろう。また、修繕委員会の判断にミスがあった場合に責任の所在はどうなるのか。修繕委員会は理事会の諮問機関であることから、最終的な責任は修繕委員会ではなく理事会となる可能性もある。権限の範囲は大きくなりすぎないように配慮する必要があるだろう。 4.第三者管理者方式でも修繕委員会が登場 マンション管理会社が管理者となる場合の外部管理者方式ガイドラインが国土交通省から示された。理事のなり手不足の解消のために、第三者である管理会社に管理者を委託する場合に留意すべき点などがまとめられている。この方式においては、理事会を設置せずに管理組合を運用することになる。しかし、大規模修繕工事については修繕委員会が検討するものとして位置付けられている。理事会の機能が専門委員会に残されているのだ。 管理組合の業務を第三者に委託しても、修繕に関する業務は当事者である区分所有者により判断されるべきだと言うことなのだろう。5.修繕委員会以外の委員会活動 少数ではあるが、修繕委員会以外の委員会も紹介しよう。その名称からおおよそ、どのような活動をしているかは想像できるだろう。中にはユニークな名称で活動している委員会もある。6.委員会の活用に向けて 直面する問題を早期に解決するために設置された委員会の例として「近隣工事対策委員会」「調停対策委員会」「問題解決委員会」「改善策立案委員会」などがある。 一方で1年間~2年間で理事が交代してしまう理事会とは別に、長期的課題をじっくり検討しようという「マンション価値向上委員会」「長期ビジョン検討委員会」などの活動例もある。 築年数が経過したマンションでは、将来的に建て替えか敷地売却か、などといったデリケートで難しい課題が顕在化してくる。現実から目を背けて、そうした話題にはできるだけ触れないようにしようとする管理組合もある中で、長期的課題に積極的に取り組んでいる好事例ともいえるだろう。 さらに、若手に管理組合活動に参加してもらうために、最初は理事会ではなく専門委員会に参加を促すという作戦を立てている管理組合もある。こうした場合に、若手が参加しやすい委員会として「ホームページ委員会」「IT/DX化専門委員会」などを立ち上げている。 理事会や総会の場で難しい課題を検討しようとするとき、最初から賛成・反対なのかという意思表示を求めてしまうと管理組合内で意見が二分しかねない。まずは専門委員会からはじめるというのも一手だろう。 それぞれのマンションで必要とされている課題について、専門委員会を積極的に活用してみてはどうだろうか。
修繕委員会等の専門委員会の設置に関する調査
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令和4年度 国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業」 中古マンション市場価格に影響するマンション管理項目とその効果、分譲マンションの一生における中古取引価格の変動パターン及び要因に関する研究
2023/04/19

令和4年度 国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業」 中古マンション市場価格に影響するマンション管理項目とその効果、分譲マンションの一生における中古取引価格の変動パターン及び要因に関する研究

第1部 中古マンション市場価格に影響するマンション管理項目とその効果管理の質や修繕の実施状況が中古マンションの売買価格に与える影響についての調査分析概要管理に関わる数値化可能なデータを用いて市場価格への影響を説明すること、すなわち管理と市場評価を定量的に結びつけることは重要であると考えられる。つまり、ヘドニックアプローチは、モノの価格は機能や性質によって決定されるという概念に基づくものであり、そのアプローチにより中古分譲マンションの管理体制が市場価格などに与える影響について推定することを目的とする。本研究は全体にわたる変化に関して、特に、供給の側面に着目したものである。 そのために以下の5つの作業上のポイントを設けた。1)ヘドニックアプローチにより、中古分譲マンションの価格とその変化を目的変数として、これを説明するために各マンションのもつ属性、周辺環境そして各マンションの管理体制を説明変数として推定・評価することを第1の作業とする。各マンションのもつ属性、周辺環境、管理体制が直接的、もしくは相互および外部に作用することにより間接的に影響すると考えられ、これら説明変数の各々がどれほど取引に影響するかを推定した。2)管理体制からマンションの価格構造を推定し、かつ価格変化に着目した研究は既往論文のレヴューからは見られなかった。本研究では、重回帰分析による分析方法を利用してマンションの価格構造を推定することを第2の作業とする。マンション価格は近隣のマンション価格とマンション内外の環境が影響を与えると考えられるが、ここでは、価格構造に管理体制が与える影響を推定するため、中古取引価格を用いた。客観性のある不動産取引データにより、簡易に適正な管理費を算定に用いた。3)マンション中古価格はある価格帯の中で小刻みに上下に移動する。逆に下落するマンションもあり、これらは下落し続け市場から姿を消し負債のような扱いになることがあり、これを管理体制の適正化によって防ぐにはどうすれば良いかを考える。 これらとは別に、特に、上昇するマンションを探り示唆を得ようという試みも行った。マンションが市場に評価されている状態とは、すなわち取引価格が維持、もしくは上昇している状態を指すものを、適正状態とする。市場に評価されているマンションの管理体制の状態を定量的に示すことを第3の作業とした。取引を築年数と成約坪単価で散布図を作成すると図1のように負の相関が見られることがわかった。4)ここから地価の影響を取り除くことを第4の作業とする。Y=0になる点より下は不動産価格が地価を割り負債的扱いとなる。しかし、図1のようにあるマンションに着目すると価格上昇の傾向が見られ、このようなマンションでは重要な管理が行われているという理由から価格上昇している可能性がある。以上の仮説のもと価格を上昇させる要因について推定した。5)不動産市場全体に着目すると、図1のように取引時の築日数と成約価格をプロットすると点が雲のように分布する。こういった事柄を通じた価格変化を観察しようという試みを第5の作業とした。全体としては築年月を経るごとに価格が下がることが観察される。一方、個々の物件に着目すると、図1のように上位の価格帯に位置しかつ価格が上昇しているもの、図2のように中位の価格帯に位置しかつ価格変化も少ないもの、あるいは、図3のように下位の価格帯に位置しかつ価格変化の少ないものもある。このようにマンションの価格変化は様々なパターンがある。価格上昇の点から見ると、望ましいものは上位の価格帯に位置し続ける、もしくは価格が上昇しているものである。一方価格上昇の観点から見ると避けたいパターンは、竣工時には比較的上位に位置しながらも、 価格が下落しているものである。このようなマンションは維持管理が上手くなされず、 買い手から評価を受けられないと考えられる。さらに価格上昇の観点から見ると最も避けたいパターンは下位の価格帯に位置しながら、かつ価格が下落しているものである。 このようなマンションは市場から姿を消す可能性がある。もういちど不動産市場全体に着目し、築日数と中古制約価格グラフに着目すると中古価格に関して、歪な、下方硬直性がみられる。つまり雲の下位に分布が集中していているものの、より下位には急激に分布が少なくなるのである。ある価格帯に達すると、それより価格の低い取引が無くなり、もうこれ以下に下がらなくなったのである。この要因を見ると、マンション価格が地価と同等になったことによってその地価より下がらなくなった可能性がある。より深刻な場合としては地価相当分の価格をつけることもできず、取引が行われなくなったことが挙げられる。このような場合買い手からすれば当該マンションは負債とも捉えられるため、他に何か強いメリットが無ければ成約に至らないことは明らかである。個々のマンション価格については2つの異なる変化がみてとれる。1つはグラフ上で上下に微動する変化であり、もう1つは全期間にわたって移動する変化である。気温が日々変化しながらも春全体では上昇する現象に似ている。ひとつに中古マンションは個々の物件の一つ一つの取引に対して、需要と供給の市場原理が働くことが表れている。つまり売り手と買い手の背景にある事情や意思決定要因が微動を生じていると想起できる。もう1つの全体にわたる変化が重要でありこちらも需要と供給の両方が関係していると想像できる。購入者の需要の側面としては、土地価格が関係していると考えられる。つまりマンションの立地が相対的に人気が出たか無くなったかのどちらかである。供給の側面としては、ハードやソフトが関係していると考えられる。つまりマンションの建物自体が修繕などによって、相対的に、魅力的になったとか、逆に、問題が生じてマンション自体が買い手から避けられている可能性もある。第2部 中古マンション市場価格に影響するマンション管理項目とその効果Part21.研究目的 中古マンション市場の健全性を保つためには、価格の変動させる因子を特定することが必要である。本調査研究では、昨年度の埼玉県K市に引き続き、埼玉県S市を対象に、中古マンションの市場価格について、管理体制に関わる項目を変数として用い、モデル式を作成することで価格の変化に影響する変数の抽出とその効果の度合いを示すことを目的とする。2.研究方法 埼玉県S市における中古マンション(計45棟)を対象とし、「平均坪単価」「成約坪単価差」「傾き」の3つを分析時の目的変数・説明変数(以下記載)を選択し、重回帰分析を行った。さらに、昨年度の対象地である埼玉県K市も含め主成分分析を行い、比較を行った。3.まとめ●重回帰分析結果<モデル式①>平均坪単価(円/坪)=450012.046ー7779.506X1 + 261841.823X2 +2424321.293 X3[ここでX1=積立金未収金(円/坪・年)、X2=決議数毎年(件/年)、X3=排水管連続未実施率(%/年)とする]※昨年度同様の説明変数では、モデル式の決定係数が規定値未満であったため、排水管清掃実施率及び未実施率を変数に加えている。 <モデル式②>平均坪単価(円/坪)= 458529.247+15.711X1 + 2178200.532X2 ー7333.818 X3[ここでX1=修繕支出総額単価(円/坪・年)、X2=修繕支出総額の使用率、X3=積立金未収金単価(円/坪・年)とする]※モデル式①より、昨年度(埼玉県K市)同様、決議数が価格を上昇させる因子であったため、決議数をさらに分類し説明変数に加えている。 【解釈】 モデル式①を解釈すると、積立金未収金が専有面積1坪あたり、年間1円増えると、中古物件として売却時、専有面積1 坪あたり、約7,780 円程度価値を下げることを意味する。これは、昨年度のK 市の結果を補完するものである。将来もしくは現状の修繕」に対する不安から不動産価値を下げていると想定できる。また、決議数毎年については、昨年度同様プラスの影響が確認された。決議数が年間1 件増えると、売却時、専有面積1 坪あたり約261,800 円程度価値を上げることを意味する。決議数は、適正な管理組合であることを示す指標として捉えられていることが判断できる。排水管2 期連続未実施率が価格にプラスの影響を与えるという結果が確認された。これは、一般的に考えると、相反するように感じられるため、別物件でも調査が必要である。 モデル式②を解釈すると、修繕支出総額単価が1坪あたり、年間1円増えると、約15,700円価格が上昇することを意味する。また、同様に、修繕支出総額の使用率もプラスの効果を与えるものであった。モデル式①同様、積立金未収金はマイナスの効果が確認された。昨年度の研究では得られなかった結果(積立金未収金が不動産価格を下げる効果があること)が確認され、結果として補完されたと考えられる。 ●昨年度の研究対象地との比較管理に関する説明変数の特徴を掴むため、主成分分析を行った(図1)。結果を以下まとめる。【結果】①次期繰越積立金・修繕支出総額単価→将来への備えとして重要だと感じているが、関心が薄い。②積立金未収金単価→昨年度とは異なる結果でありエリアによる特徴が見受けられた。K市では、将来の備えとして位置していた。S市では現状に対する修繕への意識が強い。③修繕支出総額の使用率→昨年度と比較し、より間接関与に向かっているため、現状の改善と意識はあるものの関心のなさが見受けられる。④決議数→昨年度同様、将来への不安意識に分類される。⑤管理組合運営費単価→S市では、決議数同様、将来への不安意識に分類されるため、管理組合への出資は悪いこととは考えられていないことが読み取れる。第3部 分譲マンションの一生における中古取引価格の変動パターン及び要因に関する研究1. 研究目的 マンション管理の健全性を確保するためには、適正な積立金を徴収し、適宜改修工事を実施することは欠かせない。一方で、管理会社との打合せでは、区分所有者との会話で「大規模修繕工事実施後にマンションを売却することになったが、予想よりも高く買い手が付いた」というものがあると言う。今後の管理の適正化をはかるためには、大規模などの修繕工事と資産価値の関連について明らかにすることは、政策的にも市場的にも重要である。本研究は、マンション管理組合が、マンションの一生(建替え・終活・長期修繕計画等)を考える上で、判断材料となりえるもの(中古分譲マンションの修繕工事が市場価格及びその変化に与える影響について推定するもの)を提供することを目的とする。2.研究方法 本研究では、既往研究であるマンションみらい価値研究所が2021 年に公表している「築40 年を経過したマンションの修繕工事費の実績(事例研究)」のデータを追記し、不動産価格データ(1990年から2022年)との照合を行った。修繕支出額や修繕積立金残高などが、特徴的な動きを見せると、それが各マンションの成約価格にまで影響を与えるかどうか把握を行った。加えて、補足調査として、各物件において、当該物件の周辺環境などについて変化が生じているかをフロント担当者にヒアリングを実施した。【分析項目】1. 大規模修繕工事と不動産価格の関係性2. 大規模修繕工事間における不動産価格3. 代表的な事例比較(模式図)3.まとめ●大規模修繕工事と不動産価格の関係性 各事例に対する精査から、特に、大規模修繕工事は、不動産取引価格の下落傾向を抑える効果や上昇させる効果が複数の物件で確認される。大規模修繕工事の際に、不動産取引価格が上昇しないもしくはより下落傾向にあるマンションは、共通して資金ショートもしくは資金ショートに近い状態が確認される(報告書3部:44頁以降)。●大規模修繕工事間における不動産価格 大規模修繕工事を軸とし、不動産取引価格の推移の傾きに着目し分析を行ったところ、第1 回から第2回大規模修繕工事の間の価格変動と第2 回から第3 回大規模修繕工事の間の価格変動の間には違いが見受けられ、第3 回目大規模修繕工事以降もさらに異なる傾向が見受けられた。●代表的な事例比較(模式図) 大規模修繕工事の第1 回目と第2 回目については、取引価格の低下が見られるものの、第3 回目以降については、資産価値の維持もしくは上昇が見受けられる。これには、工事実施に伴う資金状況が大きく関連しており、借入があったり、改修工事後に資金状況が枯渇すると資産価値の下落が見られる。 修繕積立金の月額と資産価値に関してはプラス(ポジティブ)な相関が明らかになっていない。しかしながら、中長期的にみれば、資金の潤沢さと資産価値にプラス(ポジティブ)な価値があることが見られる。これは、政策的にも市場評価的にも、広め、啓発的に用いる価値のある結果であると考える。
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令和4年度 国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業」 共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行う事例
2023/02/22

令和4年度 国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業」 共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行う事例

研究概要 専有部分の配管工事を共用部分と一体化して実施する場合(以下「一体化工事」という)、の合意形成には、どのようなハードルがあるのだろうか。 当初の仮説として「修繕積立金を取り崩し、専有部分の工事費用に充当することは、専有部分の工事は区分所有者が行うこととしている区分所有法や管理規約の原則と異なる。」という点において反対意見が多く合意形成が困難になるのではないかと考えた。 一体化工事については、その是非について多くの論文が出されている。この点について議論するつもりはない。 法律論は別として、今回の調査の結果、確かに一部にこの「区分所有法や管理規約の原則と異なる」という意見はあるものの、最も問題となるのは、「先行して工事を行った区分所有者への補償」をどのようにするのかという点にあることがわかった。 多くの管理組合では、区分所有法をめぐる議論ではなく、「補償額をいくらにするのか」に多くの議論の時間が費やされている。 つまり、今後、一体化工事を実施しようとする管理組合があるなら、管理規約の改正よりも、補償金額の検討を充分に行う必要がある。 専有部分の配管工事を実施していない区分所有者からすれば、本来であれば自らが費用負担して実施しなければならない工事を管理組合が実施してくれるというのであるから、反対する理由は少ない。むしろ、有難い話であろう。何も総会の場で区分所有法や管理規約の記載を持ち出し反対する必要はない。また、先行して工事を行った区分所有者は、その補償金額について納得がいく金額の提示を求めたいであろう。 つまり、一体化工事の合意形成において越えなければならないハードルは、区分所有法や管理規約における負担区分ではなく、先行して工事を行った区分所有者への補償金額にあると言える。 一体化工事を検討した11事例から、合意形成に必要なプロセスを探る。
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