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マンションが抱える課題や法改正の解説など未来のマンション管理に役立つセミナーを開催
速報!ついに法案提出 改正区分所有法 ~改正法の条文をもとに、徹底解説!~
4月17日(木)16:00~17:302025年3月5日に改正区分所有法が閣議決定され、はじめて具体的な条文が公表されました。条文だからこそ、全体像が浮き彫りになりっています。改正後にマンション運営が具体的にどう変わるのか?法律だけでなく実務運営の観点からも具体例を用いて説明していただきます。マンションみらい価値研究所では、2025年1月にも改正区分所有法セミナーをお届けしておりますが、さらにバージョンアップ!マンション管理に関わる方々にいち早く知ってただけるよう、速報にてお届けします。レポート
マンション管理に関する未発表データを分析し新しい視点から、マンションの価値を考えます2025/03/19new
宅配便の車両をマンションに駐車できるか
1.新築マンションでの義務化 国土交通省では「標準駐車場条例(令和2年9月7日国土交通省都市局長通知)の改正により、共同住宅の用途に供する部分のある建築物を新築等する場合においても、百貨店等と同様、一定規模以上の荷さばきのための駐車施設を附置しなければならない旨の規定を置くこととし、あわせて、地方公共団体にその旨を周知する」としている。 簡単に言うと、新築のタワーマンションなどでは、「荷捌きスペース」を設置することを義務化されることになる。駐車場法施行令の一部を改正する政令が2025年3月7日に公布された。 宅配便の車両が駐車場所に困っている様子や、台車に荷物を載せて街を走り回っている様子は日常的によく見かける光景である。タワーマンションは住戸数が多いことのほか、上下階の移動に時間がかかることを考えると、荷捌きスペースが設置されることはマンション住民にとっても、周辺地域にとっても歓迎すべきであろう。 しかし、対象とならない既存マンションやタワー型ではないマンションでも、荷捌きスペース不足の問題は顕在化している。では、既存マンションにおける荷捌きスペースはどのようになっているのだろうか。2.既存マンションにおける「荷捌きスペース」の現状当社の管理受託マンション4,010件のうち、分譲時に「荷捌きスペース」もしくはそれに類する場所が設置されているマンション(※)は24件で、全体の0.57%にすぎない。24件のうち10件は、比較的駅に近い100戸以上のマンションであり、荷捌きスペースのあるマンションは非常に少ないと言ってよいだろう。※パンフレット図面集、管理規約集などに記載があるものを抽出する方法にて調査(調査期間2024年10月~2024年12月)3.既存マンションにおける「来客用駐車場」の現状 新築時に荷捌きスペースの設置がなくとも、既存マンションが荷捌きスペースを新たに確保することはできるのだろうか。居住者の車両以外が駐車するスペースとしては「来客用駐車場」がある。当社の管理受託マンションのうち、来客用駐車場の設置のあるマンションは、436件(10.87%)であった(図1参照)。なお、このうち4件については、トラブルが多いことなどを原因として現在は来客用駐車場の運用が中止されている。 来客用駐車場のあるマンションの属性は次の通りである。新築マンションや戸数帯の多いマンションに偏ってるわけではなく、小規模なマンションでも設置されていることがわかる(図2、図3参照)。 来客用駐車場は、新築当時から設置されているものばかりでなく、途中から居住者用の空き駐車場を来客用駐車場に転用している場合もある(図4参照)。 居住者用の駐車場を来客用駐車場に転用する事例は、昨今の空き駐車場問題とも密接に関係している。駐車場に空きが生じた場合、次のような順で解決を図ろうとする(表1参照)。来客用駐車場への転用は、空き駐車場問題の初期段階から検討される内容でもある。第4段階では駐車場事業者等と契約し収益事業の開始を届け出るなど格段にハードルが上がるが、第3段階までは比較的検討しやすい内容である。4.来客用駐車場に宅配便の車両は駐車できるか 来客用駐車場に関する使用細則を調査した。来客用駐車場に関する使用細則を規定しているのは、来客用駐車場のあるマンションのうち、おおむね80%程度である(図5参照)。 来客用駐車場に関する使用細則のあるマンションのうち、主な利用目的である「居住者の来訪者」以外の車両はどの程度認められているのかを調査した(図6参照)。 管理用車両(管理会社が保守・点検・修繕などに使用することを想定)が174件と最も多く、宅配用車両はわずか5件にとどまっている。※レンタカーは、管理組合が時間貸しレンタカー会社と提携し一時駐車を認めているもの※福祉用車両とは、デイサービス利用者の送迎用として一時駐車を認めているもの5.なぜ宅配便の車両の駐車が認められていないのか 宅配便の車両の駐車が認められていない理由を考察する。 来客用駐車場は、使用細則により事前予約を前提としており、予約がない車両は駐車できないことになっている場合がほとんどだ。その背景として、予約した車両が現地に到着した際に、宅配便の車両などが駐車していて使えないとなったら困るということがあげられる。 さらに、来客用駐車場の使用方法を理事会などで協議する場合に、その原案となる使用細則案を管理組合に提案するのが管理会社であることも要因のひとつなのではないだろうか。 管理会社とその協力会社は、清掃・点検などの際に、機材を車両に載せてマンションに赴く。車両の駐車場所がないマンションでは、機材の搬入、搬出などに苦労している。こうした経験に基づき「管理会社の日常業務に関することは忘れずに」管理組合への提案に盛り込んでいるものと推察される。 また、清掃や点検はあらかじめ日時が決められているため、管理員などを通じて予約しておくことも可能になる。自身も管理会社に籍を置く身であり、こうした使用細則を提案したこともある。今となってみれば、宅配便の車両になぜ配慮が及ばなかったのだろうと反省することしきりである。6.宅配便の車両が駐車可能であるマンションの具体的な使用細則 使用細則に宅配便の車両の駐車を可能としている例を紹介する。第〇条(利用資格) 来客用駐車場の使用は、本マンションの居住者の来訪者に限る。ただし、本マンションの維持管理に関わる業者の車両、緊急用車両、宅配用車両、介護・福祉用の車両についてはこの限りではない。 ※以下の条文にある「利用料金の徴収」規定においても除外されている。 宅配便の再配達が社会課題になって久しい。配達における手間や時間を削減するため、来客用駐車場に予約が入っていない場合は一時駐車可能とするなど、今からでも使用細則の改正を検討できるのではないだろうか。
2025/03/05
子育て世代がうらやむ「保育園のあるマンション」実態調査
1.保育園の現状 20年以上前であるが、私も育児休暇があけてすぐに子供を保育園に預けて働いた。現在のように時間短縮勤務であるとか、子供の看護休暇であるとか、そうした制度が整っていなかった時代である。育児休暇後はすぐにフルタイムの勤務。そんな状況の中で、保育園には本当にお世話になった。 有名な「保育園落ちた日本死ね!」というブログの書き込みに代表されるように、保育園の待機児童の問題は2000年頃からマスコミに大きく取り上げられるようになった。現在、こども家庭庁の調査によると、待機児童数は大幅に減っている。 このような報告がある一方、私の周囲にいる子育て世代の話を聞くと、別の問題が生じてしているように思う。ひとつが「遠方の保育園に通わざるを得ない子供」の存在だ。近くの保育園はいっぱいで入れない。駅から遠い保育園なら空いている。親はしかたなく、朝、駅とは逆方向に向かい、子供を預けてから再度駅に向かうという。家を出てから最寄り駅に到着するまでに1時間近くかかると話す人もいる。こうした「遠方の保育園」に預けている場合は待機児童のカウントには入らない。 もうひとつが「閉園する保育園」の存在だ。少子化は加速し続けている。せっかく保育園を増加させても、近隣の子供の数が減ったとか、保育士が不足しているとか、そうした要因で閉園する保育園もある。「近所の保育園がなくなって、転園せざるを得なかった」と話す人もいる。このような場合も待機児童のカウントには入らない。 今回は以上のような背景を受けて、マンションの敷地の中にある保育園について調査した。2.マンション内保育園 マンションの中に保育園がある。遠方の保育園に子供を預けている人からするとなんともうらやましい話だろう。当社の管理受託マンションのうち、マンション内に保育園、幼稚園または子育て支援施設(以下「保育園」という)があるマンション12件(すでに閉園済みの2件を含む)を調査対象とした(以下、マンションの敷地または建物内にある保育園を「マンション内保育園」という)。 2017年に国土交通省と厚生労働省が連名で「大規模マンションにおける保育施設の設置促進について」という文書を各都道府県 各指定都市の児童福祉所管部(局)長 等に宛てて発出している。注1 保育園の設置をすると容積率の緩和基準などが設けられ、事業者にとってのメリットもある。この時期を境に、大規模マンションの建設において保育園を併設することが検討されるようになったのも確かである。 マンション内保育園の戸数帯と、築年数はそれぞれ次のとおりである(図1、図2参照)。 マンションの歴史は70年以上ある。2017年から現在までわずか8年足らずの間に、2016年以前と同数の6件で「マンション内保育園」が設置されている。また、300戸以上の大規模マンションでも設置数が3件となっている。 しかし、マンション内保育園があるからといって、マンションの居住者が優先的に入園できるわけではない。認可保育園の場合は、特定の人に優先権を与えることは許されておらず、入園希望者には平等にその機会を与えなければならないからだ。 一方、「大規模マンションにおける保育施設の設置促進について」の発出により、自治体との協議によってマンション居住者に入園の優先権を与えるマンションも出てきていると報道されている。しかし、調査対象の12件にはそうした保育園はない。マンション居住者もマンションの近隣住民と同等に希望者多数の場合は抽選等の対応となる。 マンションの販売段階では、「せっかくマンション内保育園があるのに、居住者が優先的に入れないのはおかしい」という声も聞かれたが、今のところ、当社ではマンション内保育園に落ちたことに対するクレームは把握していない。大多数の希望者はマンション内保育園に入園できているものと推測している。3.マンション内の入居形態 マンション内保育園はどのような形態でマンションに入居しているのだろうか。次の3分類に分けて調査した(図3参照。) ①保育園の事業者が区分所有者であり、自ら運営している(図3において「区分所有者」という) ②保育園の事業者がマンションの共用部分(規約共用部分、団地型マンションにおける別棟など)を管理組合から賃借して運営している(図3において「共用部分の賃借人」という) ③保育園の事業者が区分所有者から店舗などの専有部分を賃借して運営している(図3において「専有部分の賃借人」という) 保育園の事業者が区分所有者である①のケースが6件と多いが、共用部分の賃借人というケースも3件ある。共用部分に保育園を開設するには、建築当初から園児の動線などの安全対策、保育園に通園する近隣住民がマンションのセキュリティラインを越えて出入りできるように配慮するなどの対応が必要である。こうしたことから、共用部分の賃借人であるケースは、事業主がマンションの販売時から保育園と契約を締結している。4.事例研究 調査対象の12件のうち、保育園の運営に管理組合がなんらかの形で関与することになった事例を紹介しよう。【事例1】・入居形態 専有部分の賃借人・概要 保育園から「既設のインターホンでは、夜間に来訪された方の顔が見えず、対応に苦慮している。既設のインターホンの他、ワイヤレスのカメラ付きインターホンを設置したい」という申し出があった。玄関ドア部分は共用部分であり、保育園がこのインターホンを設置するには管理組合の総会の決議が必要となる。園児の安全性などに配慮し、年1回の通常総会を待たず、臨時総会を開催してインターホンの設置を承認した。【事例2】・入居形態 専有部分の賃借人・概要 当初、認可外保育園として運営していたが、認可保育園となるために自治体に申請をしようとしたところ「視聴覚障がい者誘導ブロック」「階段手摺り」の設置をするよう指導を受けた。設置場所はそれぞれ共用部分にあたるため、保育園から管理組合に対し次の条件で設置の希望が出された。①工事費用は全額保育園負担。②保育園が退去することになった場合でもそれらは設置したまま残す。障がい者用の設備は将来的に高齢化が進む管理組合にとってもメリットがあり、総会にて承認された。【事例3】・入居形態 専有部分の賃借人・概要 保育園から管理組合に対し、「避難車」(手押し車)を共用部分に置きたいという要望があった。要望を受けた理事会では、園児が緊急時に逃げ遅れるなどのことがあってはならないとして置き場所と使用方法について次の内容にて検討した。 ①避難車の置き場所は自転車置場とする。自転車置場使用細則を変更し例外的に避難車を置くことを承認する。 ②避難車の面積相当分を自転車置場と同等の金額とし、月額1,000円を保育園から徴収する。自転車置場に空きがあったこともあり、総会にて承認された。避難車イメージ【事例4 閉園事例】・入居形態 区分所有者・概要 保育園は1階の専有部分を所有し、運営していたが、園児の減少により撤退することとなった。管理組合に対して専有部分の購入を打診。すでに集会室等はあったが、管理組合を法人化して購入することを検討。総会や理事会の開催場所の他、サークル活動などのコミュニティスペースとして購入することが承認された。また、保育園の内装のままでは使用できないため、費用をかけ、大幅なリフォーム工事を実施した。【事例5 閉園事例】・入居形態 共用部分の賃借人・概要 団地型マンションの別棟である団地共用部分に保育園が入居し運営されていた。分譲時に事業主が保育園と賃貸借契約を締結し、管理組合に承継した。 しかし、園児数の減少により管理組合に対し退去の申し出がされる。もともと、事業主がマンションの建設時に自治体と子育て支援施設を誘致することを約束していたため、管理組合にて自治体と協議。子育て支援施設以外の用途で使用することの承諾を得る。保育園退去後、別の業種も併せて募集する。 現在では成人向けのフィットネス系スタジオとして運用されている。5.事例からの考察 マンション内保育園は、子育て世代にとってはうれしい存在であることは言うまでもない。ただし、通園する子供の安全性の確保など、保育園の運営には通常の商業施設とは異なる厳しい基準が存在する。それらをクリアするためには、マンションの共用部分の変更等も必要となる。 また、マンションの築年数の経過とともに居住者の高齢化が進み、同時に園児数が減少する。近隣住民からも園児の募集ができるといっても、マンション内保育園の最大のターゲットはマンション内居住者なのである。子供の減少は、事業者にとっても打撃に違いない。保育園も採算があわなければ撤退していく。こうした場合、保育園の運営者が共用部分の賃借人である場合は特に、撤退後の利用方法について管理組合で検討しなければならない。 マンション内保育園は子育て期間中の「うらやましい施設」であるだけの存在ではない。 「子育ては地域で行うもの」ということは昔から言われ続けてきたことではあるが、マンションもまた地域なのである。子育て世代以外のマンション居住者もまた保育園の運営についてともに考える必要がある。子供たちが元気にマンションを出入りする姿は何年経ってもそのままであってほしいが、それには管理組合の協力が不可欠なのだ。
2025/02/26
マンションとピアノの音
1.ピアノは今でも人気の楽器 ピアノは子供の習い事の代表格である。今でもピアノの人気は継続しているのだろうか。経済産業省「楽器類の生産推移」(図1参照)を見ると、コロナ時期に落ち込んではいるもののピアノの生産量はほぼ横ばいである。また、ピアノは耐久消費財でもあり、一度購入すると長期間買い替えることはない。つまり、ピアノの累計数は上がり続けていることになる。 一方、昨今の住宅事情などを勘案すると、電子ピアノなどの生産が伸びているのではないかとも考えたが、こちらはさほど伸びてはいない。ピアノは今も人気の楽器であることがわかる。出典:経済産業省 経済解析室 みなさんはどのように過ごしていますか?2.ピアノに関するお問い合わせの実情 マンションの三大トラブルとして、騒音、漏水、ペットがあげられる。最近ではペットの問題はすっかり数が減っているが、騒音と漏水はあいかわらず多い。一言に騒音と言ってもその音源はさまざまだ。2024年4月から2024年9月までに当社に寄せられた騒音に関するお問い合わせのうち、どのような音に対するものかを分類した(図2参照) お問い合わせ件数27件のうち、最も多いのは「足音やドンドン叩く音」の7件であるが、ピアノの音に関するものも2件ある。過去に同様の調査をしておらず、ピアノに関するお問い合わせが増えているのか、減っているのか、その傾向は分からないが、感覚値としては減っているように思う。子供の数の減少、マンションの内装材などの防音性能の向上、ピアノの音に配慮しようという居住者の意識の向上などがその要因かもしれない。 お問い合わせのうち、1件の内容を紹介しよう。「上の階の方だと思いますが、夜の22時から23時半過ぎまでピアノを弾いています」とのこと。他の騒音に関するお問い合わせも、深夜、早朝など時間に関するものが多い。3.ピアノの演奏に関する使用制限 管理組合は原則として共用部分の管理を行うことはいうまでもない。また、管理組合が専有部分の使用について制限をすることができるのかについては、議論のあるところだろう。しかし、ピアノに関しては、従来より騒音問題に対応するために、管理規約や使用細則にて専有部分の使用制限を行ってきている。当社受託管理組合3,963件のうち、ピアノを「使用不可」としている管理組合が2.14%あった(図3参照)築年数別の割合では、築年数が経過しているほど、不可の割合が高くなることがわかる(図4参照) 専有部分の使用制限は、例えば灯油などを大量に保管することを禁じるなど、他の専有部分に物理的な影響を及ぼす行為を禁止するケースが多い。ピアノは物理的な影響というよりは、近隣の居住者に心理的な影響を与えている。そういった意味でピアノの使用禁止は他の専有部分の使用制限と性格を異にする。過去のマンションの歴史の中で、ピアノの騒音問題がいかに大きかったかが想像できる。なお、中にはピアノの重量を問題として使用禁止としているケースも含まれると考えられるが、その区分までは調査していない。 さらに、ピアノの演奏に関する使用細則は、ペットに関する規定のように、マンション標準管理規約コメント等になんらの記載がないにもかかわらず、71.18%の管理組合で規定されている(図5参照)。また、ピアノの搬入時に管理組合に対して届出をするという規定を置いている管理組合も56.09%ある(図6参照)。4.騒音問題は解決するのか 騒音問題は解決しにくい。建物の防音性能をどんなに上げても、それは新築マンションでの話であり、築年数の経過したマンションでマンション全体の防音性能を今から上げることは難しい。ハード面での解決が難しい場合は、ソフト面の解決、つまり居住者のモラルや気配りに頼らざるを得ない。 ピアノの音に限って言えば、今まで述べてきたように、管理規約、使用細則での使用制限や注意喚起、搬入時の申請などさまざまな場面に置いて使用者に注意喚起を促すことを長期間にわたり続けてきている。他の騒音問題もピアノの音と同様に、管理規約や使用細則に規定を置き、あらゆる機会を利用して注意喚起を続けていくしかないのかもしれない。 音楽を聴いてはいけない、目覚ましを鳴らしてはならない、20時以降は掃除も洗濯も一切禁止。そんな管理規約ができる前に、居住者同士の気配りの中で解決できることを願う。
論文
マンション管理の現状や課題を調査・研究し役立つ論文を提供しています
2023/04/19
令和4年度 国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業」 中古マンション市場価格に影響するマンション管理項目とその効果、分譲マンションの一生における中古取引価格の変動パターン及び要因に関する研究
第1部 中古マンション市場価格に影響するマンション管理項目とその効果管理の質や修繕の実施状況が中古マンションの売買価格に与える影響についての調査分析概要管理に関わる数値化可能なデータを用いて市場価格への影響を説明すること、すなわち管理と市場評価を定量的に結びつけることは重要であると考えられる。つまり、ヘドニックアプローチは、モノの価格は機能や性質によって決定されるという概念に基づくものであり、そのアプローチにより中古分譲マンションの管理体制が市場価格などに与える影響について推定することを目的とする。本研究は全体にわたる変化に関して、特に、供給の側面に着目したものである。 そのために以下の5つの作業上のポイントを設けた。1)ヘドニックアプローチにより、中古分譲マンションの価格とその変化を目的変数として、これを説明するために各マンションのもつ属性、周辺環境そして各マンションの管理体制を説明変数として推定・評価することを第1の作業とする。各マンションのもつ属性、周辺環境、管理体制が直接的、もしくは相互および外部に作用することにより間接的に影響すると考えられ、これら説明変数の各々がどれほど取引に影響するかを推定した。2)管理体制からマンションの価格構造を推定し、かつ価格変化に着目した研究は既往論文のレヴューからは見られなかった。本研究では、重回帰分析による分析方法を利用してマンションの価格構造を推定することを第2の作業とする。マンション価格は近隣のマンション価格とマンション内外の環境が影響を与えると考えられるが、ここでは、価格構造に管理体制が与える影響を推定するため、中古取引価格を用いた。客観性のある不動産取引データにより、簡易に適正な管理費を算定に用いた。3)マンション中古価格はある価格帯の中で小刻みに上下に移動する。逆に下落するマンションもあり、これらは下落し続け市場から姿を消し負債のような扱いになることがあり、これを管理体制の適正化によって防ぐにはどうすれば良いかを考える。 これらとは別に、特に、上昇するマンションを探り示唆を得ようという試みも行った。マンションが市場に評価されている状態とは、すなわち取引価格が維持、もしくは上昇している状態を指すものを、適正状態とする。市場に評価されているマンションの管理体制の状態を定量的に示すことを第3の作業とした。取引を築年数と成約坪単価で散布図を作成すると図1のように負の相関が見られることがわかった。4)ここから地価の影響を取り除くことを第4の作業とする。Y=0になる点より下は不動産価格が地価を割り負債的扱いとなる。しかし、図1のようにあるマンションに着目すると価格上昇の傾向が見られ、このようなマンションでは重要な管理が行われているという理由から価格上昇している可能性がある。以上の仮説のもと価格を上昇させる要因について推定した。5)不動産市場全体に着目すると、図1のように取引時の築日数と成約価格をプロットすると点が雲のように分布する。こういった事柄を通じた価格変化を観察しようという試みを第5の作業とした。全体としては築年月を経るごとに価格が下がることが観察される。一方、個々の物件に着目すると、図1のように上位の価格帯に位置しかつ価格が上昇しているもの、図2のように中位の価格帯に位置しかつ価格変化も少ないもの、あるいは、図3のように下位の価格帯に位置しかつ価格変化の少ないものもある。このようにマンションの価格変化は様々なパターンがある。価格上昇の点から見ると、望ましいものは上位の価格帯に位置し続ける、もしくは価格が上昇しているものである。一方価格上昇の観点から見ると避けたいパターンは、竣工時には比較的上位に位置しながらも、 価格が下落しているものである。このようなマンションは維持管理が上手くなされず、 買い手から評価を受けられないと考えられる。さらに価格上昇の観点から見ると最も避けたいパターンは下位の価格帯に位置しながら、かつ価格が下落しているものである。 このようなマンションは市場から姿を消す可能性がある。もういちど不動産市場全体に着目し、築日数と中古制約価格グラフに着目すると中古価格に関して、歪な、下方硬直性がみられる。つまり雲の下位に分布が集中していているものの、より下位には急激に分布が少なくなるのである。ある価格帯に達すると、それより価格の低い取引が無くなり、もうこれ以下に下がらなくなったのである。この要因を見ると、マンション価格が地価と同等になったことによってその地価より下がらなくなった可能性がある。より深刻な場合としては地価相当分の価格をつけることもできず、取引が行われなくなったことが挙げられる。このような場合買い手からすれば当該マンションは負債とも捉えられるため、他に何か強いメリットが無ければ成約に至らないことは明らかである。個々のマンション価格については2つの異なる変化がみてとれる。1つはグラフ上で上下に微動する変化であり、もう1つは全期間にわたって移動する変化である。気温が日々変化しながらも春全体では上昇する現象に似ている。ひとつに中古マンションは個々の物件の一つ一つの取引に対して、需要と供給の市場原理が働くことが表れている。つまり売り手と買い手の背景にある事情や意思決定要因が微動を生じていると想起できる。もう1つの全体にわたる変化が重要でありこちらも需要と供給の両方が関係していると想像できる。購入者の需要の側面としては、土地価格が関係していると考えられる。つまりマンションの立地が相対的に人気が出たか無くなったかのどちらかである。供給の側面としては、ハードやソフトが関係していると考えられる。つまりマンションの建物自体が修繕などによって、相対的に、魅力的になったとか、逆に、問題が生じてマンション自体が買い手から避けられている可能性もある。第2部 中古マンション市場価格に影響するマンション管理項目とその効果Part21.研究目的 中古マンション市場の健全性を保つためには、価格の変動させる因子を特定することが必要である。本調査研究では、昨年度の埼玉県K市に引き続き、埼玉県S市を対象に、中古マンションの市場価格について、管理体制に関わる項目を変数として用い、モデル式を作成することで価格の変化に影響する変数の抽出とその効果の度合いを示すことを目的とする。2.研究方法 埼玉県S市における中古マンション(計45棟)を対象とし、「平均坪単価」「成約坪単価差」「傾き」の3つを分析時の目的変数・説明変数(以下記載)を選択し、重回帰分析を行った。さらに、昨年度の対象地である埼玉県K市も含め主成分分析を行い、比較を行った。3.まとめ●重回帰分析結果<モデル式①>平均坪単価(円/坪)=450012.046ー7779.506X1 + 261841.823X2 +2424321.293 X3[ここでX1=積立金未収金(円/坪・年)、X2=決議数毎年(件/年)、X3=排水管連続未実施率(%/年)とする]※昨年度同様の説明変数では、モデル式の決定係数が規定値未満であったため、排水管清掃実施率及び未実施率を変数に加えている。 <モデル式②>平均坪単価(円/坪)= 458529.247+15.711X1 + 2178200.532X2 ー7333.818 X3[ここでX1=修繕支出総額単価(円/坪・年)、X2=修繕支出総額の使用率、X3=積立金未収金単価(円/坪・年)とする]※モデル式①より、昨年度(埼玉県K市)同様、決議数が価格を上昇させる因子であったため、決議数をさらに分類し説明変数に加えている。 【解釈】 モデル式①を解釈すると、積立金未収金が専有面積1坪あたり、年間1円増えると、中古物件として売却時、専有面積1 坪あたり、約7,780 円程度価値を下げることを意味する。これは、昨年度のK 市の結果を補完するものである。将来もしくは現状の修繕」に対する不安から不動産価値を下げていると想定できる。また、決議数毎年については、昨年度同様プラスの影響が確認された。決議数が年間1 件増えると、売却時、専有面積1 坪あたり約261,800 円程度価値を上げることを意味する。決議数は、適正な管理組合であることを示す指標として捉えられていることが判断できる。排水管2 期連続未実施率が価格にプラスの影響を与えるという結果が確認された。これは、一般的に考えると、相反するように感じられるため、別物件でも調査が必要である。 モデル式②を解釈すると、修繕支出総額単価が1坪あたり、年間1円増えると、約15,700円価格が上昇することを意味する。また、同様に、修繕支出総額の使用率もプラスの効果を与えるものであった。モデル式①同様、積立金未収金はマイナスの効果が確認された。昨年度の研究では得られなかった結果(積立金未収金が不動産価格を下げる効果があること)が確認され、結果として補完されたと考えられる。 ●昨年度の研究対象地との比較管理に関する説明変数の特徴を掴むため、主成分分析を行った(図1)。結果を以下まとめる。【結果】①次期繰越積立金・修繕支出総額単価→将来への備えとして重要だと感じているが、関心が薄い。②積立金未収金単価→昨年度とは異なる結果でありエリアによる特徴が見受けられた。K市では、将来の備えとして位置していた。S市では現状に対する修繕への意識が強い。③修繕支出総額の使用率→昨年度と比較し、より間接関与に向かっているため、現状の改善と意識はあるものの関心のなさが見受けられる。④決議数→昨年度同様、将来への不安意識に分類される。⑤管理組合運営費単価→S市では、決議数同様、将来への不安意識に分類されるため、管理組合への出資は悪いこととは考えられていないことが読み取れる。第3部 分譲マンションの一生における中古取引価格の変動パターン及び要因に関する研究1. 研究目的 マンション管理の健全性を確保するためには、適正な積立金を徴収し、適宜改修工事を実施することは欠かせない。一方で、管理会社との打合せでは、区分所有者との会話で「大規模修繕工事実施後にマンションを売却することになったが、予想よりも高く買い手が付いた」というものがあると言う。今後の管理の適正化をはかるためには、大規模などの修繕工事と資産価値の関連について明らかにすることは、政策的にも市場的にも重要である。本研究は、マンション管理組合が、マンションの一生(建替え・終活・長期修繕計画等)を考える上で、判断材料となりえるもの(中古分譲マンションの修繕工事が市場価格及びその変化に与える影響について推定するもの)を提供することを目的とする。2.研究方法 本研究では、既往研究であるマンションみらい価値研究所が2021 年に公表している「築40 年を経過したマンションの修繕工事費の実績(事例研究)」のデータを追記し、不動産価格データ(1990年から2022年)との照合を行った。修繕支出額や修繕積立金残高などが、特徴的な動きを見せると、それが各マンションの成約価格にまで影響を与えるかどうか把握を行った。加えて、補足調査として、各物件において、当該物件の周辺環境などについて変化が生じているかをフロント担当者にヒアリングを実施した。【分析項目】1. 大規模修繕工事と不動産価格の関係性2. 大規模修繕工事間における不動産価格3. 代表的な事例比較(模式図)3.まとめ●大規模修繕工事と不動産価格の関係性 各事例に対する精査から、特に、大規模修繕工事は、不動産取引価格の下落傾向を抑える効果や上昇させる効果が複数の物件で確認される。大規模修繕工事の際に、不動産取引価格が上昇しないもしくはより下落傾向にあるマンションは、共通して資金ショートもしくは資金ショートに近い状態が確認される(報告書3部:44頁以降)。●大規模修繕工事間における不動産価格 大規模修繕工事を軸とし、不動産取引価格の推移の傾きに着目し分析を行ったところ、第1 回から第2回大規模修繕工事の間の価格変動と第2 回から第3 回大規模修繕工事の間の価格変動の間には違いが見受けられ、第3 回目大規模修繕工事以降もさらに異なる傾向が見受けられた。●代表的な事例比較(模式図) 大規模修繕工事の第1 回目と第2 回目については、取引価格の低下が見られるものの、第3 回目以降については、資産価値の維持もしくは上昇が見受けられる。これには、工事実施に伴う資金状況が大きく関連しており、借入があったり、改修工事後に資金状況が枯渇すると資産価値の下落が見られる。 修繕積立金の月額と資産価値に関してはプラス(ポジティブ)な相関が明らかになっていない。しかしながら、中長期的にみれば、資金の潤沢さと資産価値にプラス(ポジティブ)な価値があることが見られる。これは、政策的にも市場評価的にも、広め、啓発的に用いる価値のある結果であると考える。続きを読む


2023/02/22
令和4年度 国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業」 共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行う事例
研究概要 専有部分の配管工事を共用部分と一体化して実施する場合(以下「一体化工事」という)、の合意形成には、どのようなハードルがあるのだろうか。 当初の仮説として「修繕積立金を取り崩し、専有部分の工事費用に充当することは、専有部分の工事は区分所有者が行うこととしている区分所有法や管理規約の原則と異なる。」という点において反対意見が多く合意形成が困難になるのではないかと考えた。 一体化工事については、その是非について多くの論文が出されている。この点について議論するつもりはない。 法律論は別として、今回の調査の結果、確かに一部にこの「区分所有法や管理規約の原則と異なる」という意見はあるものの、最も問題となるのは、「先行して工事を行った区分所有者への補償」をどのようにするのかという点にあることがわかった。 多くの管理組合では、区分所有法をめぐる議論ではなく、「補償額をいくらにするのか」に多くの議論の時間が費やされている。 つまり、今後、一体化工事を実施しようとする管理組合があるなら、管理規約の改正よりも、補償金額の検討を充分に行う必要がある。 専有部分の配管工事を実施していない区分所有者からすれば、本来であれば自らが費用負担して実施しなければならない工事を管理組合が実施してくれるというのであるから、反対する理由は少ない。むしろ、有難い話であろう。何も総会の場で区分所有法や管理規約の記載を持ち出し反対する必要はない。また、先行して工事を行った区分所有者は、その補償金額について納得がいく金額の提示を求めたいであろう。 つまり、一体化工事の合意形成において越えなければならないハードルは、区分所有法や管理規約における負担区分ではなく、先行して工事を行った区分所有者への補償金額にあると言える。 一体化工事を検討した11事例から、合意形成に必要なプロセスを探る。続きを読む
