大地震で命は助かった!なのに、マンション管理組合はなぜこんなに揉める?

マンションを取り巻くリスク防犯・防災
大地震で命は助かった!なのに、マンション管理組合はなぜこんなに揉める?

宮城県沖地震、福島県沖地震で痛感した「復旧の難しさ」

2021年宮城県沖地震、2022年福島県沖地震。

当社が管理するマンションでも、多大な被害が発生しました。

当時の、苦労が絶えない復旧の経験をもとに、「建物被害の復旧を円滑に進めるため」の対策として、管理組合が何を理解しておくべきかを整理します。

首都直下型地震や南海トラフ地震──。遠くない未来にやってくるかもしれない地震に備えて、防災備品を導入したり防災訓練をしたり、居住者の命を守るための対策を取っているマンションは多いことでしょう。しかし、地震発生”後”に、円滑に復旧を進めるための準備をしているマンションはどのくらいあるでしょうか。

ある日、大地震が起こったとします。訓練通りに避難でき、防災備品も活用して、無事に皆助かって一安心。あとはマンションの損傷箇所を復旧するだけの状況です。

そんな中、理事会や総会が意見の対立で揉めてしまったらどうでしょうか。
以下は、実際に巻き起こった議論のほんの一部です。
「なんでこんなに壊れているのに地震保険金が支払われないんだ!」
「ウチの前の壁面が壊れている。早く直してほしい。対応はまだなの?」
「皆、廊下の損傷を直して欲しいというが、積立金も潤沢ではない。修繕は我慢して保険金は貯蓄すべき!」

地震発生時に命を守るための対策は、ニュースや新聞などでも日常的に取り上げられています。しかし、地震が起こった後の、建物被害の復旧を円滑に進めるための対策は、ほとんど取り上げられていないのが現状です。

復旧のために、管理組合がすべきこと

地震発生後、マンションにおける被害の復旧を検討する際に、管理組合はどのようなことをしなければならないのでしょうか。

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特に「復旧範囲の検討と工事会社への見積もり依頼」以降は、平常時の修繕工事と大きく変わらない形で検討が進みます。しかし、計画的に行う工事とは異なり、地震被害復旧ならではのトラブルも発生するのが現実です。


建物被害の復旧が計画修繕と比べて揉めやすい理由は、以下の2つにまとめることができます。それぞれ実例をもとに解説します。

トラブル実例①―目立つ被害なのに、保険金が認定されない

あるマンションでの損傷の様子です。

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開いた穴から鉄筋が外気に触れ、コンクリートの塊が崩落するような危険な損傷。見ても分かる通り、かなりのダメージを負っている状態です。しかしこの損傷は、驚くことに地震保険鑑定にも罹災証明鑑定にも認定されませんでした。

その理由は、地震保険の鑑定対象である「柱・梁の損傷」と、罹災証明の鑑定対象である「建物内に入らずに目視できる損傷」のどちらにも当てはまらなかったから。こんなに目立つ損傷があるにもかかわらず、地震保険金が受け取れない場合もあるのです。

こちらの損傷に関しては結果的に、保険金が下りませんでしたが、危険性の高い箇所だけを修繕することがきまりました。

このように、地震保険に対する理解が不十分であると、見た目の損傷度と鑑定結果に差があることに不満が生じるといったケースがあります。
 

トラブル実例②―区分所有者間での温度差

あるマンションでは、中層階にある1部屋の壁面が大きく損傷していました。損傷したのは廊下に面した壁、つまり共用部分であるため、該当の区分所有者は速やかな理事会開催と復旧を強く求めていました。

しかし、その壁面以外の共用部分にはさほど大きな損傷がなく、理事会には中層階のメンバーが少ない状況。理事会は「地震保険鑑定が済んでいない中での復旧はできない」とし、臨時の理事会も開催されませんでした。被害を受けた部屋の区分所有者はどうしても納得がいきません。

最終的には、地震保険が認定されたため、数か月後に修繕を決議しましたが、「対応が遅い」と理事会が非難されることになってしまいました。
このように、被害の大きさが部屋、階数によって大きく異なるため、区分所有者の温度感に差が生じてしまうのです。

これらのトラブルが発生する背景には、保険が認定されるかどうかといった問題だけでなく、居住者にとって、管理組合の対応状況が見えないことが不安につながるといった問題もあると考えられます。
 

管理組合が理解すべきことは?

居住者の不安を少しでも取り除くために必要なこととして、
■    地震保険など、復旧支援制度について正しく理解すること。
■    地震保険認定額や工事費用が不明の段階でも、速やかに仮の方針を決定して周知すること。理事会が復旧についてしっかりと検討していること、「居住者の安全を優先して検討しているので待ってほしい」という意思をアピールすること。
があげられます。

具体的な方針決定に際しては、以下の順位をご参考ください。

1.    ライフライン設備の復旧
2.    タイルの落下があればさらなる落下を止めること
3.    防犯上、居住上明らかに不具合のある箇所(窓・扉が開閉できない、施錠できない、損傷が大きくて風が吹き込んでしまう)
4.    共用部分の通行に不具合のある箇所(エキスパンションジョイントのゆがみ、落下)
5.    その他、共用廊下のクラック等

上記の4番までは、生活する上で必要不可欠であることから、地震保険金の有無にかかわらず実施することが多いと考えられます。また、きたるべき地震に備えて周知文を準備しておいたり、上記の○番まではまず検討する、といった決めごとをしておけば、より円滑に復旧のためのやり取りが進められるはずです。

大地震の発生後、無事に助かった後の復旧期は、普段よりも対応の遅れが不満につながりやすいものです。

もちろん、どれほど早く検討、周知しても実際の復旧が遅れてしまうことはありますが、まずは住民の安心のためにも「理事会ではこれだけ速やかに検討している」という姿勢を示すことが重要です。

坂本 陵介
執筆者坂本 陵介

2019年に大和ライフネクストに入社。以来、宮城県にて管理組合サポート業務に従事。多くの人々を支えるマンション管理業界において、独自の目線で社会課題に取り組むことが目標。

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