甘く見てはいけない!? 理事長の仕事

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甘く見てはいけない!? 理事長の仕事

思いかけず“理事長”に就任してしまった!

輪番制で理事の順番が来た。

「全員に順番が回ってくる管理組合役員とはいえ、仕事は忙しいし、家族との時間も大切にしたい。でも、ご近所の手前もあるし、月に一度の理事会ぐらいは顔だけ出すことにしよう」

そんな想いで、最初の理事会に足を運んだあなた。役職決めの抽選箱から引き当てた役職は、なんと、“理事長”だった!

理事長の仕事とは、総会や理事会で司会をする程度しかイメージしかないかもしれない。実際にはどんな仕事があるのだろうか。責任も重そう、などと不安もよぎる。立候補や話し合いで決められないのなら、抽選で決めることにもなっても致し方ない。しかし、“理事長”=管理者※1になった以上は、責任も付いて回る。今回は理事長の“仕事”とは何かについて考えてみよう。

※1 “理事長”=管理者
区分所有法第3条では、「管理者を置くことができる」とあり、また標準管理規約第38条2項にて、「理事長は、区分所有法で定める管理者とする」とある。

理事長になったらどんな仕事が待っているのか

管理会社に管理業務を委託しているなら、理事長の承認印やサインはどの書類に必要なのか、またどんなタイミングで誰に渡すのかなどは、管理会社の担当者がその都度教えてくれる。

管理事務の報告や月次の入出金状況も同様だ。管理会社の事務周りのサポートは手厚い。
だから、これといった問題が生じなければ、月に一度の理事会で司会者を務めれば、理事長の仕事もなんとかなりそうにも思えるだろう。

しかし、どんな管理組合でも、何も問題が発生しないということは、まずない。さて、どんな問題が起こり得るのだろう。

例えば、未納管理費等の督促が必要になったとする。理事長名の内容証明を出したり、法的な対応のために弁護士に依頼したりする必要がある。

例えば、いたずらでエントランスのガラスが割られたとしよう。後片付けや取り換えの手配だけでなく、保険で対応が可能かどうか、相手に弁償の交渉を行うべきか、さらには再発防止の手をどう打つのかも重要だ。

漏水事故が発生した場合でも、緊急対応や復旧作業が終了すればそれで終わりとはならない。原因が専有部分なのか、共用部分なのかによって、その後の対応も異なる。管理会社に委託している場合、緊急対応や、解決に向けての提案などはしてはくれるが、その報告を受けどう対応すべきかは理事長が判断し、必要に応じて解決までの顛末を組合員に向けて説明・報告しなければならない。有事の際の判断と組合員への説明こそ、管理者としての重要な仕事である。

そのほか、ゴミ捨てルールが守られていない、清掃が不十分だ、迷惑駐車で困っている、不審者がマンション内をうろついていたなど、あらゆる問題に関して「理事長として何とかして!」という声や投書も入ってくるだろう。マンションにおける隣人トラブルといえば騒音問題であり、理事長に仲裁に入ってもらいたいという話もありがちだ。

さて、管理者になった以上は、これらの問題に対し適切にかつスピーディに判断し、しっかり説明していかなくてはならないということになる。
 

うまく対応するコツはあるのか

規模の大きなマンションでは、先に挙げたようなさまざまなことが、次から次へと発生してしまうかもしれない。事案ごとの個別の解決策に関してはいずれ触れたいと思うが、本コラムではうまく対応していくための基本的な考え方を整理してみよう。

(1) その問題は誰が解決すべきなのか
管理組合が対応すべきことなのか、それとも管理会社なのか、問題の内容を把握し、見極めることが必要となる。

(2) どこのお金で解決するか
復旧などを要する場合は費用が発生する。管理費・修繕積立金・保険でまかなうほかに、加害者等に請求する場合もあるだろう。お金の出所によって手続きや決め方が変わることを知っておく必要がある。

(3) 復旧や解決すれば終わりではない
理事会でしっかりと再発防止の対策を協議したり、住民に注意喚起したりすることが必要なケースも多い。また、総会等で顛末を報告すべき場合や、細則等に新たに定めておくべき場合もある。

(4) 管理会社にどこまでサポートしてもらえるのかを知っておく
理事長業務をこなすには力強い味方だか、管理委託契約でやってもらえる業務の範囲、つまり「どこまでお願いできるのか、やってもらえるのか」を確認しておく。

(5) ルールやガイドラインに基づいて解決策を探る
管理規約や細則は当然のこと、区分所有法や民法、また国などのガイドラインも参考にする。場合によっては、弁護士やマンション管理士などの専門家と相談するのも良いだろう。

次から次へと発生する、日々の事件・事故ももちろんだが、さらに理事長には、建物や住まう方の高経年化を見据えて「マンションの将来ビジョン」を描くという重要な仕事もある。

日々発生する問題に対応しながら、同時に考えていく必要があるだろう。とりあえずは、あまり領域を広げずに、日々の業務という観点に絞り込んで整理してみよう。

理事長の業務──具体的にどんなことがある?

マンションでよく発生する問題や対応のコツは述べたが、管理者としてやるべきことを具体的に書き出すとどんなものがあるだろうか。

国土交通省の「外部専門家の活用ガイドライン」※2の資料編に、外部専門家に理事長職を依頼する場合の契約書例(第三者管理者方式の一例)が記載されている。そこから理事長の業務を一部、書き出してみよう。

【理事長の業務】
●損害保険契約の締結、保険金額の請求及び受領
●損害賠償金及び不当利得返還金の請求及び受領
●職員の採用・解雇
●契約行為(預金口座開設契約、借入れ等に係る契約、駐車場・敷地及び共用部分等に係る使用契約・その他第三者との契約)
●組合員等からの各種届出等の受理及び処理(入退去の届出・専有部分貸与に関する誓約書・リフォーム等の申請・総会における意見陳述権行使、代理権証明書等)
●組合員等からの報告・連絡・相談への対応や理事会・総会その他の資料作成
●法令、管理規約又は使用細則等に違反した場合の勧告、指示、警告
●総会及び理事会の招集、議長、その他会議への出席・報告・助言
●総会及び理事会の議事録及び書面決議の書面、その他の帳票類等の保管・閲覧
●総会及び理事会の議事録・規約原本等の保管場所の掲示
●管理業務を委託する専門業者等との折衝及び業務の履行確認・指示等
●会計帳簿等の整備状況の確認、管理業者が作成した収支予算案・決算案の素案の確認
●未納の管理費等の徴収に係る理事会又は総会等への報告や督促
●その他管理組合の業務を総括する上で必要な業務

「組合員等からの報告・連絡・相談への対応や理事会・総会その他の資料作成」という項目があるが、組合員と直接やりとりをしたり、議案や説明のための資料作成をするということである。重要な事柄であれば説明会なども行い、合意形成への道を模索することになるのだろう。

また、「外部専門家の活用ガイドライン」の契約書例には、理事長業務以外の業務も後述さされている。主には、一級建築士や弁護士等に依頼すべき内容、例えば長期修繕計画の策定・見直し、訴訟等の法的措置などがそれにあたる。ほかにも出納業務など、マンション管理適正化法にて登録した管理業者が行うべき業務が記載されている。

繰り返しになるが、これらの専門家等に必要な依頼を行い、その結果などを適切に組合員に報告・説明していくのが理事長の業務となる。

そして当然ながら、理事長はこれらの業務を思う存分に好き勝手にやって良いというわけではない。総会で決議されたことを、予算準拠の原則を守り、管理組合の利益のために誠実に執行していくのが大前提となる。

つまり、総会の決議事項や管理規約等を無視して自分勝手にやってしまうのは論外ということだ。最高意思決定機関は総会、理事長はその執行機関という位置づけだ。また、保存行為も理事長の仕事だ。わかっていながら手を打たなかったとなると、善管注意義務を全うしていなかったということにもなりかねない。

事務的な部分は管理会社にサポートしてもらえることも多いが、理事長の大変さは十分に伝わったのではないだろうか。
 

※2 「外部専門家の活用ガイドライン」
令和3年に標準管理規約が改定され外部専門家の活用が整理された際に作成されたガイドライン。外部専門家が管理者等に就任する場合に、適正な業務運営を担保する監視・監督の強化を目的としている。

大変な理事長の仕事をうまくやるコツ

ここまで色々と述べてきたが、理事長の役割と責任の重さに嫌気がさしてしまったかもしれない。そこで、理事長の仕事に役立つと思われる策を3つほどまとめてみる。

一つ目は、先ほどからも取り上げているが、「管理会社を活用する、上手に使う」ということ。管理会社と締結する管理委託契約に「事務管理業務」という項目がある。分解すると、出納や会計業務、修繕等の企画・実施の調整、理事会等を支援する業務となる。これらは理事長業務をサポートする業務といって良い。契約内でどこまでやってもらえるのかを確認しながらにはなるが、管理会社と良い関係を保ちながら、上手に活用するに越したことはない。管理会社によっては、管理組合で問題になりやすい事例に対する解決策やノウハウをデータ化することで類似事例等を検索できるようにし、提案に活かす仕組みを構築しているケースもある。知識・事例・ノウハウを共有化していくナレッジシステムというものだ。

二つ目には、外部専門家を活用するという手もあるだろう。先に「外部専門家の活用ガイドライン」の中の、理事長を外部の専門家に依頼する契約書例から理事長業務を拾い上げてみたが、そもそも理事長を外部の専門家に依頼するやり方を「第三者管理者方式」という。
もちろん、一足飛びにこの方式に切り替えようという話ではなく、マンション管理士などの専門家をアドバイザーとして迎え入れる方法もある。ただ業務をこなせば良いわけではない管理者という仕事について、費用は別途発生するが、外部専門家を活用する意味は大きいだろう。

三つ目は、少し毛色は異なるが、管理者がとても責任の重い役割である以上、管理組合役員向けの賠償責任保険で転ばぬ先の杖を用意しておくという考え方だ。所有者それぞれにとってマンションは大切な財産であり、規模によっては年間の運営費用が億単位になることもある。区分所有者間の誤解や利害の食い違いが大きくなると、裁判になってしまうこともある。実際、私もそんな状態に至ってしまった役員から悩ましいお話を伺ったことがある。
また、マンション管理をめぐる訴訟は年々増える傾向にあるという。具体的には、総会運営などの手続きや決議内容の無効を訴えるもの、名簿等の閲覧請求に関わるもの、横領や名誉棄損などさまざまだ。

この保険は、管理規約に規定する業務において、管理組合やその役員が損害賠償請求を受けたことで発生する損害賠償金や弁護士費用、情報漏洩対策費用などが対象となる。備えあれば憂いなしといえるだろう。

詳細な保険の内容は、下記のホームページなどを参照のこと
日本マンション管理士会連合会_日新火災海上保険株式会社
マンション管理業協会_三井住友海上火災保険株式会社(PDFが開きます。詳しい内容についてはマンション管理業協会にお問い合わせください)

理事長になるとは、前向きに考えれば貴重な経験ができるということでもある。うまくやっていくコツなど、参考にしてもらえれば幸いだ。

丸山 肇
執筆者丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

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