値上げを断ったら解約通知!管理会社を見直べきか、自主管理すべきか

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値上げを断ったら解約通知!管理会社を見直べきか、自主管理すべきか

管理委託費が高騰! 払えなければ解約という実態

モノの値段が高騰している昨今では、各種サービスの値段も同様に上昇している。分譲マンションにおいても例外ではなく、管理組合が管理会社に管理を委託する際に支払う「管理業務委託費」もその限りだ。

施設のように形あるものではない「管理」の「サービス」を提供する管理会社の場合、最低賃金や社会保険料の上昇など、値上げの根拠についての説明することが難しいという側面がある。よって、管理組合の理解が得られないケースが少なくない。

特に、小規模なマンションの場合、一般会計の中のかなりの部分を管理委託費が占めているケースが多い。そのため値上げを受け入れると一気に赤字になってしまうことになる。そして、追い打ちをかけるように、ロシアのウクライナ侵攻による資源価格高騰や海外での物価高騰など、外的要因に伴う電気代の値上げや国内の物価上昇が重なり、多くのマンションで会計が厳しさを増しているのではないだろうか。

また、収入面でも厳しいマンションは多い。管理費については竣工当時から値上げの改定がされてこなかったケースも多く、さらに若年層の車離れや高齢者の免許返納による空き駐車場の増加もあり、今後、一般会計の収入が悪化していく管理組合が増えていくだろう。

そうであるならば、「管理費を値上げするしかない」ということになるが、修繕積立金と異なり、管理費は値上げ提案が受け入れられにくいという側面があり、簡単ではないのだ。

修繕積立金の場合、適切な時期に適切な修繕工事を実施するにはどれだけの資金が必要で、それを確保するために修繕積立金をいくらに設定しなければならないのか。その指標として「長期修繕計画」がある。これなら増額をする際にも根拠が明確で、マンションの価値を維持するために必要なのだといった理解が得られやすい。

一方、管理費の場合、値上げの提案をすると「管理会社の利益を増やすため」と受け取られやすく、「経費削減などの企業努力が足りない」といった批判に陥りやすい。そのため、管理会社から増額提案をしても理解が得られにくい。

こういったさまざまな背景により、管理組合としての収入が伸び悩む中、支出だけが一方的に増え、一般会計の収支が赤字に陥ることになる。同時に管理組合側は、管理会社から示される管理委託費の増額改定に対して態度を硬化させるという「負のループ」に陥ってしまいがちだ。そうなった場合、管理会社側から「解約」を提示されるケースも増えてきている。

次の管理会社が見つからない? 厳しい現実

管理会社から解約を告げられると、管理組合側はもちろん困るだろう。次の管理会社が見つからなければ、管理会社の手を借りずに管理をするしかなくなり、いわゆる「自主管理」の状態になる。それを避けるためには、管理委託費の増額改定を受け入れるか、あるいは現在と同じ価格かそれ以下で管理をしてくれる会社を探すことになる。

別の管理会社を探すとなると、理事会役員としては、総会で他の組合員から説明を求められることになるため、複数の管理会社の見積もり比較は避けては通れない。

こうして理事会はインターネット上の情報や口コミなどを頼りに「管理会社探し」をすることになるわけだが、初めての経験となる理事会役員としては、苦労は計り知れない。加えて最近では、築年数や戸数などの管理を受託する条件を設定している管理会社も増えており、高経年マンションや小規模マンションの場合、管理会社に問い合わせをしても、見積もりの提出すら応じてもらえないことがあると聞く。

また、苦労して見積書を集めて管理会社を比較検討したとしても、必ず「良い結果」になるとは限らないのが悩ましいところである。というのも、複数の管理会社の業務品質を「事前」に比較することは非常に難しいからだ。

理事会役員や組合員は、管理会社各社から提出される見積書や提案書といった資料、住民説明会での説明内容をもとに次の管理会社を選ぶ。しかし、そういった資料や説明ではわからないところに本質的な業務品質の違いが隠れていたりする。例えば、清掃や理事会支援の品質などは、清掃員や管理員、フロント担当が着任し、管理がはじまってから一定期間が経って初めて「良い結果」だと判断が可能となる。事前に確認できる勤務時間や各種スポット業務、保守サービスの内容などを比較し、その差に対して、金額差が妥当かは判断できたとしても、細かな業務品質の違いまで見極めることは難しい。

“見つからないなら自主管理”は本当に可能か

管理組合内で、管理業務委託費の値上げを受け入れるか、管理会社変更かといった議論をしていると、第3の選択肢として「自主管理をしたらいいのではないか」といった提案が理事会役員や組合員から出されることがある。

「マンション管理のことを何もわかっていない素人集団で自主管理なんてできるわけがない」と、一蹴されることも多いが、かといって、実際に自主管理で数十年も管理を行っているマンションも存在するため、決して不可能な話ではない。

とはいえ、これまで管理会社に管理業務を委託してきたマンションがいきなり自主管理に切り替えることは本当に現実的なのだろうか。その可能性について検証してみたいと思う。

自主管理にする場合、最も大きい課題の一つが「出納」「会計」といったお金に関する業務を誰がどのように行うかということだ。まず出納だが、一般的に自主管理を行っているマンションでは、会計業務を担当する理事が1人ですべてを行っているケースが多いようだ。主な業務の内容は次の通りだ。

【収入】
・通帳を確認して、管理費、修繕積立金、駐車場使用料などの収入がリストに照らして漏れなく期限までに入金されているかを確認、帳簿に記入する
・入金がされていない場合、未収者に対して支払い督促を行う
・不定期に入金されるもの(共用部分の使用料等)についてはいつ、いくら入金されるかを把握し、入金されていなければ個別に督促を行う

【支出】
・点検や清掃作業などの支払いを各業者に対して期限内に振込等により行う
・請求書、領収書などを確実に受領し、紛失しないよう保管する
・理事が立て替え払いしたものの精算を行う
・その他、支払いに関する業務全般

この中でも特に注目したいのが「未収金の督促」である。

督促する人も滞納者も同じマンションを共有する居住者であるため、関係悪化を避けたいがために強く督促できず、未収金を回収できない事例を多く見かける。本来であれば裁判をしてでも回収すべきものだが、実際には同じ居住者同士で厳しい対応はとりにくい。そうやって対応を先送りにしていくうちに、滞納額はどんどん膨らんでいく。

資金管理の面でも自主管理は課題は多い。例えば、理事長が銀行印を保管し、会計担当理事が通帳を保管するといった分別管理の方式をとっていたとしても、この2人が結託してしまえばガバナンスは利かない。

過去、理事会役員の不正により管理組合の資産が棄損された例は決して少なくはない。しかも、棄損された資金は、ほとんどの場合返ってこないのである。

続いて、会計業務だが、こちらも会計担当理事が一手に引き受けているケースが多い。出納業務で行った内容を正確に帳簿に記録し、それを年次決算資料(PL、BS)にまとめる作業を行うことになるが、これには簿記の知識が必要であり、また、マンションの会計は「発生主義」であるため、「発生主義」で会計資料を作成するスキルが必要になる。

もちろん、会計の知識を有している人が管理組合の中にいるとは限らない。

理事が輪番制であれば、理事が改選されるたびに会計に詳しい人を見つけなければならなくなるが、これは現実的ではない。よって、自主管理マンションでは、おのずと会計に明るい人が会計理事になって継続的に当該業務を担当することになるのだが、もし体調不良や不慮の事故等でその人が会計理事を継続できなくなると、途端に会計業務は滞ることになり、代わりの人が見つからなければ直ちに機能不全に陥ることになる。

これらの課題を解決するために、会計業務だけを公認会計士や税理士、マンション管理士等の専門家に委託する例もあるが、これらの専門家もマンション特有の会計制度に必ずしも明るいとは限らない。

次に課題となるのが、管理組合運営だ。

管理会社の重要な役割として「管理組合運営支援業務」があるが、中でも「理事会運営支援業務」では、理事会の開催にかかわる事務(理事のスケジュール調整、会場手配、開催案内配付など)、理事会当日のサポート業務、議事録素案の作成などを行っている。

また、居住者からの問い合わせや届出の受付は各マンションに配属された管理員が行うが、回答の手配や受領した書類の取りまとめ等の作業は、管理会社のフロント担当者が理事会支援業務の一環として行っている。管理組合運営に関するクレームの類への対応も同様である。

このように、管理会社のフロント担当者は日々マンションで起こるさまざまな課題全般に対処している。

自主管理になると、これらをすべて理事会役員で分担して一から対応しなければならない。これは想像以上に大変な業務。判断の遅れで損害が拡大した場合、理事会役員の責任問題にも発展しかねない。自主管理のマンションは、竣工時から長い時間をかけ、試行錯誤を重ねながらそのマンションならではの管理体制を構築してきたのである。これは簡単にできることではない。

不可能とまではいえないが、相当ハードルが高いものであると考えてほしいのである。

値上げ要請、管理組合は取るべき最善策とは

自主管理を主張する組合員がいるのであれば、前述の内容を説明の上、「現実的に可能なのか、誰がその役割を担えるのか」を問い、協議する必要がある。

結論としては、現在の管理会社に特段不満点や不安に感じるところがないのであれば、値上げ要請に正面から向き合い、社会情勢を含めた広い視野でその必要性を考え、それが適正なものであるかどうかということを冷静に自分事として判断してほしい。

そのためにも、管理会社とは日頃より建設的な意見を交わすことのできる、良好な関係性を維持していってほしいと願っている。

宮﨑 栄治
執筆者宮﨑 栄治

マンション管理士。大和ライフネクストにて、管理組合の担当として運営補助業務などを担当後、マンション管理業協会出向。高経年マンション問題などの研究を行う。現在は、経験や知見を活かしセミナー講師や管理組合の相談窓口を行う。

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