【世界のマンション~アメリカ編~】 理事になりたい人が殺到!? アメリカ ロサンゼルスのマンション

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【世界のマンション~アメリカ編~】 理事になりたい人が殺到!? アメリカ ロサンゼルスのマンション

いざ、ロサンゼルスへ!

2023年12月にアメリカ ロサンゼルスのマンションを、現地の管理会社からご案内いただく機会を得ることができた。
アメリカの区分所有建物を研究した論文はたくさんあるが、管理会社の実務を紹介したものはあまり見たことがない。私は管理会社の社員であるので、アメリカのマンションに関する法体系より、どちらかと言えば、アメリカの管理会社はどのような仕事をしているのか、日本と何が異なるのかのほうに興味がある。私は子供のころから、アメリカに対しなんとなく憧れに近いような感覚を持っており、アメリカに行けば日本にはないような先進的な「何か」があるかもしれない、今回はそんなことを勝手に想像しながら渡米することになった。
私が訪問したのは次のようなマンションである。

【概要】
・2006年に建設された400ユニット(戸)超の分譲マンション
・ロサンゼルスでは標準的な低層4階建て2棟
2棟は渡り廊下で繋がっているため、セキュリティ内で別棟共用施設への往来が可能
・共用施設はプール、屋内バスケットコート、BBQ施設、会議室、パーティールームなど

【管理体制】
・現場責任者1名、週5日勤務8:30~21:00頃までの勤務
・清掃員4名、メンテナンス担当1名

残念ながらマンションの外観写真は掲載することができないが、EaglesのHotel Californiaのレコードジャケットを彷彿とさせるような瀟洒な建物である。(読者の中には、年代的に古すぎてご存じない方も多いかもしれないが、ご容赦いただきたい。)

アメリカも日本と同じ?

私が訪問した時は、まさに円安真っ最中で、円相場は1ドル145円を超え150円に迫る勢いであった。(以下、1ドルは145円として計算。)滞在中は何を買うにも高くて手が出しにくかったと記憶している。事前の調査では、アメリカも日本と同様に、分譲マンションには管理組合があり、管理費や修繕積立金の概念は存在しているとのことであった。
現地の管理会社担当者にまず聞いたのが、「管理費や修繕積立金はいくらですか?」という質問である。もちろん、私には管理費や修繕積立金という英単語は分からないから、通訳を介して質問している。マンション管理における業界用語は日本人でも理解できないような言葉が多く、それを通訳していただいているのでどこまで正確に伝わっているのか分からないが、おおかた次の通りである。
「このマンションでは、管理費、修繕積立金は専有面積に応じて合計で月285ドル(41,325円)~700ドル(101,500円)/戸を設定し、年間210万ドル(3億450万円)を徴収しています。修繕積立金は徴収総額の30%程度です。」
徴収額41,325円~101,500円のうち、30%相当額は12,398円~30,450円ということになる。日本にはないアメリカのインフレ感覚を勘案してもとにかく高い!という印象を受けた。

修繕積立金は値上げできている?

日本のマンションが抱える大きな課題である、管理費や修繕積立金の値上げはどうしているのか。この点については、アメリカらしい合理的な考え方が見えてくる。
①管理費の値上げ
カリフォルニア州法では、5%まで総会決議なく管理費の値上げが可能であるそうだ。また、このマンションでは、賃借人が60%を占めているが、区分所有者は管理がよければ賃料を上げられるため、良い管理をしてくれていれば管理費の値上げにも理解をしてくれるようだ。つまり、賃料が管理費に直結しているわけだ。マンションをひとつの金融資産として収支バランスを考えているのだろう。なお、前期は11%値上げしているそうだ。
②修繕積立金の値上げ
修繕積立金の資金計画は専門のアナリストに委託し、積立状況の確認と修繕計画の検討を合わせて行っている。このマンションでは、修繕積立金のリザーブ率(長期修繕計画に対する資金確保率)は90%を超えており、管理組合収支は健全な状態を維持できているという。つまり、資産管理(アセットマネジメント)はプロに委託しているということだ。日本でも、外部専門家を活用している管理組合もあるが、長期修繕計画の立案というレベルに留まっているケースが多く、「アセットマネジメント」という考え方までには至っていない。

管理組合運営ではイベントの開催が盛ん

理事会や総会が開催され、管理組合の運営が決定していくのは日本と同じである。このマンションの理事は5名。立候補した区分所有者に対して投票が行われ、50%の賛成により選出される。現理事長は11年務める長期政権である。
理事会は、日本と同様に、月1回程度開催される。理事会では、共用施設を利用してBBQやクリスマスパーティなどが年3回~5回企画される。資産管理は専門家に任せて、居住者はコミュニティ形成に時間をかける。それでも、これだけの回数の開催をするのは、私のイメージ通り、社交的でパーティが好きなアメリカの文化があるからなのだろう。
さらに、理事会からのお知らせの配信や各種支払いができるサイトを運用し、居住者の利便性を高めている。

管理規約に違反すると罰金!?

日本でも一時、民泊が話題になった。宿泊者のマナー違反が問題となり、今でも民泊を禁止しているマンションが大多数だ。民泊発祥の地であるアメリカは民泊に寛容なのかと思っていたが、このマンションの管理規約でも、民泊は禁止されている。もし、発覚した場合は4,000ドル(580,000円)の罰金が科せられる。日本の管理規約で定められているのは、管理費等の滞納にかかる遅延損害金と、外部区分所有者に対する協力金程度であろうか。ここでも罰金という発想とその高額な設定に驚かされた。
なお、現在、1ユニット(戸)が滞納している状態であるが、州法では、1,800ドル(261,000円)以上の長期滞納に対して、管理組合が抵当権を設定して競売をする権利が定められているそうだ。
マンションに関わる制度は、義務違反者に対して非常に厳しい。

いま、抱えている課題

保険商品が値上げ傾向にあり、今期は年10万ドル(1,450万円)から年33万ドル(4,785万円)の値上げ申し入れがあった。なお、5階建て以上には地震保険の加入が義務付けられているため、保険料がさらに高額になる。保険料も日本より、驚くほど高額である。
マンションが金融商品として位置づけられていることが、想定外のブレ幅(=リスク)を何かしらの備えで回避しようとする動機にもつながっているのかもしれない。

理事のなり手が殺到!

アメリカの区分所有者は、自己の資産の価値をより高くすることに興味を持っている。そのため管理組合運営に積極的に参加し、自らの資産価値を高めようと理事に立候補する人が後を絶たず、理事のなり手不足の課題もないという。
なんともうらやましい話である。
日本のマンションが「終の棲家」として位置づけられるようになってから、「資産価値」、いわゆる中古マンションとしての売買価格には興味がない区分所有者が増加したように思う。市場からどう評価されているかを気に掛けることも、マンションの維持管理には必要な思想なのではないかと感じた。

異なる文化を体験すると、日本の特徴を再認識することができるようになる。外国での話は関係ないと思いがちであるが、あたり前の社会があたり前でなくなるとき、日本の将来が見えてくるのかもしれない。

峯岸 直樹
執筆者峯岸 直樹

大和ライフネクスト株式会社 マンション事業本部事業統括部長として全国の支店を飛び回りながら支店の課題解決支援や若手社員の育成など活躍の場を広げている。

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