「駐車場抽選に当選するならこのマンション買います!」から「機械式駐車場は埋めてしまえ!」まで ~駐車場からみたマンションの歴史~

組合運営のヒントマンションを取り巻くリスクマンションの法制度
「駐車場抽選に当選するならこのマンション買います!」から「機械式駐車場は埋めてしまえ!」まで ~駐車場からみたマンションの歴史~

 今から20年くらい前までは、マンションの敷地内駐車場は常に不足していた。新築マンションの販売現場では、敷地内に駐車場を借りることができることを、購入の絶対条件とする人が多かった。
 例えば、購入検討者がモデルルームで「敷地内駐車場を借りることができるのならこのマンションを買う」「抽選会では、自分にだけ特別の便宜を図ってほしい」と話す光景を見かけることもあった。こうした人々には、分譲会社の営業担当者が駐車場の利用は公開抽選であることを苦労をしながら説明していた。
 さらに、抽選会で落選してしまうと「マンションの売買は無効で、解約だ」と叫んだり、落選の責任は分譲会社の営業担当者にあるとして詰め寄る人さえいた。
 こうした駐車場に対する価値観や、その利用方法はどのように変化してきたのか、そしてこれからどうなっていくのか。マンションの駐車場の歴史を紐解くと、社会情勢やマンション住民の人間模様、マンションの歴史そのものが見えてくる。
 なお本レポートは、筆者らが35年余の間に経験したり、見聞きしたりしたことをもとに記述したものである。 判例や学説と一部異なる見解があるかもしれないが、その点はご了承いただきたい。

マンション標準管理規約と専用使用権

 現行のマンション標準管理規約第15条に駐車場に関する規定がある。条文は下記の通りである。

image

 はじめてマンション標準管理規約が制定された昭和57年当時は現在の条文とは異なり、「駐車場の専用使用権」という条文となっていた。さらに、第3項、第4項において専用使用権の継続が認められるなど、現在とはその取り扱いが異なっていた。

image

 この昭和57年版(1982年)の「専用使用権を設定する」という規定は、そのあと、平成9年(1997年)、現在の「使用契約により使用させる」という規定に変更されるまでのおおよそ14年間は変更されず、駐車場の専用使用権に関連するトラブルが続発していた。

なぜトラブルが続発していたのか。特徴的なケースとは

①特定の区分所有者に専用使用権が設定されたケース

 販売時、特定の区分所有者に専用使用権を設定しているケースでは、売買や賃貸の場合でもその専用使用権を承継できるとする管理規約もあった。この場合、駐車場を使用したい他の区分所有者が使用できないという状況になった。
 また原則として、専用使用権を有する者を変更する場合は、総会決議に基づき管理組合の承認のもと行われるべきとあるが、分譲時に区分所有者間で専用使用権を売買できるとした管理規約もあり、区分所有者間で専用使用権の売買をめぐるトラブルも発生していた。
 例えば、ある区分所有者が他の区分所有者に専用使用権を45万円で売却する意向を伝えた。しかし、50万円で購入するという別の区分所有者が現れ、この区分所有者にも売却する意向を伝えた。当然、トラブルになる。ご近所同士の契約であるから、契約書など存在しない。管理組合も管理会社も仲介会社も介在していない。共用部分の利用に関する事項であるにもかかわらず、こうした管理組合不在のトラブルが発生していたのである。
 土地や建物を所有する場合には、登記制度がある。しかし、専用使用権は、あくまでも使用権であり所有権があるわけでもなく、登記制度もない。管理組合で定められたルールに則って運用されているものである。この専用使用権が独立したひとつの財産的価値となり、売買の対象となっていた。さらに、マンション外の人が駐車場を使っていることに管理組合気付けないこともあった。専用使用権を有する者が誰なのか、もはや管理組合ですら把握できていない状況が存在したのだ。
 筆者らの個人的な経験であるが、この当時、ある法律家が、専用使用権をめぐるトラブルにプライベートで巻き込まれたという。その人いわく、「そもそも専用使用権という言葉は法律用語でもなく、このようなトラブルが潜んでいるとは思っていなかった。」とのこと。法律家ですら専用使用権という言葉に注意を払わなかった時代である。

②分譲会社に専用使用権が設定されたケース

 販売手法のひとつとして、分譲時に、駐車場の専用使用権を管理規約をもって分譲会社に設定する方法があった。購入者は、駐車場部分について共有持分をもち、管理組合が共用部分としてその管理を行うことになるが、専用使用権は分譲会社に設定されているため、区分所有者が駐車場を利用するには分譲会社から借りることになる。
 この際、分譲会社が管理組合から無償で借り受け、区分所有者に転貸する場合と、分譲会社が管理組合から有償で借り受け、使用料を上乗せして区分所有者に転貸する場合があった。
 新築時は管理組合にとってもさほど多額の支出とはならず、駐車場使用料収入に関して問題になることはない。区分所有者も分譲会社から借りることができているため、特に疑問を感じていない。
 しかし、築年数が経過するにつれ、修繕費等の支出の増加、管理費や積立金の値上げと同時に駐車場使用料についても見直しがされることになる。この時に、駐車場使用料が直接管理組合の収入になっていないことに気付き、分譲会社との間でトラブルが生じることがあった。
 こうした専用使用権をめぐるトラブルはやがて法廷に持ち込まれることになる。
 昭和の後半から平成10年(1998年)頃には、駐車場をめぐる多くの判決がある。これらの判決についての解説は、法律家の先生方に譲ることとしたい。
 なお、専用使用権の設定はトラブルが生じやすい事例として紹介されたり、昭和54年に建設省(現国土交通省)から地方公共団体や業界に対して通知がされたりしたことを受けて、判決が出そろう前から販売現場では徐々に使われなくなっていった。
 平成9年の標準管理規約の改正内容は、現行の管理規約でも維持されている。平成16年の標準管理規約の一部改正を受けた解説書※では、「自家用車の一般的普及・定着に伴い、駐車場の利用者が極めて多い中で、駐車場の使用をめぐって、トラブルが多いため、駐車場の使用をバルコニーや専用庭のように、特定の専有部分ないし区分所有権に付従する権利(いわば属物的権利)とするのは妥当でなく、専有部分を譲渡又は貸与すれば原則として消滅する利用上の権利(いわば属人的権利)とすることが公平性の観点から望ましい」とされている。また、分譲会社が「専用使用権を設定してその使用料を得る等の取引行為は好ましくない」とされている。 
※マンション標準管理規約の解説 編著/民間住宅行政研究会 監修/国土交通省住宅局総合整備課マンション管理対策室 大成出版(2005年)P88、P91

専用使用権設定の終焉を決定づけた「ヒューザー事件」

 姉歯一級建築士の構造計算書偽造事件に端を発して、その事件に絡み世の中を騒がせたヒューザー社(2006年破産手続き開始決定、2011年破産手続き終結)は、この当時、すでにほとんどの分譲会社が使わなくなった前述の「駐車場の専用使用権を分譲会社に設定する方法」での販売を行っていた。ヒューザーの分譲するマンションは当時、確かに、販売価格が他の分譲会社よりも安価であったと記憶している。その理由のひとつとして同社が述べていたのが、この専用使用権を分譲会社に設定した方法である。つまり、分譲会社がマンションを販売したあとも収益が得られるのであるから、その分、販売価格が安いのだという説明がされていた。
 確かに、分譲後も分譲会社に収益が入るしくみがあれば、その分は販売価格に反映できるかもしれない。
 しかし、同社は構造計算書偽造という罪を犯したことから「専用使用権を分譲会社に設定することはヒューザー社の採用していた販売方法、ゆえに好ましくない」という評価が定着した感がある。今ではすっかりこの販売方法を見かけることはない。

【参考】ヒューザー社と区分所有者の駐車場賃貸借契約書

 ヒューザー社が専用使用権を持つ駐車場について区分所有者と締結した駐車場賃貸借契約書の事例を示す。管理組合が区分所有者に賃貸する場合は、駐車場使用料の改定は総会決議によるが、この場合はヒューザー社と区分所有者の間で決定される。また、空き駐車場を管理組合が来客用駐車場として利用したい場合は、管理組合がヒューザー社から借りる必要がある。

image

管理組合はどのような方法で駐車場抽選を行ってきたのか

 管理組合による駐車場抽選はどのように行われてきたのだろうか。

①駐車場利用者の決定方法

 駐車場の利用者の決定方法にはおおむね3種類がある。

ア、一斉入れ替え抽選会
 一定期間ごとに、全区画に対して抽選会を行う方法。例えば、1年毎に抽選会を開催する場合、敷地内駐車場を利用していた区分所有者は翌年、同じ駐車場を利用できるとは限らない。
イ、1台限り公開抽選会
 区分所有者の変更などにより、解約となった区画が出た場合に当該区画のみ使用希望者にて抽選会を行う。
ウ、空き待ち
 駐車場希望者のウェイティングリストを作成し、区分所有者の変更などにより、解約となった区画が出た場合にリストの最上位者が使用者となる。

 それぞれのメリット、デメリットは次のとおりである。

ア、一斉入れ替え抽選会
 一定期間ごとに駐車場の全区画の抽選会を実施する。いわゆる「ガラガラポン」方式である。
すべての区分所有者に対し、敷地内の駐車場を利用できる機会を公平に与えることができる。しかし、敷地内駐車場が不足していた時代は、マンションの敷地外の月極駐車場なども同様に不足していた。
 マンションの敷地内駐車場を利用していた人が、抽選に外れたからと言ってすぐに外部の駐車場を契約できるとは限らない。いままで外部の駐車場を使用していた人の区画を引き継げばいいのではないかという説もあるだろうが、外部駐車場もまた順番待ちであった。駐車場当選者と落選者のパズルが上手に埋まることはなかったのである。
 また、入れ替えにおいてもトラブルが生じた。車両の入庫と出庫は同時もしくは、出庫を先に行う必要がある。しかし、生活スタイルが異なる区分所有者同士の場合、当選者が入庫したい日時と、落選者が出庫できる日時が異なる。お互いに日程調整ができずにトラブルになるケースもあった。
 その結果として、行き場のない落選者の車両がマンションの周辺道路に路上駐車の車両となって溢れるなどの問題も生じていた。

イ、1台限り公開抽選会
 区分所有者の変更などにより、解約となった区画が出た場合に当該区画のみ抽選会を行う方法であるため、一度当選してしまえば、マンションを売却するなど管理規約に定める解約事由に該当しない限り、利用できる。そのため、抽選会に落選した区分所有者には不公平であるとの不満が残る。

ウ、空き待ち
 駐車場当選者が、売却などの管理規約に定める解約事由に該当するまでは利用できる、という点ではイ、と同一である。一度契約できてしまえば、半永久的に利用できるという不公平感も同じだが、あとから入居した人が、抽選会で当選してしまい、先に空きを待っていた区分所有者が使用できない、という不公平感はない。ただし、管理組合におけるウェイティングリストの管理が長期にわたって必要となる。

 いずれの方式も一長一短があり、管理組合としては不平不満が出ないように悩むことになる。区分所有者からは、「ア、一斉入れ替え抽選会」が理想的だという意見が出ることもあるが、前述の通り、入れ替えなどは容易ではない。そのため「イ、1台限り公開抽選会」や「ウ、空き待ち」を取るマンションが当時も多かったように記憶している。なお、不公平感を減らすために、駐車場料金を近隣の相場よりも高く設定し、駐車場を解約する区分所有者を募る方法も検討されていた。

②管理組合の現状

 駐車場抽選をどの方法で実施するのかについてはもちろん、管理組合内で問題になる。では、実際に駐車場が空いた場合の抽選はどのような方法をとっているのだろうか。当社受託管理マンションのうち、駐車場の抽選について当社が補助業務を実施している3,968件について抽選方法を分類した(図1参照)。
 イ、1台限り公開抽選会が73.84%と最も多く、ウ、空き待ちが18.62%であった。ア、一斉入れ替え抽選会は数件であり、その他に分類している。多くの管理組合がイ、を選択している。
 ア、一斉入れ替え抽選会は、前述の通り問題が多いことからあまり選択されず、残った選択肢でより当選チャンスの多い イ、1台限り公開抽選会が選択されていると考えられる。

image

ゼロ円駐車場の登場

 2010年前後の数年間、駐車場使用料をゼロ円とする販売広告が目立つようになった。
 すべてがゼロ円ではなく、抽選会で当選すれば駐車場全区画のうち数台分のみはゼロ円で利用できるというものである。販売広告上の目玉として大々的に広告する会社も多かった。
 当選した購入者のメリットが大きい一方で、管理組合という単位で考えると、特定の区分所有者からのみ、使用料が入らないことになる。他の区分所有者との公平性の問題もある。何年かあとに、駐車場使用料をゼロ円から周辺相場並みに値上げしようとした管理組合と、ゼロ円の既得権を主張する駐車場利用者との間でトラブルが発生した。この際、もともとの販売方法に問題があるのではないか等の指摘があり、分譲会社も巻き込まれるなどした。こうした経験を経て、ゼロ円駐車場は下火になっていった。
 当社の受託管理マンションでも、ゼロ円駐車場として販売された区画が今でもゼロ円のまま運用されている事例は、筆者らの把握している限り存在しない。
 「ゼロ円」まで極端ではないにしても、非常に安い金額で駐車場料金を設定しているマンションも20年ほど前までは数多く分譲された。やはり、駐車場を使う人にとっては喜ばしいことであるが、駐車場からの収入が少ないことが管理組合運営に与える影響は大きい。その分、規模の割に管理費が高めに設定されたり、機械式駐車場が導入されていれば、その修繕費用が足りなくなるなどの問題も生じる。そして、駐車場の空きが多くなるにつれ、こうしたマンションも減ってきたように思う。

駐車場外部貸しは収益事業。課税問題がようやく決着

 2010年以降、車両の保有者の減少とともに、主に都市部では駐車場に空きが生じるマンションが増加し始める。管理組合が徴収できる駐車場使用料の減少に伴い、空き駐車場をどのように活用しようかという議論がはじまった。大抵の場合、マンション内に利用者がいないなら、マンション外部の方に借りてもらおうという話になる。
 こうしたことから、駐車場を外部に貸す管理組合が増加していく。ただし、駐車場を外部に貸す場合、管理組合が収益事業を行っていることになり、法人税が課税される。
 国土交通省が国税庁に照会し、国税庁が回答する形式をとって公開された下記の見解は、当時大きな反響を呼んだ。

2014年2月3日 国住マ第43号
マンション管理組合が区分所有者以外の者へのマンション駐車場の使用を認めた場合の収益事業の判定について


 この見解が発出される前までは、駐車場を区分所有者以外の者に貸した場合(以下「外部貸し」という)、法人税が課税されるのか、されないのか、課税される場合の範囲はどこまでかについては、それぞれのマンションの所在を管轄する税務署により見解が異なっていた。
 税務所見解は概ね、下記のような2つに分かれていた。
 ①駐車場1台でも外部貸しをした場合、駐車場の全台数分の使用料収入について課税
 ②外部貸しをした駐車場区画分の使用料収入について課税
 この見解の発出と同時に②であることが確認され、この問題は解決したかに見えたが、同時に新たな問題が生じることとなった。
 これまで、「外部貸し」というのは、マンションの外部に居住している人を指すと考えられていた。マンション内に居住する人に貸す場合は、区分所有者であれ、占有者であれ、外部貸しには該当しないと考えている管理組合も多かった。しかし、この見解では、区分所有者以外の者、つまりマンション内に住んでいても賃借人に対して駐車場を賃貸すれば、それは課税対象になることが確定したのである。この税務当局の捉え方は実にシンプルで、所有者が自分が住んでる不動産を使うことは課税の対象にならないが、所有者以外なら課税の対象となる。
 そこで、駐車場をマンションに居住する賃借人に賃貸していた管理組合は、賃借人に賃貸している区画分の使用料について法人税を納税するか、管理規約を改正し「又貸し」に変更するか、いずれかの選択を迫られることになった。「又貸し」とは、管理組合からいったん区分所有者に賃貸し、区分所有者から賃借人に賃貸する方法である。この方法であれば法人税は課税されない。多くの管理組合が管理規約を改正し、「又貸し」を選択したことは言うまでもない。「又貸し」という言葉には何か悪いことのようなイメージがあるため、多くのフロント担当者は、管理組合への説明に際して苦慮したと記憶している。

死亡事故が発生、機械式駐車装置は危険か

①人身事故の増加

 2014年ごろから、機械式駐車場での人身事故の増加をうけて、消費者庁及び国土交通省が動き出した。当時、聞いた事故についていくつか思い出してみたい。通常のパレット式の機械式駐車場のボタンは、安全上の理由からボタンを押している間だけパレットが動くようにしている機種が多かった。しかしこうした機種においても、子供連れの利用者で、親がちょっと目を離した間に子供がパレットに挟まれる事故が発生したことがあった。また、タワー式の駐車場で入り口の扉があるタイプでは、入庫してボタンを押すと自動的に車が格納され、外からの非常停止がないことがあった。こうしたタイプでは、やはり、親が少し目を離した間に、子供がその扉の中に入ってしまって、外から親が見ている中で機械に挟まれてしまう痛ましい事故があったと記憶している。
 機械式駐車場は、車両という「モノ」を運ぶためのものであり、「ヒト」を運ぶものではない。エレベーターの場合、手を当てるとすぐに扉が開く。しかし、機械式駐車場は駐車装置に人が手を触れたところで機械は停止しない。あまり敏感にセンサーを設定してしまうと、機械式駐車場としての機能に問題も生じることも考えられる。そもそも設計の考え方が異なるのだが、日常的に使用しているエレベーターと同じように、触れば止まる安全装置がついているという誤解も多い。こうした事故を受けて、駐車場管理者を定めるなど事故防止に向けた取り組みが開始されることになった。

②冠水事故の増加

 同じく2000年ごろから、集中豪雨や台風の被害が深刻化し、都市型水害といったことも言われるようになった。マンション外からの浸水だけでなく、配管を通じて水が逆流するいわゆる内水氾濫も生じ、機械式駐車場が冠水するという事故が目立つようになった。機械式駐車場の排水ポンプが正常に作動していたとしても、公共下水道が水で一杯であれば、排水ポンプからの圧力では勝てずに、水が溢れて冠水してしまうこともあった。また、同じく排水ポンプは正常に作動していても、公共の道路から水が押し寄せて来ていれば、到底排水ポンプの能力は超えてしまう。なお、車両の損害は車両保険のうち、水災に伴うものを付保していなければ補償されない。こうした冠水事故により、車両に損害を受けた駐車場利用者が管理組合や管理会社に対して損害賠償責任を追及するという事案が増加するようになった。
 機械式駐車場の冠水事故に関しては、下記レポート参照。

平成28年度国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業」激甚災害に物理的・心理的に被害をうけた実例

機械式駐車場「埋め戻し」

 駐車所の空き問題で、駐車場の外部への貸し出しで解決できないものに関して、機械式駐車場では「埋め戻し」が始まるようになる。これは、近隣の駐車場にすでに空きがある、もしくはそれらの価格が下がっていることが原因となっていることもある。当然のことではあるが、駐車場の外部貸しは、周辺の月極駐車場との価格競争があり、賃料には限界がある。また、空いている駐車場を一括して企業に預け、企業が転貸をすることで管理組合の手間を省くことができるサブリース方式などが出て来た。しかし、サブリース方式には、収益性の立地、台数、賃料などの制約があり、すべての管理組合が選択できるとは限らない。
 こうなると、機械式駐車場の埋め戻しを行う選択をする管理組合が増加する。しかしながら埋め戻しについて も、コスト面だけではなく、付置義務などの制限もあり、検討に時間を要する。
 機械式駐車場埋め戻し事例に関するレポートは下記を参照。

消えゆく機械式駐車場

電気自動車用充電器の設置

 駐車場が姿を変えると同時に、車両もまた姿を変えている。電気自動車の普及には充電器の設置が欠かせない。電気自動車を購入する時には、近くに充電器があるかどうかは大きなポイントとなるだろう。マンションにおいても充電器の設置が望まれている。
 現在は、充電器の設置には補助金などの優遇措置があるため、先進的な管理組合ではその導入も検討されている。しかし、「それよりも先に検討するべき事項がある」「一部の居住者にしかその恩恵がない」などを理由に導入には至らないケースも多い。一時期、東京都では国や東京都の助成金で導入費用が「0円」となるケースも存在したが、それでも導入しない管理組合もあった。その理由を考えてみると、マンション居住者の多くは、電気自動車の充電器がもともと設置されていなかったことから電気自動車の購入を選択肢から外しており、従って、今さら充電器の設置を要望していない。管理組合から見れば、区分所有者からの要望はあったとしても、ひっ迫している状況ではないので、検討を先延ばしにしてしまう。
 一方で、電気自動車の普及は国策にあげられており、そう遠くない時期に化石燃料を用いる自動車は販売されなくなりそうだ。充電器の設置は「鶏が先か、卵が先か」に陥っているように見える。

これからのマンション駐車場

 マンションの駐車場は、立地や居住者の年齢構成などさまざまな条件によりその役割が異なるため、一概にこれからどうなるのかを推し量ることはできない。それでも、時代ごとに移り変わるニーズや、過去に発生した事件・事故を教訓に、今の形を作ってきている。
 これからは、ガソリン車が消滅し電気自動車が主流となることで、充電器が全区画に設置される時代が来るかもしれない。そもそもそこは駐車場区画ではなく、ドローンの発着場になっているかもしれない。そうした未来の変化は必ず訪れる。だからこそ、時代の変化に対応できるような資金計画はもちろん、新しいルールが必要になった際には、管理組合でスムーズに合意形成ができるような状況にしておく必要がある。これは、何も駐車場に限った話ではなく、近い将来に訪れるであろうあらゆる社会の変化に対応するために必要なことではないだろうか。

「駐車場抽選に当選するならこのマンション買います!」から「機械式駐車場は埋めてしまえ!」まで ~駐車場からみたマンションの歴史~[0.3MB]

田中 昌樹
執筆者田中 昌樹

マンションみらい価値研究所研究員。一般社団法人マンション管理業協会出向中。現在は、マンションみらい価値研究所にて、防災・減災に関する統計データの活用や居住者の高齢化や災害の激甚化などの社会的な課題について、調査研究や解決策の検討を行っている。

久保 依子
執筆者久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

Contact us

マンションみらい価値研究所・
セミナー等についてのお問い合わせはこちら