マンション総会 完全オンライン開催の未来はどうなるか!?

組合運営のヒント理事会・総会
マンション総会 完全オンライン開催の未来はどうなるか!?

コロナ禍の総会模様

新型コロナウイルスが地球規模で猛威をふるいはじめてからおよそ3年が経過したといわれている。感染症対策の観点から人が集まることは避けるべきとされ、あらゆる集会やイベントなどの在り方が問われるようになったが、管理組合の総会も例外ではなかった。

管理組合の総会は、区分所有法に基づき年1回開催される。区分所有法上の定義では「集会」と呼ばれるが、その名のとおり人が集まることが前提とされていた。2020年12月に、一般社団法人マンション管理業協会より「マンション管理組合におけるITを活用した総会の実施ガイドライン」が公開された。その中では、リアルの総会会場がなくとも、インターネット等の手段を用いてオンライン総会を開催することは現行法上可能であり、管理規約の変更も必要ないとされている。法律は変えずに、その解釈がアップデートされたといえるだろう。

一方で、同じ総会といえども株主総会のほうはというと、2021年6月に関連法の一部が改正され、上場企業において、場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株式総会のこと。本コラムでは「完全オンライン株主総会」と呼ぶ。)の開催が可能になった。完全オンライン株主総会とは、リアル会場を設けず、株主はインターネット等の手段により出席をする開催方法を指す。勉強半分、興味半分で株主総会に参加することを趣味にする私は、とある企業の完全オンライン株主総会に出席してみることにした。

いざ、完全オンライン株主総会へ

総会当日、自宅で部屋着のままノートパソコンを開いた。会場へ足を運ばずとも、出席できる手軽さの恩恵をさっそく感じることができた。興味のある企業でも、会場が遠方だった時には行く気にはなれなかったが、この開催方法なら、会場までの時間的・金銭的負担を気にする必要はない。また、リアル会場に行ったとしても、企業規模が大きければ大きいほど、壇上の経営者たちとの距離は遠い。場合によっては、会場が複数に分かれており、別室で画面越しに登壇者を見ることもある。それを考えると、完全オンライン株主総会でも、登壇者との距離感に大差はないと感じた。

招集通知には、開催日時のほかに、配信サイトのURLとQRコードが載っており、開会の30分前よりログインができた。ログインに必要なIDは株主番号9ケタ、パスワードは株主の郵便番号7ケタだ。ウェブサイトにログインすると、無料で使用できる一般的なWEB会議システムとは異なり、株主総会専用に設計された画面が表示された。視聴者へのお知らせなどが載ったホーム画面、議決権を行使するための投票画面、質問をするための質疑画面と3つのタブに分かれていた。出席者にはまず初めに、「通信障害により議事に著しい支障が生じた場合に株主総会の延期または続行を議長が決定できる件」への投票を求められた。企業側も通信障害により株主総会が成立せず流会となることが最もリスクなのだろう。「なるほど、こういった投票によりヘッジするのか」と私は一人うなずきながら、マウスを動かして賛成に一票を投じた。

定刻になると、株主総会のライブ配信が始まった。司会者のアナウンスの後、議長を務める代表取締役社長が画面越しに登場した。背景は何の変哲もない白い壁の会議室だった。完全オンライン株主総会を開催する企業側のメリットには、会場費用の削減が挙げられる。一方で、オンライン配信専門会社への委託費用等がかかるだろう。費用感は私には想像がつかないのだが、経験値のないオンライン開催に対して二の足を踏む企業が多いことはわかる。東京証券取引所などを運営する日本取引所グループによる調査結果(2022年6月15日時点)によると、2022年3月期決算会社において完全オンラインの株主総会を開催する予定企業数は、わずか6社(0.3%)であり、リアル会場とオンラインを掛け合わせたハイブリッド出席型でさえ26社(1.2%)だった。

開会宣言の後、監査報告に始まり、事業報告、決議事項の説明が行われた。説明中は資料が投影されており、視聴には何の不都合もない。議長の滑らかな説明には、オンライン・オフラインに関わらず、入念な事前準備が垣間見える。ひととおりの説明が終わると、前日までに受付した株主からの質問とその回答が発表された。そして、当日の質問の入力時間をとるとのアナウンスがあった。約5分の休憩の後、当日質問への回答が始まったが、私はわずか数分の間に、どういった準備がなされたのか気になった。質問が寄せられた数の紹介はなかったものの、たっぷりと1時間以上、当日の出席者から送信された質問に対しての応答が行われたのだ。完全オンライン株主総会に対してささやかれる声の一つに、「企業側に都合の悪い質問は除かれて、株主からの声が経営に反映されないのではないか」という懸念がある。しかし、私が目撃したのは、オンライン出席の株主からの忌憚のない質問の数々と、それに対する企業側の真摯な説明姿勢であった。

管理組合でのオンライン総会開催事例も少数、それはなぜだろう?

ここで話を管理組合の総会へと戻す。前述のとおり、区分所有法の解釈においても、完全オンライン総会が可能となったが、実際に開催した事例は、当社調べでは1%とごく少数だ。株主総会と比較しながら、その理由を考えてみた。

①    完全オンラインでは、いわゆるIT弱者が出席できないから

管理組合の総会は、ファミリータイプのマンションであれば、年齢層は幅広く、インターネットに縁のない生活をしている区分所有者が一定数いる。そういったいわゆるIT弱者の総会への出席機会を奪う選択はしづらい。企業の株主総会でも同様のことが言えるが、積極的にオンライン総会を導入している企業は、業種が情報・通信系であったり、ベンチャー企業からの軌跡があったりする。最新鋭の取り組みが株主に評価されやすい傾向があると考えると、管理組合の総会と判断軸は少し異なるだろう。

 ②オンライン開催のオペレーションは複雑だから

管理組合の総会は、マンション内や近くの集会場で開催されることが主流で、リアル会場を用意しない方向に振り切ることは少ないだろう。そこで、オンラインとリアル会場の両方とも議決権行使が可能となるハイブリッド型という選択肢が浮かぶが、当社調べでは、その事例数すらも4%にとどまる。その理由として考えられるのは、オンライン開催に必要なオペレーションの複雑さだ。

令和3年6月22日に改正されたマンション標準管理規約には、「ITを活用した総会」等の会議を実施するために用いる「WEB会議システム等」の定義が定義規定に追加された。その定義は「電気通信回線を介して、即時性及び双方向性を備えた映像及び音声の通信を行うことができる会議システム等をいう。」だ。

ここでいうWEB会議システムといえば、コロナ禍により、ビジネスだけでなく多くの人の私生活にも定着してきた。しかし、その操作には参加者全員の慣れが必要だ。過去に私が参加した15名程度のオンライン勉強会において、「ログインができない、ミュートからマイクをオンにできない参加者がいる」「音声がハウリングする」という混乱が起き、円滑に会合が進まなかった経験がある。日ごろからインターネットを利用しており、パソコンやスマートフォンを所持している顔ぶれであっても生じた事例だ。株主総会のように専用のウェブサイトや会議システムを使用しない分、オペレーションは複雑になる。さらにハイブリッド型で実施しようとした場合、事前準備や当日の運営は、倍の労力が必要となることが想像できる。万が一、途中で通信障害が生じた場合は、総会がやり直しになることもある。

企業の株主総会では、配信運営を担う専門の部隊がおり、そして総会に適した専用のシステムが構築されて、さらには入念なリハーサルや準備が行われているに違いない。管理組合も、上場企業の株主総会の真似ができないことはないかもしれないが、準備費用やリハーサル時間の確保などを考えると、現実的ではないだろう。

③顔が見える距離感が好まれるから

全国的に多くの株主がいる上場企業とは異なり、管理組合の区分所有者は、投資型やリゾートマンションを除き、集まりやすい距離にいる。同じマンション内に住まう者同士、互いに面識があることが多い。そうであればリアル会場で顔をあわせて議事進行する方が馴染みやすいのだろう。また、管理組合運営に興味関心がありながらも、会場に行くことができない区分所有者の参加機会を設けるという観点から、オンラインの場合は当日の議決権行使や質疑応答を行わない傍聴のみの形式もある。これであれば、通信障害による流会を心配しすぎることはなく、完全オンライン化に向けた最初の一歩としては良いかもしれない。

完全オンライン総会の未来は!?

完全オンライン株主総会を開催できるよう定款変更等を整えた企業の中には、感染症の問題が収束するかどうかに関わらず、日本における地震・水害などの災害リスクを鑑みて、今後起こりうる大規模な災害下にあっても、事業継続をしていく必要性から企業としてのリスクマネジメントを強調している見解もあった。この点では、管理組合も同じだと感じる。企業にとっても管理組合にとっても、総会は意思決定の場であるからだ。
管理組合の総会に関しては、事前準備や当日のオペレーションが複雑なことを考えると、今のうちから環境を整えて、まずは傍聴型のハイブリッド開催からスタートするなど、経験を積んでおくという考え方もあるかもしれない。
総会の在り方も、時代とともに、時間をかけて変化していくのではないかと思う。

大野 稚佳子
執筆者大野 稚佳子

マンションみらい価値研究所研究員。管理現場にて管理組合を担当する業務を経験後、マンション管理の遵法対応を統括する部門に異動。現在は、マンションみらい価値研究所にて、これまで管理現場にて肌で感じた課題の解決へつながる研究に勤しむ。

Contact us

マンションみらい価値研究所・
セミナー等についてのお問い合わせはこちら