行政がいよいよ本腰を入れた「管理計画認定制度」
マンション管理適正化法の改正(2020年)の目玉は、管理組合の立場からいえば、なんといっても管理計画認定制度の創設だろう。
しかし立場変って行政の言い分からすれば、行政がよりアクティブに管理組合に関わっていくことを宣言した改定ともいえるだろう。
──じゃあ、どう関わっていくのか。
まずは「マンション管理適正化推進計画」を定め、行政主体で管理計画認定制度をスタートさせることになる。合わせて無事に認定されるよう、またその後も適正な管理が行われるよう、管理組合に対し指導・助言を行っていくという。行政としても、これが形骸化しない在り方について真剣に検討しているようだ。
ちなみに管理組合目線での管理計画認定制度については、過去のコラムで何度か紹介しているので、よろしければそちらも合わせてお読みいただけると理解が深まるかも知れない。
よって今回は、行政の目線から見た管理計画認定制度がどんな指導や助言を行っていこうとしているのか、またその真剣度合いについても考えていこうと思う。
豊島区の事例から考える
東京都豊島区では、マンション管理推進条例(以下、「推進条例」という)を10年前の2013年、全国に先駆けて施行した。この内容に関しては、『マンション管理センター通信』(2023年4月号)の特集で豊島区都市整備部住宅課マンショングループ係長 髙木隆之氏が、「豊島区のマンション管理適正化への取組」と題して寄稿されているので原文を読んでみるのも良い。
ここでは寄稿内容を織り込みながらまとめてみよう。
豊島区は推進条例を施行する2年前に、マンション管理の状態や管理組合員の意識などの把握のために実態調査を行っている。その結果、以下のような課題が浮き彫りになったという。
① 管理組合役員の成り手不足
② マンション管理に関する情報の不足
③ マンション管理への関心の低さ
④ 大規模修繕工事を行うための資金の不足
⑤ 防災に対する取り組み意識の低さ
⑥ 進まない耐震化・建て替えの検討
⑦ マンション居住者間および地域とのつながりの希薄さ
⑧ 管理組合の連絡先がないなど接点が一切つかめないマンションの存在
成り手不足・情報や知識の不足・関心の低さ、また資金の枯渇など、当サイトのコラムでもいくつも取り上げている定番の課題だ。
推進条例では、管理者や区分所有者・管理会社等の管理に関わる責務を定めた上で、管理上の義務項目や努力義務項目を定めている。区が管理組合に指導・要請・勧告し、勧告に従わない場合の罰則として、マンション名の公表を定めた点が大きな特徴だ。
さらには、義務項目などをチェックするための「管理状況届出書」の提出が条例に盛り込まれているのも興味深い。しかし結果として、届け出書の提出率は53%程度に留まったというのはどう判断すべきか。
私が感心したのはここからだ。
制度を作っただけでは不十分、支援する策と合わせて対応しなくてはいけないと、「マンション管理支援チーム派遣事業」を開始したこと。区の職員がマンション管理士などと一緒にマンションを訪問し、管理組合役員と面談し管理状態の把握や課題などを拾い上げる事業だ。、訪問対象は、管理状況届出書が未提出、または提出済みでも管理不全の予兆があるマンション。延べ900件をひたすら訪問し続けた。情熱がなければ決してできないはず。その結果、提出率を80%近くまで引き上げることができたというのだから、本当に頭が下がる思いだ。
これからの行政の指導・助言のカタチ
10年もの間、ひたむきな活動を続けていくなかで、マンション管理適正化法が改正された。豊島区では、改正を受けて2023年3月にマンション管理適正化推進計画を制定。管理計画認定制度もこの4月からスタートした。この管理計画認定は管理の質を底上げしていくための素晴らしい制度でもある。
しかし、管理者や役員がいない、また管理規約がない、そんなマンションも世の中には存在している。管理不全に陥った状態では、新しい制度の情報も入らず、メリットも分からない。管理計画認定制度を作っただけでは変わりようのないマンションもたくさんあるのだ。
最終的に行政がターゲットとしなくてはならないのは、実はこんな状態のマンションということなのだと思う。豊島区では今後さらに押しかけ型の支援体制の強化に努め、さらに第三者管理者方式の理解を深め普及させるための課題を整理する研究にも着手しているという。
まさにこれから、行政による指導・助言のカタチが具体化してくるのだろう。
全体利益につながる行政の姿勢とは
たとえば、
●情報を提供することで、良い管理に向けて動き出せるマンション
●管理計画認定制度のもたらすメリット(中古市場での評価・住宅支援機構の借入の有利な金利・限定的ではあるが固定資産税の減額など)を理解でき、合理的に動き出せるマンション
これらは、さらに良い管理状態を目指し自ら歩み始めることができるだろう。
しかし、すでに管理不全に陥ってしまっているマンションには、押しかけ型で行政がどんどんコミットしていく。
また管理を自力で行うことができないなら、第三者管理者方式を提示する。強いては、罰則も含めて明確にし、適正化を目指す必要さえもあるようにも思える。なぜなら、高齢化が進む日本のマンションには、もうあまり時間がないからだ。
豊島区ではマンション管理推進条例を制定した10年前に「管理状況届け出書」の提出を義務化し、また罰則(是正勧告をしても、なお従わない場合のマンション名の公表)を設けた。
当時、まったく豊島区とは関係ない講演や個別相談の場面で、「豊島区では罰則のある推進条例を作ったと聞いたが、私的財産権に対し行政が義務化などを設けるとはいかがなものか。罰則でマンション名が公表されればマンションの価値が落ちてしまうのではないか」など、半分憤り交じりの質問を何人かからもらったことがある。
もちろん、私は行政に代わって回答をする立場ではないのだが、「日本ではマンション管理など、私的所有権に関わる義務や罰則などは、確かになじみはない。しかし、マンションは重要な社会インフラ。決して間違った指導内容ではなく、公共の利益とのバランスも考え、また管理不全や高齢化問題が浮上している現代においては、全体利益につながる勇気ある行政の姿勢だと思う」と、答えた覚えがある。
都市のためのマンションという考え方
フランスでは、行政がマンションの管理状態を6段階で分類し、荒廃の正常化や処分に対して公権力が介入する。管理者を行政が指定したり、居住改善のためのプログラムが課されたりする。
アメリカでは外部専門家が理事会をサポートするオンサイトマネージャー方式がほとんどの州で義務化されている。
都市のインフラの一つとしてマンションをとらえ、公共の利益を優先させた施策なのだろう。その点、日本では規制が緩すぎるというか、区分所有者まかせという感は、まだまだ強い。
マンション管理適正化法の改正の最も大切な部分は、行政がより積極的にコミットしていくことをさらに強く明示したことなのではないかと思っている。
これからも、豊島区のような意欲的な行政が増えていくことを願いたい。