マンションで火災が発生!“管理組合として”万が一にそなえていますか

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マンションで火災が発生!“管理組合として”万が一にそなえていますか

マンションの火災にはさまざまな原因があり、消防庁防災情報室発行の「令和3年(1~12月)における火災の状況(確定値)について」によると、建物火災における出火原因について、多いものから「こんろ」(13.4%)、「たばこ」(8.8%)「電気機器」(7.2%)「配線器具」(6.1%)と続きます。これら上位に挙がってくる項目については、出火の原因となりそうなものとして想像がつきます。

しかし、上記以外の原因も確認されています。例えば、近年はDIYの流行により、ある個人がリフォームのために用意した塗料をマンションの住戸内に放置していたところ、不在の間に自然発火してしまったという事例もあります。火災の出火原因も時代に応じて変化しますので、くれぐれも注意が必要です。

今回は実際にマンションで火事が発生してしまった場合、管理組合として想定しておくべき内容を事例を交えて紹介します。

マンションで火災が発生!こんなときどうしますか?

あなたはマンション管理組合の防火担当理事のAさんです。マンションの防火管理者として消防署に届出を行っています。

──そんなある時、あなたの部屋の隣の住戸から火災が発生!

突如として火災警報器が鳴り響きました。さあ、あなたならどうしますか?

火災発生時にAさんが行った対応

状況を確認するため共用廊下に出たところ、火災発生住戸の居住者が部屋から避難してきたところでした。隣室から火災が発生していることを察知したあなたは共用廊下に設置されている消火器で初期消火を試みます。消火器の場所は最近実施したマンションの消防訓練で確認済みです。

また、火災警報器の音を聞いて周囲の住戸の方も「まさか火事なのか」と玄関扉から顔を覗かせており、そのうち本物の火災と気付いた方が躊躇いなく119番通報しているのが確認できました。

消火器を手に取ったあなたでしたが、既に火の手は隣室の天井に昇っており、自力での消火は不可能だと悟ります。

あなたはすぐに「火事です! 避難してください!」と周囲に呼びかけました。訓練をしていた通り、階段を使ってエントランスに向かい、周囲の方を誘導しながらなんとかマンション外へ避難しました。マンションの設備として火災警報器が作動していたため、自動火災報知設備から警備会社に連絡が行われました。さらに、連絡していた消防隊が駆け付け、火災は1時間程度で鎮火されました。

初期消火は完了、無事にことなきを得たが……

火災の被害であなたの隣室は全焼、火災元の部屋前の共用廊下にも一部被害が発生しました。また、駆け付けた消防隊が大量の水を使用して消火したため、火元住戸の下階に水漏れ被害が発生しました。

この事例から発生した問題について順番に説明します。

【マンション居住者の安否確認は誰が行う?】
駆け付けた消防隊や警備会社の職員は個人情報となるマンションの居住状況を知りません。マンション居住者同士の安否確認のために居住者情報を確認、開示するのは誰なのでしょうか。

もちろん管理会社が緊急の場合に開示できる情報を備えている場合もありますが、マンションの居住者が自分たちで安否状況を確認できるように、予め居住情報の保管場所を確認し、緊急時には誰が情報の確認・開示を行うのかを決めておくことが必要です。

例えば、入居者名簿は管理事務室の施錠された書庫に保管しておき、緊急時には防火管理者や理事長が解錠できるよう鍵を保管しておくのも一つの手です。

【隣室や下階、共用廊下の被害は誰の責任?】
失火責任法があり、火災の発生に重大な過失がない限り、火災被害の責任は火元の住戸所有者に問うことができません。そのため、火災やその消火活動において、火元の住戸以外に実質的な被害が発生した場合は、被害者が自らが加入する保険を使い復旧していくことが一般的です。

保険を使用する場合、復旧する箇所の管理区分によってどの保険を使用するかが分かれます。共用部分であるバルコニーや廊下、階段などに生じた被害は管理組合が加入する火災保険によって対応することになりますが、隣室や下階の住戸など専有部分に生じた被害は所有者が個人で加入している保険を使用する必要があります。
火災事故はいつ発生するか分からないため、個人や管理組合で加入している保険の満期を確認しておく必要があります。特に個人で加入している保険はローンの完済をもって満期となってしまうこともあるので注意が必要です。

【消防隊は後片付けをしない】
人命第一で救助活動を行う消防隊は、消火・救助を行うとその役割は終了します。

火災や消火のための水濡れによって発生したマンションの不具合や汚れには当然ながら対応しません。火災前の状態に戻すために、管理組合が各設備や被害状況について確認、記録しておく必要があります。

火災が発生した場合のマンション共用部分に予想される被害として以下の内容が挙げられます。

・    バルコニー(床面や天井、腰壁)、玄関扉、窓枠、窓ガラス、専用庭やルーフバルコニー
これらは標準管理規約にて専用使用権のある共用部分として規定されており、火災の失火責任を本人に問えない場合、管理組合として修繕が必要となります。また、バルコニーに物干し竿など金物がある場合は共用部分と判断される可能性があり、同じく管理組合として補修が必要となる可能性もあります。

・    部屋内のインターホン・感知器設備
インターホンや感知器設備など、消防設備一式が共用部分として規定されている場合もあります。特に火災を感知して警報発報した感知器がその後正常状態に復旧せず、継続して誤発報を起こすときは、新品に交換しなければならない場合もあります。

・    躯体コンクリート部分、共用廊下、階段、腰壁、外壁
被害が火災元の住戸に留まらず、共用部分に波及した場合、管理組合として補修が必要となります。コンクリートは耐火性に優れていますが、被害状況によっては打診調査によって強度診断を行い、補修が必要になる場合もあります。
また、火災によって焦げ付いた部分はススの汚れが目立ったり、強烈な臭気を発したりする場合もあります。そうなると、補修とは別に高圧洗浄による清掃やオゾン脱臭などの対応が必要です。

・    各階の電気設備、エレベーター
火災発生現場の近くに、電気設備としてテレビ視聴設備の分配器やインターネットの中継器があった場合、周囲の住戸に障害を及ぼす可能性があります。マンションの設備のうち、配電盤やアンテナなどは外部から1箇所で受電、受信した電気や電波を各階や区画ごとに振り分けているので、中継部分に障害があると振り分け先にも影響があります。
また、消火活動によって漏水被害があった場合、エレベーターの地下ピットが浸水してしまう場合があります。火災の被害はなくとも電子部品が水濡れ被害を受けていると、エレベーターが停止してしまうかもしれません。

このように、火事が鎮火したあともマンションの設備には被害を受けている箇所が多く存在することが考えられるため、鎮火後も普段通り設備が使用できるかを確認することが必要です。

【管理組合からの情報発信について】
マンション内で火災があったとなると、同じマンションに住んでいる人は当然不安に思ったり、再発を心配したりするでしょう。「どこの部屋で何が原因で火事が起こったのか」「火事の被害はどれほどだったのか」「再発する可能性はあるか」などの多くの質問が寄せられるかもしれません。そういった場合には、管理組合として個人情報やプライバシーに配慮しつつも早急に情報をまとめて発信するなど、ハード面の被害復旧だけでなく、ソフト面での処置も必要です。

管理組合として何ができるか

いかがでしたか。

このようにマンションで火災が発生してしまった場合の対応は鎮火で終わりではなく、むしろ鎮火後の復旧が肝心と言えるかもしれません。

かといって防火管理者が復旧後の対応を全て遂行するのは困難です。また、消防法における防火管理者の立場は、建物の管理者(分譲マンションの多くの場合は理事長)から防火管理に関する業務の委託を受けた立場であり、責任の多くは管理者にあります。

こうした場合に備えて管理組合としては、管理者や防火管理者だけに責任を背負わせるのではなく、火災の防止策から火災発生時の対処とその後の復旧までを見据えた体制を、日頃から整えておくことが重要です。具体的には消防訓練の定期開催や、マンション内で防火管理者を定期的に交代させ消防意識を向上させること、入居者名簿の整理を行うことなどが考えられます。

管理組合として取り組めるところから対応を進め、より安心・安全なマンション生活の実現を目指したいものです。

花山 大征
執筆者花山 大征

大和ライフネクスト株式会社に新卒入社。マンション管理事業部の社員としてフロント業務に勤しむ。好きなマンション外壁タイルの色はベージュ。

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