「不動産ID」は、マンション管理の“みらい”を変えられるか?

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「不動産ID」は、マンション管理の“みらい”を変えられるか?

マンションのブランド名、命名の謎を解説

本題に入る前に、こんな説明から。「マンションの名称」、これってどんなネーミング構成をしているかご存知だろうか?

友人のマンションの名称でもいいし、目印になっているマンションでもいいのだが、「◯◯シティレジデンス」だったり、「似たようなものが多いなあ」と感じることだろう。このネーミングは一体どのような構成でできているのかを、当社受託マンションの名称から調査してみた。

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マンション名称の構成 N=3937

【凡例】
ブランド名・・・分譲会社が自社のマンションに統一的につけている名称
地名・・・・・・・・マンションが建築されている市区以下の名称、最寄り駅の名称
サブタイトル・・上記以外に、付された名称

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ここからわかるのは、同じ市区に建築されているマンションは、ブランド名違いのマンションがたくさんあるということになる。また、同じブランド名で同じ市区に建築されているマンションは、サブタイトルが違うマンションがあるということだ。

とても紛らわしい。

みなさんの住んでいるマンションも近所に似たような名称のマンションが建っているのではないだろうか。この似通った名称が、郵便局や宅配会社で誤配送の原因にもなっていると聞く。これは非常にまずい。

マンション管理会社では、業務中に取り違えが生じないように、各マンションに独自の管理番号をふって厳重に仕分けている。しかし、この番号は社内でしか通用しないもの。管理会社は管理組合の方や協力会社からのお問い合わせを受けるときは、マンションの名称だけで受け付けるのは間違いのもとであるため、住所や総戸数などの他の特徴も必要となる。病院で、名前だけではなく、生年月日も合わせて確認するのと同じ考え方だ。

不動産IDはマイナンバーカードのようなもの

次に、「住所」について考えてみよう。住所には地番と住居表示の2種類が存在している。郵便物は住居表示で届くが、不動産取引は地番だ。また、「丁目」を「ハイフン」や「の」で表記したりする。こうした不統一があると、マンション名と同様に、会社間で情報のやり取りには使いにくい。

こうした不具合を解消し、日本社会のDXを推進しようという取り組みが「不動産IDの活用」である。不動産IDは、マイナンバーの不動産版と考えていただくとわかりやすいだろう。

実は、この不動産IDの「番号」はすでにふられている。新しく番号をふったというよりは、登記簿にある番号を不動産IDとして活用しようという取り組みだ。そのため、不動産IDは、登記簿を見ればわかる。マンションを所有する人にとって何か新たな手続きが必要になるといったことは一切ない。自分が所有しているマンションの不動産IDを知るには、登記簿を閲覧するだけでよい。

どんなことができる? 不動産IDへの期待

①   お客様番号などの統一
マンションにサービスを提供している会社──例えば、不動産業、管理業、宅配業、電気・ガス事業者などは、情報を部屋に紐づけている。例えば管理会社は、管理費や積立金の収納を部屋ごとに管理している。そこで、関係各社のお客様番号を不動産IDに統一すれば、情報のやり取りがスムーズに。

例えば、現在、管理会社は不動産仲介会社から重要事項調査依頼書の発行を受け付けており、そのやり取りの際にはマンション名や住所の間違いがないかを何度も確認している。しかしこれからは、不動産IDを連絡してもらうことで確認が容易になる。

②   住所はいらなくなる?
国土交通省が例として挙げている活用方法は不動産分野ばかりではない。運輸の分野では、宅配便の配達にドローンを活用し、ドローンの飛行に不動産IDを使用しようとするものがある。

ドローンなどの機械製品に漢字表記の住所で理解させるのは厳しいだろう。しかし、不動産IDと緯度・経度を紐づければ、機械製品が理解するのに得意な数字記号となる。
そうすると、ドローンを使って宅配便を発送するときに必要なのは住所ではなく不動産IDということになり、住所と氏名の記載欄は不動産IDに代えることができてしまう。郵便配達や電気、ガスの検針なども同様だ。いずれ住所という概念はなくなってしまうのかもしれない。

③ さらに進んだ仮想空間の構築
さらに、もっとさまざまな場面での活用も想定されている。
建物の設計時に使用するソフトの機能を使えば、平面上に描かれた図面を立体的に表現することができる。個人情報データから、年齢や性別にあわせた住民のアバターを描く。これを紐づければ、現実とそっくりな街の中に、実際に人々が生活している仮想空間をつくることができる。マイナンバーと不動産IDを組み合わせれば、現実空間と全く同じ3Dの世界すら構築できてしまうということだ。

この空間で、災害などの一定条件の変化を加え、街の中で危険な場所はどこなのか、人々がどう行動するのかをシミュレーションすることも可能になる。仮想空間と現実の区別がつかなくなりそうだ。

悪用されるのではないか、という心配も

こうした取り組みは生活をより便利にする反面、さまざまなリスクも潜んでいる。

マイナンバーと不動産IDが紐づけば、個人情報を地図上に展開することができる。さらに、電気や水道の使用料データを紐づければ、どんな生活をしているのかなのかなどの生活リズムまで可視化することができるかもしれない。

いま、マイナンバーが他人のデータと紐づいてしまうことが問題になっているが、このマイナンバーと、不動産IDを紐づけようという構想もあるようだ。不動産IDも他人の建物と紐づいたりすれば、見ず知らずの人が、自分の不動産IDに住んでいることになってしまいかねない。

不動産IDが不正に利用されたり、間違って利用されたりしてはならないのはもちろんだ。不正利用が起きないように、今の段階から、どのような活用が検討されているのか、消費者としてもその方向性をしっかり見ておくことも必要だ。

管理組合に与える影響

不動産IDは、主に行政と民間事業者で活用することが想定されている。管理組合が直接不動産IDを利用して組合活動に生かすことができるかというと、今はまだその段階にはない。

しかし、マンションを取り巻く行政や民間事業者で不動産IDを活用した新たな事業が構築されれば、必然的に管理組合にも影響が及ぶ。例えば、先の例にあげたように、不動産IDとマイナンバーが紐づけば、宅配便がドローンで配達されるようになる。管理組合は、駐車場や屋上の一部をドローンポートにすることを検討する必要が出てくるだろう。玄関や集合郵便受けには、部屋番号の表示ではなく、QRコードを貼り付けておく必要が生じるかもしれない。

こういった時代の変化に対応するためには、常に柔軟に制度を変え、意思決定ができる管理組合であることが大切だ。

国が描く“みらい”に乗り遅れないためには、やはり日常の組合活動が大切になるのだ。

【参考】
国土交通省 不動産IDルール検討会

久保 依子
執筆者久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

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