「結(ゆい)」でつながる白川郷を手本に考えるマンション管理:持続可能な住まいづくりのために

組合運営のヒントコミュニティサステナビリティ
「結(ゆい)」でつながる白川郷を手本に考えるマンション管理:持続可能な住まいづくりのために

日本の世界遺産を旅して、マンション管理を考える

以前、岐阜県大野郡白川村荻町に観光で訪れた。そこは山々に囲まれ、田畑があり、川のせせらぎや鳥の囀りが聞こえ、空は遠くまで続く。まさに日本の原風景のような景色が広がっていた。
そこは、世界遺産としても有名な合掌造り集落であるため、もちろん景色の中にマンションはひとつもない。しかし、この地域に根付く「結(ゆい)」と呼ばれる住民の相互扶助の制度は、マンション管理にも通じる部分や参考になる考え方があると感じた。具体的には、人々が力を合わせて自分達の住まいを持続可能にしていこうとする覚悟や、世代間で引き継がれる相互扶助の文化などだ。
私は、この「結」の精神こそが、分譲マンションにおける管理組合運営に欠かせないのではないかと考える。

合掌造り集落に根付く相互扶助の制度「結」

合掌造りの集落においては、村の人々が自然と共生する姿がある。「結」とは、厳しい自然環境下に置かれた人々が、屋根の葺き替えなど、一家庭だけでは行うことが難しい作業について互いを助け合う、相互扶助の仕組みである。
共同作業は、村人同士による労働の貸借(提供された労働に等量の労働をもって返すのが建て前)で、以前は田植え、稲刈り、養蚕、材木の伐採などの農作業にもこの制度が使われていたようだ。
「結」は先進国では珍しいらしく、荻町が世界遺産に推薦されたときに、現在も茅の屋根葺きが結で行われていることが評価のポイントの一つになったのだと聞いた。荻町では結が形を変えながら現在まで存続しているのに対して、合掌造りの別の集落では、屋根葺きは早くから森林組合の請負仕事に変わっており、住民が屋根葺きに直接かかわることはないのだという。一方で荻町の「結」は請負仕事ではなく、地域住民だけの完全な相互扶助によるものだった。
白川郷で、合掌造り集落や当時の暮らしの展示を見ながら想像するに、住民たちが思い合って相互扶助をしていたというよりも、生きるために助け合いが必要不可欠だったのではないだろうか。私の実家がある地域でも、つい十数年前までは、冠婚葬祭を行う近所同士の組織があった。幼い時の記憶では、近所の娘さんの結婚式というハレの日には、ご近所さんたちがその家の屋根からお菓子をまいて嫁入りを祝い、近所のお爺さんの通夜や葬式では、祭壇を組み立てたり参列者にお茶を出したりするために喪服を着たご近所さんたちが忙しく動き回っていた。時代とともに婚礼や葬儀がアウトソーシングされるようになると、こうしたご近所さん同士のつながりは希薄になっていき、冠婚葬祭がきっかけとなっていた相互扶助の習慣は次第になくなっていった。一つの世帯では成し得ない、多くの人の力を要する行事がなくなったことで、組織を結成するつながりは必然ではなくなったのだろう。

マンション管理における人のつながり──ガバナンスとは

一方で、マンション管理の世界では、管理組合という組織は消滅するどころか、今後ますますその自立した活動が重要になると考える。白川郷の「結」は近所の家同士のつながりであるが、マンションでの相互扶助においては「コミュニティ」というワードが浮かぶ。
マンション内で「コミュニティ」を形成する目的は何かと問われると、「災害時などもしものときの支えあい」と答える人や、「防犯として互いに顔の見える安心感」と答える人もいるだろう。これらはもちろん重要だが、管理組合は分譲マンションの所有者の集まりであることを考えると、「マンションという住まいの価値を高めるために協力し合うつながり」ともいえるのではないだろうか。そういった意味では「コミュニティ」よりも「ガバナンス」という言葉のほうがすわりが良いように感じる。共同住宅であるマンションのみらいのために力を合わせる、つながる。「結」が金銭勘定の絡まない社会的な付き合いであるなら、管理組合だって同じだと思うのだ。議論の末に合意形成ができる関係性を構築していくことが、マンションの持続可能性につながるものと考える。
 白川郷に根付く「結」の文化と、マンション管理組合におけるガバナンスを比べると、ずっとそこに住み続けるのかどうかという根本的な違いがあるという人もいるだろう。しかし、賃貸アパートから始まり、分譲マンションを通過点にして、一戸建てであがりといわれた住宅すごろくは、もう過去の話。
国土交通省のマンション総合調査では、分譲マンションへの永住志向がどんどん高まっているからだ。調査によると、平成30年度は62.8%の区分所有者が「永住するつもりである」と回答している。反対に「いずれは住み替えるつもりである」と回答した区分所有者は17.1%だった。今の分譲マンションは、末永く運命共同体となる所有者が集まる場所に変わってきているといっても過言ではない。

持続可能なみらいに向けて、形を変えながらも力を合わせる

結による村総出での屋根の茅葺き替えは、平成13年に30年ぶりに行われたという。日常から結が活躍する場面が多かったわけではなく、長い時間の流れのなかでも弛まない共同体としての強さを感じる。

また、平成13年の葺き替えでは、集落の人々だけでなく全国からボランティアが集まり、総勢500名が結集したという点も興味深い。決して自分達だけで成し遂げようとするのではなく、結を中心として他の力を借り、前に進んでいく。白川郷における人とのつながり方は、時代の変化とともに、形を変えていく好事例だ。

マンションの管理組合運営だって同じだろう。管理組合では、その構成員である区分所有者が主役であるものの、彼らのほかに行政や専門家、管理会社など多くのステークホルダーが力を結集するみらいを目指していきたいものだ。

大野 稚佳子
執筆者大野 稚佳子

マンションみらい価値研究所研究員。管理現場にて管理組合を担当する業務を経験後、マンション管理の遵法対応を統括する部門に異動。現在は、マンションみらい価値研究所にて、これまで管理現場にて肌で感じた課題の解決へつながる研究に勤しむ。

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