新型コロナウイルスの影響により、理事会や総会の開催が延期や中止となるケースが増加し、共用施設の利用率も低下していることが予想される。このレポートでは、新型コロナウイルスが管理組合に与えた影響を数値化し、今後のウィズコロナ時代をどのように迎えるのかを考察する。
1.理事会の開催数
2019年4月から9月と、2020年4月から9月までの当社受託管理組合で開催された理事会の開催数の推移を調査した。
新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言発令中の4月における理事会の開催は1,164件となり、対前年比で832件減、41.7%減となっている(図1参照)。その後、6月に昨年と同水準に持ち直し、8月には昨年の開催数を上回っている。例年、8月は夏休みや帰省により理事会の開催が見送られ、他の月より開催数が減少する傾向があるが、2020年は外出が控えられた影響もあり、理事会の開催数に減少はみられない。4月、5月に審議する予定であった議案事項を先送りした影響を受けていると考えられる。
2.総会・臨時総会の開催数
当社の場合、管理組合の総会は例年6月がピークとなる。これは、分譲当初、ディベロッパーの引き渡しが3月に集中していることに起因している。3月下旬から管理を開始し、3月から4月に決算月を迎え、6月に総会を開催して決算報告、予算承認という流れとなる。2020年4月、5月中は前年より通常総会開催数が減少しているが、6月から8月には増加に転じ、さらに、臨時総会の開催が7月から9月にかけて増加している。これは、4月、5月に開催予定であった総会が翌月または、翌々月に延期された影響を反映しているものである(図2、図3参照)。
3.総会会場における出席者割合の変化
延期をせずに開催された通常総会の出席率はどのくらいであったか。5月から6月に開催された管理組合のうち、125管理組合についてサンプル調査を行ったところ、委任状または議決権行使書による出席以外、つまりは総会会場にて出席した割合は、18.7%であった。同サンプルにおける前年の割合は27.2%であり、8.5ポイントマイナスの結果であった。
その内訳としては、1割以下の出席者減が47%を占め、ついで2割以下減が24%だった。中には1から2割程度、増えた事例もあった。なお、サンプルの対象は、北海道から沖縄県まで、エリアを特定せず、広い範囲での調査とした。
サンプルの管理組合の総会開催案内からは、コロナ禍における総会開催にあたっての管理組合の配慮や取り組みを知ることができた。記載が多かった順に記すと以下のとおりだ。
● 委任状または議決権行使書による出席の推奨
● 会場出席時のマスク着用の呼びかけ
● 当日は検温してから来場するよう呼びかけ、少しでも体調が優れない方の来場お断り
● 短時間での開催(議案説明の省略のため、事前に各自議案を読み込んでからの出席依頼、当日の質疑応答時間を減らすための事前の質問状の受付)
● 会場の席の間隔を充分にとる、例年よりも広めの会場を利用
● 会場の換気、密室にならないようエントランスホールでの開催
4.理事会・総会の延期に伴う管理組合からの要望
理事会や総会の開催が延期され、先の見通しが立たない中、多くの管理組合からお問い合わせのあった内容が、「Webを活用した理事会、総会の開催ができないか」というものであった。区分所有法やマンション標準管理規約では、Webを活用した開催を想定しておらず、暫定的な運用をご提案せざるを得ない状況であった。
また、当社では、新型コロナウイルスの感染拡大前から「Web理事会サービス」という商品を開発していたが、この商品に対する問い合わせは、4月から6月までに5倍近くに増加した。
>「Web理事会サービス」提供開始のお知らせ 大和ライフネクスト株式会社ニュースリリース 2017年12月19日(参照)
当社は、一般社団法人マンション管理業協会(以下「マンション管理業協会」という。)が推進するITを活用した総会の開催について実証実験に参加している。当社ばかりでなく、こうした関係機関、行政の取組みにより、近い将来、暫定的な運用に留まらず、恒常的にITを活用した理事会や総会が開催されるようになると考えている。
>マンション管理における IT 化推進に向けた取り組み 「IT 総会」実証実験をマンション管理業協会と共同実施 大和ライフネクスト株式会社ニュースリリース 2020年9月29日(参照)
5.管理委託契約への影響
多くの管理会社が管理組合の総会開催日に、管理委託契約に係る重要事項説明会の開催を行っている。総会の開催が延期されれば、管理会社の重要事項説明会の開催も管理組合から延期の要請をいただくことになる。また、管理者に対して重要事項説明を実施する場合でも、管理者から対面での説明を拒否されるケースもあった。
こうしたケースの場合、延期となった重要事項説明の前に、管理委託契約の契約期間が終了してしまう可能性もある。この対応については、マンション管理業協会から、一定の条件の下、①暫定契約の締結や②重要事項説明会の開催を延期する対応を取ることができることが示された。
当社の場合、暫定契約の締結や重要事項説明の延期を実施したのは4月から7月までに実施する必要のあった2,089件に対し124件、全体の5.9%にあたる(図5参照)。
マンションの管理の適正化の推進に関する法律(以下「適正化法」という。)が2020年6月に改正され、適正化法第72条に基づく管理会社の重要事項説明もITを活用した方法で実施できるようになった(関連する改正条文の施行は2021年3月を予定)。ウィズコロナ時代では、対面による重要事項説明ばかりでなく、ITを活用した重要事項説明も前述のWebを活用した理事会、総会の開催と合わせて増加していくと考えている。マンション管理業界の「働き方改革」にも影響を及ぼすものとなろう。
6.共用施設の利用率
一部のマンションには、集会室、キッズルーム、ゲストルーム、さらにカラオケルームや学習室、ジムなどが設置されている(以下「共用施設」と言う)。
共用施設の利用回数(利用率)を測るデータが存在しないため、共用施設の使用料金の推移を調査した。新型コロナウィルスの影響を受けて共用施設の利用も3月から6月にかけて減少していることが伺える(図6参照)。理事会や総会ばかりでなく、マンション内でのコミュニティ活動も停止状態であったと考えられるが7月にはほぼコロナ以前の水準まで回復している。
これは、当社の担当者や管理員へのヒアリング調査から次のような事象を反映したものではないかと考えている。
①小中学校が休校や、図書館などの公共施設の休館により、子どもたちが共用施設を利用したこと
②在宅勤務となった居住者が働く環境 を求めて共用施設を利用する機会が増加したこと
7.ウィズコロナ時代のマンション共用部分
共用施設ばかりでなく、マンションの共用部分全体に対して、Withコロナ時代への対応が求められ始めている。管理組合から当社に求められる「コロナ対策への提案」のうち、最近、多くの管理組合にて検討されているのが、次のような対策である。
①エレベーターかご内に抗菌保護マットの設置
エレベーター内の壁面マットを特殊なマットに変更することにより、定期的なアルコール消毒拭きが可能
②ゴミ置場の扉、通用口の扉などのレバーハンドルにアタッチメントを設置
マンション共用部の扉を手で触れることなく開閉することが可能
③ゴミ置き場照明スイッチ類のセンサーへの切り替え
ゴミ置き場などの照明スイッチを人感センサーでの点灯方法に変更することで、接触を減らすことが可能
④エントランス手動開閉扉のオートドアへの切り替え
マンション共用部の扉を触れることなく開閉することで、感染予防が可能
新型コロナウイルス対策のための工事は、長期修繕計画に見込まれた修繕工事とは異なり、管理組合にとっては突発的な出費となる。ただし、ひとたび入居者から感染者が出れば、構造上、必ず共用部分を利用する必要のあるマンションでは、その不安は計り知れないものであり、マンション内のコミュニティ形成にもマイナスの影響を与えかねない。こうした観点から共用部分の対策を進める管理組合が増加していると考えられる。
以上
関連情報 参考文献
>IT を活用した総会・理事会の開催に関する Q&A(改訂版) 公益財団法人マンション管理センター 2022年3月27日
>マンション管理業における新型コロナウイルス等対応ガイドライン 一般社団法人マンション管理業協会 2021年3月1日