ご近所力の事例で考える「マンションの震災」

コミュニティ防犯・防災管理委託
ご近所力の事例で考える「マンションの震災」

マンションでの要支援者への配慮とは!?

2013年に「災害対策基本法」が改正された。

高齢者や障害者、乳幼児などは、防災施策において特に配慮を要する「要配慮者」として、また、自分一人で避難することが難しく支援を必要とする人を「避難行動要支援者」として、名簿を作成することが各市町村の義務となった。これは主に、自治会や町内会と連携して進められている。

大規模なマンションなどは“マンション単位”で町内会があるが、そうでない場合は、町内会との関係が疎遠になってしまいがちだ。だからといって、災害が発生した際に、行政がマンションの管理組合を町内会と同じように扱ってくれるケースは、まずないだろう。とはいえ、管理組合の活動に加え町内会活動も、となると、住民の負担感も増える。また、戸建てとマンションでは避難行動が異なる点が多いのも事実だ。

このような状況において、少なくとも、マンション内の要支援者の特定と、いざという時にできる支援のイメージをしておく必要はあるのだろう。そのヒントとして、過去の災害でどんな助け合いがマンションでなされたのか、事例を通して考えてみよう。

事例1_帰宅困難者の両親を待つ子供たちと蒸しパン作り

PM2:46に発生した東日本大震災。

首都圏では、地震発生当日に自宅に帰れない帰宅困難者が515万人にも登った。

大きな揺れの後、隣から子供の泣き声が聞こえてくる。心配したAさんは急いで隣の家の様子を見に行くと、そこには留守番していた小学生の女の子が恐怖のあまり、泣いていた。

千葉県にある築6年目の小規模マンションで、夫婦共働きのご家庭が多く、勤め先はほとんどが都内。歩いて帰るには丸一日はかかってしまう距離だ。

保育園なら親が迎えにくるまで保育士が子供の面倒を見てくれるものだが、問題は学校から帰宅し、留守番をしている小学校低学年の子供たちだと考えた元保育士のAさんは、各住戸を回り7名の子供たちを確認した。

Aさんはその7名の子供たち全員を自宅に呼び、在宅していたマンション内のお母さんとも協力して、メールやSNSが分かる方には保護している旨を連絡した。

その後Aさんは、子供たちを笑顔にするためにはどうしたらよいかを考え、おやつ作りを思いつく。ポリ袋にホットケーキミックスの粉を入れ、オレンジジュースやカルピスを混ぜ子供たちにこねてもらう。カセットコンロでお湯を沸かし、ポリ袋ごと茹でて蒸しパンを作った。

おやつを作る楽しさとおいしさで、子供たちは笑顔を取り戻した。

震災は、いつ起こるかわからない。大人が在宅していない時は、コミュニティで子供たちを守り、特にストレスなど心のケアは大切にしたいものだ。

ポリ袋の蒸しパンは、代表的な防災レシピでもある。ネットで「防災レシピ」で検索すれば、他にも多くのレシピが紹介されているので日頃よりチェックしておきたいものだ。

事例2_善意のプラットホーム “お助けボード”

東日本大震災に見舞われた、仙台のマンションでのこと。

長引く被災生活では、各家庭で日用品が不足することがある。B子さんの家庭では、まだ生まれたばかりの子供の紙おむつと粉ミルクが底をつきはじめた。そこで隣近所に手あたり次第聞いてみるものの、なかなか持っている人を探せなかったという。

そんなB子さんの話を聞きつけた理事長が、「譲ってください」とエントランスに貼り紙をしたところ効果は抜群、さっそく譲ってくれる人が何人か出てきてくれた。

その発展形で、なんでも困ったことを掲示できる“お助けボード”の運用が始まった。これがマンションコミュニティ内の助け合いのプラットホームとなり、「こんなことならお手伝いできます」といった善意の輪もどんどん広がっていった。

助けてほしいことやそれに応える善意は、相手に伝わって初めて意味を持つ。善意を発信できるボードの存在は、それを十分に教えてくれた。

状況次第ではあるが、避難所に行くよりも自宅マンションで避難生活を送った方が、プライバシーが守られ、精神的にも安心できることが多い。問題は、配給などがないため、食料や物資を自分で確保しなくてはならないという点。備えはもちろん大切だが、避難生活が長期間に及ぶ場合、助け合いは欠かせない。しかし、意思表示ができなければ、助けを求めることも助けることもできない。“お助けボード”は、素晴らしいアイデアだといえる。

事例3_寝ずの番──自主警備に立ち上がった男たちのドラマ

地震により大きな被害が出た、神戸長田地区にあるマンションの話。

揺れの大きさによりほぼすべての住戸の玄関ドアがゆがんでしまった。バールでこじ開け、全員を部屋から救出することはできたが、こじ開けたドアには鍵はかけられない。それどころか、共用廊下側の壁から通り抜けができるほどの大きな貫通亀裂や、防犯用の面格子が落下している住戸がいくつもあるような状態だった。

地震に見舞われた翌日には、カメラを担いだ報道陣らしき人物が勝手にマンションを出入りし始めたが、実際はそれが報道陣を装った物取りだったようで、鍵がかかっていないのを良いことに、勝手に専有部分に入り込み物色しているのを目撃したとの報告があった。

少しでも安心して避難生活を送れるようにと、理事長のOさんが有志を募り、エントランス前にテントを張り、発電機と投光器を設置し24時間の警備をスタート。七輪で暖を取りながら警備だけでなく住民の相談窓口や復興に向けての打ち合わせの場となっていった。

災害時は、戸締まりが不完全な状態になりやすく、家から盗品を運び出しても家人が片づけをしていると思われやすいなど、空き巣がしやすい条件がそろっている。また、マンションの駐車場での車上狙いも発生しやすい。

ボランティアや行政・警察・消防などを装った悪質業者・詐欺。普段ではあり得ない暴力や性被害を受けるケースも多数報告されている。

災害時の被災生活期は、犯罪に巻き込まれるリスクも高まる。マンション内の協力で、地域防犯を行うことも必要だ。

事例4_中学生のぼくたちだから、できること

東日本大震災で、津波による被害が大きかった多賀城市にあるマンション。幸いにも津波はマンションのエントランス手前で、かろうじて止まってくれた。

とはいえ、電気・水道は一週間たっても復旧の目途は立たず。加えて、受水槽に大きな亀裂が入っており、仮に水道が復旧していたとしても交換が必要な状態。避難所に向かう人もいたがどこも満員で、諦めてマンションに戻ってくる高齢者もいたほどだ。

中学校で陸上部員のS君は、同じマンションに住むサッカー部員のF君に声をかけ、僕たちもなにかできないかと相談した。そこで思いついたのが、給水車から水をもらい、ペットボトルに入れてマンションの高齢世帯に届けるということだった。

毎日リュックに詰め込んで、10階建てのマンションを何度も昇り降りを繰り返す配達作業だったが、次第にメンバーも一人二人と増えていき、給水が復旧するまでの数ヶ月間、ボランティアをしつつ自主トレーニングにもなったと語った。

通勤通学に電車などを使っている場合、大きな災害で帰宅困難に陥るケースが多いことはご存じの通り。しかし、中学生は徒歩で学校に通う場合が多い。東日本大震災以降、判断力も体力も十分に期待できる中学生を防災ジュニアリーダーとして育成していこうとする動きが、行政や学校で進められている。

大型のマンションでは、マンションに住む中学生を対象に停電時の上下の連絡や防災備品の運搬などの訓練を行っているケースがあるほどだ。

事例5_災害ゴミとの格闘──お片付け隊の結成

阪神淡路大震災に見舞われた、神戸・ポートアイランドにある1,000戸規模のマンションの話。大きな縦揺れですべての家具や電化製品が倒れたり壊れたりして、部屋は瞬時に災害ゴミの山になってしまった。

追い打ちをかけるように、各住戸にある大型の電気温水器の多くが転倒し、マンション全体に漏水が発生。その漏水は、片付けられずにいたゴミの山の上にしたたり落ち、手が付けられない状態となる。

また、ポートアイランドは、三宮との道を繋ぐ交通手段がすべて寸断されていたため陸の孤島状態。避難しようにもマンションに残るしか方法はなかった。

そこで、民生委員でもあったY子さんが、マンションの管理組合・自治会を通じてボランティアメンバーを募集し、「お片付け隊」を組織。あっという間に約100名もの力強いメンバーが集まり、各住戸の災害ゴミの排出を開始した。

一日の作業後に行われるミーティングでは、各家庭でのゴミ以外の困りごとなども拾い上げ、ボランティア活動は徐々に幅を拡げていく。早々に、困りごと解決のための別動隊も発足させ、コミュニティ全体で家庭ごとのきめ細かい支援活動をスタートさせていった。

現在では築40年を超えたが、その時のボランティア組織の流れは続き、今は高齢者支援を中心に活動している。


震度7クラスの揺れでは、マンション内の家具や家電が、災害ごみの状態になってしまうことも多い。自宅マンションで避難生活期を送るにも、まず、最初に取り掛かるのは「片付け」だ。

行政によっても異なるが、基本は災害ごみも分別が必要で、通常のごみ集積所(マンションの場合はゴミ置き場)に出しても持って行ってもらえず、一時集積所に持って行く必要がある。

熊本地震の際は、震災後、早いタイミングで災害ごみの集積が始まったが、マンションのごみ置き場に生ごみなどの生活ごみと一緒に廃棄されたケースも多く、回収が進まなかったマンションも多かった。

災害ごみも含め、ゴミ出しのルールはマンションの管理に直結する問題であるだけに、管理組合全体で徹底することはもちろん、搬出のための助け合いなどは欠かせない。

まとめ

さて5つの事例を提示してみた。取材を通じて本人から直接聞いた話や、伝え聞いた話を筆者なりの言葉でまとめたものだ。

防災には、自助・共助・公助の3つがある。むろん発災期に身を守るのは自分自身であり自助が大切になる。被災生活期で不可欠な“備え”も自助によるところは大きい。

しかし、要支援者は手助けが必要になるし、“備え”きれない想定外の事態も発生する。特に共同住宅であるマンションは、共助というよりは、“近所力”を発揮すべきだろうし、またその後の生活復興のためには、マンション自体の復興をどうしていくかを全員で合意していかなくてはならない。

マンションの防災を考えるとき、この“近所力”は欠かせないものなのだろう。

丸山 肇
執筆者丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

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