「何もしない、何も決めない理事会」の向かう先とは?!

高齢化社会管理規約・細則理事会・総会
「何もしない、何も決めない理事会」の向かう先とは?!

ある高齢の理事長のボヤキだ。

「私に代わって理事長を引き受けてくれる人がいない。賃貸化も進み、居住者も私同様に高齢者が多く致し方ないとはいえ、理事長職を続けて10年。マンションには課題も多く、管理費滞納の裁判など私には荷が重すぎる。妻に先立たれ独り暮らしも長い。そろそろ介護の整った施設に入居したいのだが……」

これが、高経年マンションによくありがちな役員のなり手不足の一端だ。

築年の浅いマンションでも、理事がいないのと変わらないような状況に陥ることがある。
「輪番だからやむを得ず理事になってしまった。何をすればいいのかよく分からないし、任期が明けるのをひたすら待つことにしよう」

そんな人ばかりの理事会だったら、管理会社任せの“主体性のかけらもない運営”ということになりかねない。さらには、期が代わり新たに就任した理事も同様に何もしない・何も決めないということが続いていくなら、あなたのマンションはどうなっていくのだろうか。

理事会運営方式を全うする大変さ

私たちが一般的に行っている運営方式は、総会で決定したことなどを執行する理事会のメンバーを区分所有者の中から選出し、その中から理事長を決める「理事会運営方式」だ。

平たく言えば、組合員が民主的に運営を担う人=理事を選出し、理事はその役割を全うするわけだ。当然、理事のみなさんは、管理の幅広い知識を身に付ける必要があるだろうし、真摯に執行にあたることが前提となっている。理事を選ぶ方も選ばれた方も、主体的にマンション管理に向き合うことで成り立つ運営方式ということになる。主体的に向き合うとは、理想的で素晴らしい方式であることは間違いない。

また、すべてのマンションが、先の悲観的な例の様に、何もしない・何も決めない“主体性のかけらもない運営”になるわけではないだろう。管理組合の役員になった以上は、その責任を果たそうと一生懸命に努める人も多い。実際、マンション管理のセミナーには多くの方にご参加いただいており、ほかにもさまざまな相談が寄せられている。頭が下がる想いだ。

しかし、このように真摯に取り組む人々にとっても大きなハードルとなるのが、マンション管理で求められる専門性だ。専門性をもって取り組まない限りは、理事会でも空回りの議論が続くだろう。落としどころのない対立で険悪になるかもしれないし、対立を恐れて意見を述べない人も出てきそうだ。

分野は違っても建築や法律などの基礎があれば管理の専門性は身に付けやすいかもしれないが、それでも何期か役員を続けトレーニングを重ねる必要もあるだろう。

さらに問題は、管理知識だけではなく、適切な運営の仕方を身に付ける必要があるということだ。説明責任を全うする姿勢、合意形成を図るための配慮、さまざまな想いを受け止める力を持っていて初めて、住民全体が納得する“民主的な運営”が可能となる。

そして、それらを自身の仕事やプライベートの時間を割いてまで行わなければならないとなると、あまりに荷は重く大変なことであるのは間違いない。

複数の人が所有し住まう共同住宅、それがマンション。それゆえにマンション運営は難しい。特定の人に負担が偏り、管理の形骸化が進めば、経年と共にほころびも生じ、のっぴきならない問題も噴出してしまうかもしれない。

つまり、理事会運営方式の原点ともいえる“自治の理想”と実態の間では大きな乖離があるということだ。もちろん、管理会社やマンション管理士のサポートに期待することも可能だが、本当にそれだけで深い溝を埋めることができるのだろうか。

理事会運営方式が良いか悪いかといった議論はさておき、理事のなり手不足問題を発端に外部専門家の活用策のひとつとして議論されてきた“第三者管理者方式”について考えてみよう。

第三者管理者方式の誤解

国土交通省が示す標準管理規約は理事会運営方式を前提に作られている。この方式でやれと国が決めているといった誤解もあるようだが、標準管理規約はそもそも法律ではない。あくまでも例示であり、理事会運営方式で標準化したということに過ぎない。

区分所有法では「管理者を置くことができる」とある。ここでいう管理者は、区分所有者でなくてはならないとは書いておらず、誰でもなれるのだ。また管理組合法人は別として、理事会や理事長という言葉さえ同法にはない。つまり、理事会運営方式にするか、外部の誰かに管理者を任せる第三者管理者方式にするかは、それぞれのマンションの管理規約で定めることになる。
一方で、第三者管理者方式にすれば理事等の組合役員にならなくて済む、専門家に任せておけば無条件で安心できる、というのも誤解である。

そもそも、第三者管理者方式は外部専門家の活用策の一つとして議論されてきた。
①    外部専門家が管理者にならずとも理事や監事になる方式
②    区分所有者で理事会を構成するが、理事長は外部専門家にお願いする方式
③    管理者として外部専門家を迎え入れるが、その管理者を監査するために理事会を設ける方式

ここで上げた①は外部専門家の活用策だが、②③は外部専門家が管理者になる第三者管理者方式である。より確かな知識や合意形成に持ち込む力を期待し外部専門家に依頼しつつも、管理組合運営を形骸化させないために、区分所有者からも複数名の理事を立てて管理の執行を監査する、もしくは一緒にやっていくというやり方だ。つまり、第三者管理者方式にすれば理事等の役員にならなくて済む、とは限らない。

これらに加え、もう一つやり方がある。

④    外部専門家が管理者となるが、理事会は作らず監査機能は総会に集約する方法

管理者は総会で決議したことを執行し、執行した結果を総会で報告することになる。いわば総会が監査する場ということなのだが、事前に帳簿や執行内容などの詳細を確認する役割、いわゆる監事を区分所有者の中から選出する必要がある。

また、素人がプロを監視するのでは不十分だという考えもあるだろう。さらに別の外部専門家に監査役を依頼する必要もあるだろう。こちらも責任や業務の範囲は小さくなり少人数で済むことにはなるが、この場合も区分所有者全員が組合役員にならなくてよいということではない。

専門家に任せておけば無条件で安心というのも大きな勘違いだ。

区分所有者や管理組合に管理の責任がなくなるわけではない。むしろ、区分所有者の管理への関心を低下させず、管理者の業務執行状況をしっかりと全員でチェックしていくことが大切になる。

具体的には、区分所有者全員が総会議案書をしっかり読み込み理解する。必要に応じて管理者に説明を求め、議案の賛否を判断していく必要があるのだ。区分所有者としての責任や、居住価値の高いマンションを目指すという管理組合の命題は何も変わらない。理事会運営方式で課題とされてきたマンション管理の専門性を補強し、よりスムーズに合意形成を図るために専門家の力を活用する方法のひとつ、それが第三者管理者方式なのだ。

この方式を、合理的で確かなものにできるかは、区分所有者全員の意識にかかっているということは間違いない。

第三者管理者方式で気を付けるべきポイント

ここ最近では、新築分譲マンションの売り出し時点から第三者管理者方式で販売するケースが出てきた。こういったケースは今後主流となる可能性も十分にある。近い将来、「管理方式の転換点」といわれる時が来るかもしれない。

新築の動きに触発され、単に理事のなり手不足ではなくマンション管理の合理性を求めて既存マンションを第三者管理者方式に変更するケースも増えてくる可能性がある。今後、変更にあたっての注意ポイントを整理しておこう。

1.    管理規約
理事会運営方式から第三者管理者方式に変更する場合は管理規約の改正が必要になるが、先に上げた①〜④のどのパターンを採用するかによっても改正内容は変わってくる。また、変更してもうまくいかず理事会運営方式に戻すことも考えられる。その際、組合員の総会招集権において1/5同意を緩和しておくなど、戻しやすくしておく必要もあるだろう。
また、外部管理者の選任・解任方法も規約にて明記しておくべきだろう。

2.    費用の負担と第三者管理者の役割の明確化
これまでの場合、区分所有者の中から役員を選任するケースでは総会議案書に理事候補の氏名が記載され、可決されれば総会議事録に残されることになり契約書の類は存在しない。総会で管理者を定めその者が受任すれば契約自体はすぐに成立するが、外部の専門家が“業”として第三者管理者を請けることを考えれば、契約書などでその費用や役割を明記しておくべきではないかと思う。特に役割についてはその責任は重く、また齟齬も生じやすい。管理者になった外部専門家においてもSLA(Service Level Agreement=サービスレベル合意書)を用意してしかるべきなのではと考える。

3.    チェック体制・欠格要件など
外部管理者の取引の健全性の確保(利益相反行為の排除)、金銭事故や財産毀損の防止などのチェック体制、補償の担保と補償能力などの欠格要件、継続性の確保のための外部管理者の補欠ルール等が必要になる。
例えば、利益相反行為でいえば外部専門家が個人であるか管理会社等であるかに関わらず、民法108条の理解が大切になる。またチェック体制では、監査する者の関連法規等に準じての監査要領が問われる。補償能力は保険や事業母体の体力や姿勢なども確認する必要もあるだろう。

先にも述べたように、区分所有者としての責任や居住価値の高いマンションにしていくという管理組合の命題は何も変わらない。第三者管理者方式は、専門家の力を活用するためのひとつの方法ということになる。ここに挙げた注意ポイントなどを意識して区分所有者が主体的に判断していくことが大切なのではないかと思う。

しかし、これらのチェックは難易度が高いのも事実だろう。私個人としては、第三者として管理者を“業”とする者に対しての業者法なりを整備する必要があると思っている。
私自身、今までのマンション問題の解決が“後手”に回り続けたことに慣れ過ぎてしまったことを反省しつつ、今こそ“先手”を打つ必要がある気がしてならない。

問題を抱えるマンションは、何もやらなければそのまま退化していくことになる。一方で、深く考えずに第三者管理者方式に飛びつき、新たな問題を抱えることになっては意味がない。少なくとも先に上げた3点を真摯に考え、かつ担保できる専門家や法人と検討を進めてもらいたいと思う。

丸山 肇
執筆者丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

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